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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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16,私の席

前の話に続きます。

 六月の朝。


 いつも通りのホームルーム前の教室は、いつもより少しだけ落ち着きがなかった。


「席替え、どこになるんだろうな。」


「一番前だけは嫌だ。」


「窓側がいい!」


「後ろの方だったら勝ち組だろ。」


 あちこちでそんな声が飛び交う。


 白石美月は鞄を机の横に掛けながら、昨日のことを思い出していた。


 席替えの紙。


 震える手。


 誰にも見られないように書いた五文字。


 どうせ希望通りにはならない。


 担任もそう言っていた。


 だから、大丈夫。


 そう思っていたのに、胸の奥は妙に落ち着かなかった。


「よし、できたぞ。」


 担任が席表を持ち上げる。


「前に貼るから、自分で確認しろ。」


「おおっ!」


 一斉に人が立ち上がった。


「押すなって!」


「見えねぇ!」


「お前背高いんだから後ろ行け!」


 白石は少し遅れて立ち上がる。


「美月、行こ。」


「う、うん。」


 友達に促されて教卓の前へ向かった。


 人の隙間から席表を見る。


 まず、自分の名前を探した。


 白石美月。


 窓側から三列目。


 後ろから二番目。


(あった……。)


 ほっとしたのも束の間、その隣の名前が視界に入った。


 神崎悠真。


「……え。」


「どうした?」


「ううん、なんでもない。」


 もう一度見る。


 白石美月。


 神崎悠真。


 何度見ても変わらない。


(本当に……?)


(隣……?)


 昨日の紙切れが頭をよぎる。


 参考程度。


 そう言っていたはずなのに。


 まさか、本当に。


「神崎、どこ?」


「そこ。」


「後ろじゃん。」


「いいなー。」


「隣誰?」


「白石。」


「へぇ。」


 男子たちの声が聞こえる。


 神崎は席表を見上げた。


 白石。


 最近は普通に話す相手だ。


 体育祭の後も、部活の話をした。


 昇降口で「また明日」と言い合った。


 入学した頃なら少し気まずかったかもしれない。


 でも今は。


「……別にいいか。」


 それだけだった。


◇◇◇


「移動するぞー。」


 教室が一気に慌ただしくなる。


 机を持ち上げる音。


 椅子を引く音。


「そこ通る!」


「ごめん!」


「危ない危ない!」


 白石は自分の机を抱え、新しい席へ向かった。


 後ろから二番目。


 窓際から三列目。


 机を置いて、そっと息を吐く。


(隣……。)


 視線を横に向けそうになって、慌てて前を見る。


(落ち着いて。)


(ただ隣になっただけ。)


(今までだって話してたじゃん。)


 そう自分に言い聞かせる。


「悪い。」


「え?」


 神崎が机を運んできた。


「あ、ごめん。」


 慌てて道を空ける。


「ん。」


 神崎は短く返事をして、隣に机を置いた。


 ガタッ。


 椅子に座る。


 教室のあちこちではまだ騒ぎが続いていた。


「近っ。」


「俺、前すぎる!」


「見えやすくていいじゃん!」


「嫌だ!」


 そんな声が飛び交う中。


 神崎は自分の机と白石の机を見比べた。


「……。」


「どうしたの?」


「狭いな。」


「え?」


「机。」


 見ると、通路側へ少し寄っていて、二人分の荷物を置くには窮屈そうだった。


「あ……。」


 白石が何か言う前に、神崎は机を少し持ち上げた。


「こうするか。」


 ガタッ。


 少しだけ位置をずらす。


 二つの机の間に、ほんの少し余裕ができた。


「これなら大丈夫だろ。」


「あ……ありがとう。」


「別に。」


 いつもの返事だった。


 白石は小さく笑う。


 本当に、神崎らしい。


「じゃあ席につけー!」


 担任の声が響く。


 少しずつ教室が落ち着いていく。


 神崎は前を向いた。


 白石も慌てて姿勢を正す。


 沈黙。


 黒板には今日の予定が書かれていく。


 もう、このまま授業が始まるのだと思った。


「……しばらく。」


「え?」


 白石が振り向く。


 神崎は前を向いたままだった。


「しばらく隣だし。」


「……。」


「よろしく。」


 何でもないような口調。


 特別な意味なんて、きっとない。


 隣になったクラスメイトへの、ただの挨拶。


 それだけ。


 それなのに。


 白石の胸は、少しだけ苦しくて、少しだけ温かかった。


「……うん。」


 白石は小さく頷いた。


「よろしく。」


 窓から吹き込んだ六月の風が、二人のプリントを揺らした。


 周囲ではまだ席替えの話で盛り上がっている。


 誰も、この短いやり取りを気に留めてはいない。


 でも。


 白石美月はきっと、今日のことを忘れない。


 机を少し動かしてくれたこと。


 「別に」と言ったこと。


 そして。


 『しばらく隣だし。よろしく。』


 たったそれだけの言葉を。


 帰り道に何度も思い出してしまうくらいには。


 六月の席替えは、ほんの少しだけ、二人の距離を変えたのだった。


こういう話の時って消しゴム落としたり、教科書忘れたりして仲良くなるじゃないですか。

でも、あんまりそんなところを見たことなかったので。実際僕自身もそんなことはなかったし。


この小説ではラブストーリー的にも現実的にも普通のことなんてしないので,また違った体験ができると思います!

(何を書いているんだ自分は)

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