15,席替えのとき
はい、席替えです。
やっぱいつの時代もこれが一番楽しみですよね。僕も毎回好きな人と近くに、強いて言うならとなりになりたいと思ってました。
完全くじはベタすぎるので、僕が経験したことのある方法にしてみました。
六月の午後。窓の外では、グラウンドから聞こえてくる運動部の掛け声が、初夏の空気に溶けていた。
「よし、今日は席替えをするぞ。」
担任の言葉に、教室の空気が一変する。
「やった!」
「窓側がいい!」
「一番後ろが当たりだろ!」
「いや、前の方が寝にくいから逆にいいって。」
あちこちで笑い声が上がる。いつもは眠そうにしている男子まで、こういう時だけは妙に元気だ。
白石美月は、そんな教室の騒がしさを眺めながら教科書を閉じた。
席替え。
たったそれだけのことなのに、どうしてみんなこんなに嬉しそうなんだろう。
「今回は少し変わった方法で決める。」
担任がプリントを配り始めた。
「この紙に、『近くになれたら頑張れる人』を二人まで書いてくれ。」
「え?」
「何それ。」
「気まずくない?」
「もちろん、必ずその通りになるわけじゃない。あくまで参考だ。名前を書かなかったから仲が悪いとか、書いたから特別ってわけでもない。深く考えなくていいからな。」
そう言われても、教室はしばらくざわついていた。
「俺、お前書くわ。」
「やめろ、責任重い。」
「テストできるやつの近くがいいな。」
「女子の名前書くやついる?」
「いないだろ。」
「だよな。」
神崎悠真は配られた紙を見下ろした。
近くになれたら頑張れる人。
何を基準に選べばいいのか分からない。
「神崎、誰書く?」
後ろの席の男子が身を乗り出してきた。
「知らん。」
「桐生とか?」
「かもな。」
「中山でもいいじゃん。勉強のライバルだろ?」
「……別に。」
「お前、それ便利な言葉だな。」
神崎は適当に受け流しながら、ペンを回した。
話しやすいやつ。
気を遣わなくていいやつ。
そんな相手なら何人か浮かぶ。
ただ、そこまで真剣に考えることでもない気がした。
教室の喧騒を聞き流しながら、神崎は空欄のまま紙を机に置いた。
一方で、白石は配られた紙を見つめていた。
真っ白な紙。
二つの記入欄。
「美月、誰書く?」
近くの女子が声をかける。
「私は〇〇ちゃんと△△ちゃんかな。」
「そうなんだ。」
「美月は?」
「まだ決めてなくて。」
「そっか。」
女子たちは楽しそうに話している。
「男子の名前とか書く人いるのかな。」
「いや、それは無理でしょ。」
「気まずいって。」
「だよね。」
白石は曖昧に笑った。
「うん……そうだね。」
手元の紙に視線を落とす。
一人目の欄には、仲の良い女子の名前を書いた。
問題は、その下だった。
空欄。
たった一つの空白。
そこに書く名前なんて、本当は最初から決まっていた。
でも。
シャープペンシルを持つ指先が止まる。
(普通、男子の名前なんて書かないよね。)
周囲の会話が頭の中で繰り返される。
(それに、神崎くんだって……。)
自分の名前を書くはずがない。
神崎にとって自分は、少し話すクラスメイトの一人だ。
体育祭で少し話して。
部活の話をして。
下駄箱で「また明日」と言い合った。
それだけ。
特別な関係じゃない。
(空欄でも、いいかな。)
どうせ希望通りになるとは限らない。
先生だってそう言っていた。
参考程度。
ただの紙切れ。
白石はシャープペンシルを置いた。
窓の外から吹き込む風が、プリントの端を揺らす。
何気ない放課後。
何気ない席替え。
なのに、どうしてこんなに悩んでいるんだろう。
ふと、思い出す。
歓迎遠足の日。
雨で中止になった時のこと。
体育祭で、他の女子と話している姿を見て少しだけ胸が痛かったこと。
部活へ向かう前に交わした「頑張って」。
昇降口で言われた「また明日」。
たった一言なのに、その日の帰り道が少し嬉しくなったこと。
(……近くだったら。)
もし。
もう少しだけ話せたら。
プリントを渡す時に、一言二言話せたら。
今より少しだけ、神崎のことを知れたら。
(頑張れる、のは本当だから。)
好きだから書きたいわけじゃない。
いや、好きだからこそ書けない。
でも。
この小さな紙の上くらい、自分に嘘をつきたくなかった。
白石は小さく息を吐いた。
誰も見ていない。
誰も気づいていない。
教室ではまだ笑い声が続いている。
もう一度、シャープペンシルを握る。
ほんの少しだけ震える指先で。
丁寧に。
誰にも見せない気持ちを、たった四文字に込めるように。
―――神崎悠真―――
今までは一日に二話の投稿だったのですが,明日からは一話ずつにしようと考えています。
毎日18時ごろに投稿する予定です。
席替えの結果楽しみですね♪まぁ予想はついていると思いますが。




