14,たった一言
神崎がめっちゃ活躍します。
いや、活躍と言っていいのかこれは?
数学の小テストの話です。めっちゃ高得点です。
六月に入った。
体育祭の熱気はすっかり落ち着き、青峰高校はいつもの日常を取り戻していた。
授業を受けて、休み時間に他愛もない話をして、放課後になればそれぞれの部活へ向かう。
そんな毎日が、少しずつ当たり前になっていく。
「うわ、数学の小テスト返ってきた。」
「終わった。」
「いや、お前八十点あるじゃん。」
「神崎、何点?」
「九十八。」
「は?」
「え?」
「人間?」
「二点落としてるのが逆に怖い。」
「……。」
教室に笑い声が広がる。
神崎は返却された答案を見つめた。
ケアレスミスだった。
「神崎くん。」
「ん?」
「惜しかったね。」
隣ではない。少し離れた席から、白石がこちらを見ていた。
「……まあ。」
「私、七十八点だった。」
「結構高いな。」
「本当?」
「平均より上だろ。」
「そっか。」
白石は嬉しそうに答案を見下ろした。
たったそれだけの会話だった。
でも。
神崎に褒められたことが、なぜか一日中頭から離れなかった。
◇◇◇
放課後。
「ありがとうございました!」
卓球場に声が響く。
神崎はラケットを片付けながら小さく息を吐いた。
「神崎。」
「はい。」
「来週、練習試合あるからな。」
「分かりました。」
「期待してる。」
「……はい。」
短いやり取りを終え、部室を出る。
外はまだ明るい。
夕方独特の、少し湿った風が吹いていた。
一方その頃。
「ありがとうございました。」
弓道場でも挨拶が響いていた。
「美月、お疲れ。」
「お姉ちゃんも。」
「最近どう?」
「最近?」
「学校。」
「……普通。」
「本当に?」
「本当に。」
「ふーん。」
春乃はにやりと笑った。
「神崎くんとは?」
「なんでそこでその名前出すの!?」
「図星なんだ。」
「もう!」
「ごめんごめん。」
春乃は笑いながら弓道場を後にした。
白石は熱くなった頬を押さえる。
「……普通、だもん。」
本当に。
まだ、普通のクラスメイトだ。
少し話すようになっただけ。
それだけなのに。
名前を聞くだけで、こんなにも落ち着かなくなる。
◇◇◇
昇降口。
下駄箱の前には、帰宅する生徒たちが集まっていた。
「また明日!」
「バイバーイ!」
「テスト勉強やばい!」
賑やかな声が飛び交う。
白石は靴を履き替えながら、小さくため息をついた。
「疲れた……。」
「何が?」
「ひゃっ!?」
突然聞こえた声に、白石は肩を震わせた。
「神崎くん……。」
「驚きすぎだろ。」
「びっくりしたの。」
「そうか。」
神崎は当たり前のように靴を履き替える。
沈黙。
けれど、嫌な空気ではない。
「部活。」
「うん?」
「どうだった。」
「あ、弓道?」
「うん。」
「難しい。」
「へえ。」
「でも楽しいよ。」
「そうか。」
「神崎くんは?」
「卓球。」
「楽しい?」
「……嫌いじゃない。」
「ふふ。」
「なんだよ。」
「神崎くんって、好きなものを好きって言うの苦手だよね。」
「別に。」
「ほら。」
「……。」
「でも。」
白石は少しだけ笑った。
「嫌いじゃないって言う時の神崎くん、結構好き。」
「……何が。」
「なんとなく。」
「意味分からん。」
そう言いながらも、神崎は怒った様子はなかった。
昇降口を出る。
六月の夕方。
西日に照らされた校庭の向こうから、野球部の掛け声が聞こえる。
「じゃあ。」
「うん。」
「また明日。」
「……おう。」
たったそれだけ。
ただ、 『また明日』という言葉には、不思議な温かさがあった。
明日も学校に来れば会える。
明日も、少しだけ話せるかもしれない。
白石は小さく微笑んだ。
「……また明日、か。」
その一言だけで、帰り道が少しだけ軽くなる。
夕焼けに染まる通学路を歩きながら、白石は胸の奥に芽生えた想いをそっと抱きしめた。
六月の風は、もうすぐ訪れる梅雨の気配を運んでいた。
そして二人の高校生活もまた、静かに次の季節へと進んでいくのだった。
学生の時って、小テストがめっちゃ難しい時があるんです。
単元の終わりだから単元テストって言ったほうがいいのかな?
このときにみんな必死になって勉強していて、「いままでの学校と気合の入り方が違うなぁ」
って毎回思ってました。
次の話がめっちゃ大事です。




