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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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15/26

15,席替えのとき

はい、席替えです。


やっぱいつの時代もこれが一番楽しみですよね。僕も毎回好きな人と近くに、強いて言うならとなりになりたいと思ってました。


完全くじはベタすぎるので、僕が経験したことのある方法にしてみました。

 六月の午後。窓の外では、グラウンドから聞こえてくる運動部の掛け声が、初夏の空気に溶けていた。


「よし、今日は席替えをするぞ。」


 担任の言葉に、教室の空気が一変する。


「やった!」


「窓側がいい!」


「一番後ろが当たりだろ!」


「いや、前の方が寝にくいから逆にいいって。」


 あちこちで笑い声が上がる。いつもは眠そうにしている男子まで、こういう時だけは妙に元気だ。


 白石美月は、そんな教室の騒がしさを眺めながら教科書を閉じた。


 席替え。


 たったそれだけのことなのに、どうしてみんなこんなに嬉しそうなんだろう。


「今回は少し変わった方法で決める。」


 担任がプリントを配り始めた。


「この紙に、『近くになれたら頑張れる人』を二人まで書いてくれ。」


「え?」


「何それ。」


「気まずくない?」


「もちろん、必ずその通りになるわけじゃない。あくまで参考だ。名前を書かなかったから仲が悪いとか、書いたから特別ってわけでもない。深く考えなくていいからな。」


 そう言われても、教室はしばらくざわついていた。


「俺、お前書くわ。」


「やめろ、責任重い。」


「テストできるやつの近くがいいな。」


「女子の名前書くやついる?」


「いないだろ。」


「だよな。」


 神崎悠真は配られた紙を見下ろした。


 近くになれたら頑張れる人。


 何を基準に選べばいいのか分からない。


「神崎、誰書く?」


 後ろの席の男子が身を乗り出してきた。


「知らん。」


「桐生とか?」


「かもな。」


「中山でもいいじゃん。勉強のライバルだろ?」


「……別に。」


「お前、それ便利な言葉だな。」


 神崎は適当に受け流しながら、ペンを回した。


 話しやすいやつ。


 気を遣わなくていいやつ。


 そんな相手なら何人か浮かぶ。


 ただ、そこまで真剣に考えることでもない気がした。


 教室の喧騒を聞き流しながら、神崎は空欄のまま紙を机に置いた。


 一方で、白石は配られた紙を見つめていた。


 真っ白な紙。


 二つの記入欄。


「美月、誰書く?」


 近くの女子が声をかける。


「私は〇〇ちゃんと△△ちゃんかな。」


「そうなんだ。」


「美月は?」


「まだ決めてなくて。」


「そっか。」


 女子たちは楽しそうに話している。


「男子の名前とか書く人いるのかな。」


「いや、それは無理でしょ。」


「気まずいって。」


「だよね。」


 白石は曖昧に笑った。


「うん……そうだね。」


 手元の紙に視線を落とす。


 一人目の欄には、仲の良い女子の名前を書いた。


 問題は、その下だった。


 空欄。


 たった一つの空白。


 そこに書く名前なんて、本当は最初から決まっていた。


 でも。


 シャープペンシルを持つ指先が止まる。


(普通、男子の名前なんて書かないよね。)


 周囲の会話が頭の中で繰り返される。


(それに、神崎くんだって……。)


 自分の名前を書くはずがない。


 神崎にとって自分は、少し話すクラスメイトの一人だ。


 体育祭で少し話して。


 部活の話をして。


 下駄箱で「また明日」と言い合った。


 それだけ。


 特別な関係じゃない。


(空欄でも、いいかな。)


 どうせ希望通りになるとは限らない。


 先生だってそう言っていた。


 参考程度。


 ただの紙切れ。


 白石はシャープペンシルを置いた。


 窓の外から吹き込む風が、プリントの端を揺らす。


 何気ない放課後。


 何気ない席替え。


 なのに、どうしてこんなに悩んでいるんだろう。


 ふと、思い出す。


 歓迎遠足の日。


 雨で中止になった時のこと。


 体育祭で、他の女子と話している姿を見て少しだけ胸が痛かったこと。


 部活へ向かう前に交わした「頑張って」。


 昇降口で言われた「また明日」。


 たった一言なのに、その日の帰り道が少し嬉しくなったこと。


(……近くだったら。)


 もし。


 もう少しだけ話せたら。


 プリントを渡す時に、一言二言話せたら。


 今より少しだけ、神崎のことを知れたら。


(頑張れる、のは本当だから。)


 好きだから書きたいわけじゃない。


 いや、好きだからこそ書けない。


 でも。


 この小さな紙の上くらい、自分に嘘をつきたくなかった。


 白石は小さく息を吐いた。


 誰も見ていない。


 誰も気づいていない。


 教室ではまだ笑い声が続いている。


 もう一度、シャープペンシルを握る。


 ほんの少しだけ震える指先で。


 丁寧に。


 誰にも見せない気持ちを、たった四文字に込めるように。


 ―――神崎悠真―――


今までは一日に二話の投稿だったのですが,明日からは一話ずつにしようと考えています。

毎日18時ごろに投稿する予定です。

席替えの結果楽しみですね♪まぁ予想はついていると思いますが。

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