17,何も変わらない日々
一学期も残り半分ぐらいになりました。もう少しで今の時期になりますね。
でもこれは今年の話とかではないので、今の時期を過ぎてもどんどん進んでいきます。
席替えの翌日。
教室の窓から入る朝の風は、昨日と何も変わらなかった。
六月の柔らかい日差し。廊下から聞こえてくる運動部の朝練の声。友達同士の「おはよう」が飛び交う教室。
変わったのは、席だけだ。
白石美月は鞄を机の横に掛けると、つい隣を見てしまった。
まだ誰もいない。
昨日、席替えをしたばかりの新しい席。
後ろから二番目。
窓側から三列目。
その隣。
(……本当に隣なんだ。)
昨日のことを思い出す。
『しばらく隣だし。よろしく。』
たったそれだけの言葉。
何度も思い返してしまった自分に、少しだけ呆れる。
(ただの挨拶だったのに。)
そう思ったところで、教室の後ろの扉が開いた。
「おはよう。」
「……っ。」
神崎悠真だった。
いつも通りの表情で席に向かってくる。
「お、おはよう。」
「ん。」
短いやり取り。
それだけ。
神崎は鞄を掛け、教科書を机に置く。
白石も前を向いた。
会話は続かなかった。
でも、それでいい。
たぶん、これが普通だ。
◇◇◇
「じゃあ、教科書の四十八ページを開いて。」
一時間目。
教室には先生の声と、ページをめくる音が響く。
白石はノートを開きながら、ふと横を見た。
神崎はすでに板書を写し始めている。
迷いのない字。
無駄のないノート。
(相変わらずだなあ。)
別に、感心することじゃない。
神崎は頭がいい。
そんなことは入学してからずっと分かっている。
それでも。
(字、きれいなんだ。)
そんな新しい発見をしてしまう。
神崎は、もちろんそんなことには気づかない。
◇◇◇
「昼だー!」
「購買行くぞ!」
「急げ急げ!」
昼休みになると、教室は一気に騒がしくなった。
「美月、お弁当食べよ。」
「あ、うん。」
白石は女子たちと机を寄せる。
話題は授業のことだったり、部活のことだったり、体育祭の思い出だったり。
笑い声が絶えない。
その途中。
「桐生、パン買えた?」
「ギリギリ。」
「よく走ったな。」
「そりゃな。」
男子の笑い声が聞こえた。
神崎もその輪の中にいる。
普通に話して、普通に笑っている。
少しだけ、安心する。
少しだけ、寂しくなる。
(せっかく隣なのに。)
朝からちゃんと話したのは、『おはよう』だけだった。
(……何期待してるんだろ。)
白石は小さく首を振った。
こんなものだ。
隣になったからって、急に何かが変わるわけじゃない。
◇◇◇
「後ろに回して。」
五時間目。
先生が配ったプリントを、生徒たちが後ろへ回していく。
「はい。」
「ん。」
神崎が受け取り、後ろへ渡す。
それだけ。
指先が触れることもない。
特別な会話もない。
本当に、それだけだった。
◇◇◇
放課後。
チャイムが鳴る。
「部活行ってくる!」
「またな!」
「宿題忘れんなよー!」
いつもの放課後。
白石は教科書を鞄にしまった。
隣を見る。
神崎も帰る準備をしていた。
少しだけ迷う。
話しかけようか。
でも、何を?
そんなことを考えているうちに、神崎は立ち上がった。
「じゃ。」
「……あ。」
神崎は少しだけ振り返る。
「また明日。」
「……うん。」
白石は思わず笑った。
「また明日。」
神崎は軽く頷くと、そのまま教室を出ていった。
◇◇◇
帰り道。
白石は一人、夕暮れの道を歩いていた。
今日、一日を思い返す。
『おはよう。』
『また明日。』
話したのは、それくらい。
隣になったのに、何か特別なことがあったわけじゃない。
帰り道を一緒に歩いたわけでもない。
長く話したわけでもない。
それでも。
(……昨日より、少し嬉しかった。)
明日も学校に行けば、隣にいる。
何も話さないかもしれない。
『おはよう』だけかもしれない。
でも、それでいい。
少しずつでいい。
今までより、ほんの少しだけ近いこの距離が。
白石には、十分嬉しかった。
梅雨に入りましたね。2人が付き合っていたら相合傘させてたんだけど、、、
白石頑張れよ。
もうそろそろ考査です。
白石、惚れます




