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君を好きになるのは、一週間だけのはずだった。  作者: 松茸の香料
第一章 青に染まるまで

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10/15

バトン

いよいよ体育祭の花形、リレーの時が来ました。


いつもにまして改行多めですw

読みにくいかもしれませんが、ぜひ最後まで読んでください

 午後の陽射しは、午前よりも強かった。


 空は高く。


 白い雲がゆっくりと流れていく。


 グラウンドの土は熱を帯び、風が吹くたびに細かな砂埃が舞った。


 昼休みの余韻は、もうない。


 全員リレー。


 体育祭最後の大きな種目。


 テントの下にいた生徒たちが、次々とトラックの周りへ集まっていく。


 歓声が大きくなる。


 名前を呼ぶ声。


 応援団の太鼓。


 誰かの笛。


 心臓の鼓動。


 それらが混ざり合って、グラウンド全体を震わせていた。


『一年生全員リレーの選手は、入場門前へ集合してください。』


 放送が響く。


 白石美月は、ぎゅっとバトンを握った。


 軽いはずなのに、妙に重く感じる。


「……。」


 緊張していた。


 昼休み。


 自分の気持ちに気づいてしまったからなのか。


 それとも。


 ただ本番だからなのか。


 分からなかった。


「大丈夫?」


 隣の女子が聞く。


「うん。」


 嘘だった。


 でも。


「楽しもう。」


「……うん。」


 それも本当だった。



 神崎悠真は、アンカーの少し前。


 走順表を確認する。


 特別な感情はない。


 ただ。


 負けるのは嫌だった。


 それだけだった。


「神崎。」


 桐生蓮が隣に立つ。


「負けるなよ。」


「そっちこそ。」


「言うじゃん。」


 桐生は笑った。


「本気で行くから。」


「ああ。」


 短いやり取り。


 それだけで十分だった。



 スタートライン。


 静寂。


『位置について。』


 息を呑む音。


『よーい。』


 空気が張り詰める。


 そして。


 パンッ!


 号砲。


 一斉に飛び出した。



 歓声。


 土を蹴る音。


 バトンが揺れる。


 叫ぶ声。


「いけー!」


「頑張れー!」


「抜ける!」


「前!」


 速い。


 速い。


 速い。


 先頭が変わる。


 順位が入れ替わる。


 ほんの数秒で景色が変わっていく。


 誰かが追い抜き。


 誰かが抜き返す。


 バトンは繋がる。


 ひとりじゃない。


 全員で繋ぐ。



「白石!」


 名前を呼ばれた。


 振り返る。


 伸ばされた手。


 バトン。


「っ!」


 受け取る。


 走る。


 風が頬を打つ。


 応援の声が聞こえる。


 苦しい。


 足が重い。


 でも。


 止まれない。


「頑張れー!」


「白石ー!」


 聞こえる。


 誰かが自分を呼んでいる。


 前だけを見る。


 腕を振る。


 息を吸う。


 吐く。


 そして。


「お願い!」


 次へ。


 バトンを託した。


 手の中から離れていく感覚。


 思わず振り返る。


 繋がった。


 ちゃんと。


 繋がった。



 歓声がさらに大きくなる。


 一年三組。


 一年二組。


 一年一組。


 競り合う。


 そして。


「桐生だ!」


 どよめき。


 桐生蓮が飛び出した。


 速い。


 圧倒的だった。


 フォームが崩れない。


 風を裂く。


 差が縮まる。


 抜く。


 前へ。


 ただ前へ。


 歓声が爆発する。


「すげぇ……。」


「速っ。」


「やばい!」



 神崎は待っていた。


 伸ばされた手。


 近づいてくる足音。


「神崎!」


 バトン。


 受け取る。


 走る。


 地面を蹴る。


 歓声が遠ざかる。


 景色が流れる。


 風の音。


 呼吸。


 鼓動。


 前の背中。


 追う。


 追いつく。


 並ぶ。


 抜く。


 歓声。


 叫び声。


 腕を振る。


 足を出す。


 まだ。


 まだ。


 まだ。


 止まるな。



 応援席。


 白石は立ち上がっていた。


「神崎くん……!」


 思わず声が漏れる。


 速かった。


 勉強だけじゃない。


 普段の無愛想な姿とも違う。


 真っ直ぐだった。


 前だけを見て。


 誰よりも本気で。


 走っていた。


 その姿に。


 胸が高鳴る。



 最後のバトン。


 アンカー。


 歓声。


 悲鳴。


 祈る声。


 笑う声。


 全部が混ざる。


 そして。


 ゴールテープが揺れた。



「はぁ……っ。」


「やばい……。」


「無理……。」


「疲れたぁ!」


 グラウンドに座り込む生徒たち。


 悔しそうな顔。


 笑っている顔。


 泣きそうな顔。


「二位だって!」


「惜しかった!」


「あとちょっとだったのに!」


「でも楽しかった!」


「悔しいー!」


 一年一組は二位だった。


 優勝には届かなかった。


 あと少し。


 本当にあと少し。


 だからこそ。


 悔しかった。


 でも。


 誰も俯いてはいなかった。



「お疲れ。」


 息を整えながら。


 神崎が言った。


「……うん。」


 白石は顔を上げる。


「お疲れ様。」


 短い言葉。


 それだけだった。


 でも。


 昼休みに気づいてしまった気持ちのせいか。


 その一言だけで。


 心臓が、跳ねた。


「……。」


「どうした。」


「なんでもない。」


「そうか。」


「うん。」


 神崎はそれ以上聞かなかった。


 また、いつものように。


 それなのに。


 白石は小さく俯く。


 頬が少し熱かった。



 体育祭は、もうすぐ終わる。


 歓声はまだ続いている。


 白線は少しずつ消えていく。


 でも。


 あのバトンの重さも。


 風を切る感覚も。


 誰かに繋いだ手の温度も。


 きっと忘れない。


 高校一年生の五月。


 全員で繋いだバトンは、確かにゴールへ届いた。


 そして。


 白石美月の恋もまた。


 静かに、確かな形を持ち始めていた。


もうそろそろ体育祭が終わってしまいます。

体育祭編が終わったら、二人はもっとつながりを持つことになるので楽しみに待っていてください。


感想なども書いていただけると幸いです。


題名の一週間はまだまだ先になります。

いつになるのか、どんな一週間なのか楽しみにしていてください。

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