表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/24

13,ラケットの音、弓の音

同じ時間に二話投稿しています。時系列がおかしくなるので、先に12話の方を読んでください


部活の様子も書いていかないとね。単純なラブコメディにするつもりはないので。

でも、結局そっち系につなげてしまうのが良くないところだと思っています。

 放課後を告げるチャイムが鳴った。


 教室のあちこちで椅子を引く音が重なる。


「じゃあなー!」


「部活行ってくる!」


「腹減った……。」


 いつもの帰りの挨拶が飛び交う中、神崎悠真は机の横に掛けていた鞄を肩にかけた。


 今日から、本格的な部活動が始まる。

昇降口へ向かう廊下は、どこか浮き足立っていた。


仮入部期間を終え、正式に部活動が始まったばかりの一年生たちは、それぞれの居場所へと足を向けていく。


運動部の掛け声。吹奏楽部の音合わせ。文化部の勧誘ポスター。体育祭の熱気が過ぎ去った校舎は、今度は「放課後の顔」を取り戻しつつあった。


「神崎くん。」


 後ろから声を掛けられた。


 振り返ると、白石美月がいた。


「今から部活?」


「そうだけど。」


「卓球部?」


「うん。」


「そっか。」


 白石は少しだけ制服の袖を握った。


「私も。」


「弓道?」


「うん。」


「そうか。」


 ほんの数秒の会話。


 それでも、以前ならなかったやり取りだった。


「頑張って。」


「……お前も。」


「ふふ、ありがとう。」


 白石は嬉しそうに笑うと、軽く会釈して廊下の向こうへ駆けていった。


 神崎はその背中を見送り、しばらくして歩き出した。


「……頑張って、か。」


 誰に言われたのか。


 それを考えて、少しだけ不思議な気持ちになった。


◇◇◇


「一年! まずは準備運動!」


「はい!」


 卓球部の練習場には、軽快なラケットの音が響いていた。


 パシッ。


 パシッ。


 小さな白球が卓球台の上を行き来する。


「神崎、経験者?」


「少し。」


「少し、ねぇ……。」


 先輩は苦笑した。


「じゃあ打ってみろ。」


「はい。」


 神崎はラケットを受け取る。


 台の前に立ち、構える。


「いくぞ。」


 先輩のサーブ。


 鋭い回転。


 しかし。


 パシッ。


 返した。


 もう一球。


 パシッ。


「お。」


 三球目。


 四球目。


「……。」


 五球目。


 パシンッ。


 先輩の球がネットにかかった。


 静かになる卓球場。


「……少し?」


「少しです。」


「嘘つけ。」


 周囲から笑いが漏れた。


「神崎、お前絶対レギュラー候補だろ。」


「まだ分からないです。」


「真面目か。」


 再びラケットの音が響き始める。


 神崎は表情を変えない。


 けれど。


 その瞳だけは、ほんの少し楽しそうだった。


◇◇◇


 一方その頃。


 校舎の反対側にある弓道場。


 静かな空気が流れていた。


「一年生はこっちね。」


「はい。」


 木の床。


 整然と並ぶ弓。


 独特の緊張感。


 体育館とも、教室とも違う空気。


「まずは礼儀作法から。」


「お願いします。」


 白石は背筋を伸ばした。


「……緊張する。」


「大丈夫?」


 隣の一年生が小声で尋ねる。


「う、うん。」


 本当は少しだけ緊張していた。


 そんな時だった。


「美月。」


「え?」


 聞き慣れた声。


「お姉ちゃん。」


 白石春乃が歩いてきた。


 ポニーテールを揺らしながら、柔らかく笑う。


「弓道部へようこそ。」


「……よろしくお願いします。」


「そんな固くならなくていいよ。」


 春乃はくすりと笑った。


「どう? 後悔してない?」


「まだ分からない。」


「正直でよろしい。」


「でも。」


「うん?」


「……ちょっと楽しみ。」


 その言葉に、春乃は嬉しそうに目を細めた。


「それなら大丈夫。」


「え?」


「弓道ってね、楽しいだけじゃ続かないの。」


 道場の奥を見つめながら言う。


「悔しい日もあるし、上手くいかない日もある。」


「……。」


「でも、『もっと上手くなりたい』って思える人は強いよ。」


「……。」


「美月はそういうタイプだと思う。」


「私が?」


「うん。」


 春乃は笑った。


「頑張り屋さんだから。」


 白石は少し照れくさそうに俯いた。


◇◇◇


 夕方。


 窓の外はオレンジ色に染まり始めていた。


 卓球場では、最後のラリーが続いている。


「神崎、ラスト一本!」


「はい。」


 パシッ。


 パシッ。


 パシンッ。


「そこまで!」


「ありがとうございました!」


 一斉に頭を下げる。


 その声が響いた頃。


 弓道場でも。


「ありがとうございました。」


 静かな挨拶が交わされていた。


 白石は息を吐く。


「疲れた……。」


「お疲れ。」


 春乃が笑う。


「どうだった?」


「難しかった。」


「うん。」


「でも。」


「でも?」


「またやりたい。」


 その答えに、春乃は満足そうに頷いた。


◇◇◇


 校門へ向かう生徒たち。


 運動部の声。


 吹奏楽部の音。


 笑い声。


 初めての部活動を終えた高校生たちの顔は、どこか誇らしかった。


 神崎は鞄を持ち直す。


 白石は制服の襟を整える。


 今日、二人が顔を合わせることはなかった。


 ただ、それぞれの放課後に、新しい居場所ができた。


 ラケットを握る時間。


 弓を引く時間。


 そこで出会う人たち。


 そこで積み重ねる努力。


 五月の風が、少しだけ心地よかった。


うちの学校の部活はこんな感じでしたが、他の学校と違う部分があるかもしれません。

おかしな点があったら教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ