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怪盗少女ビヨンド   作者: Melon
第4章 暴走

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英雄

 一方その頃。



 森の入口で、馬に乗っているラッティは巨人を見つめていた。


「あそこら辺って、フェルノアとビヨンドちゃんが任務で向かった場所だったはず......」


「ビヨンドさんたち、大丈夫でしょうか......?」


「さぁね。もしかしたら、もう潰されているかも......」


 その後ろで、同じように馬に乗ったレパールとクレナイが、そう呟いた。


「コラ! 不穏なこと言わないの!」


「ご、ごめんなさい......」


「それより、これから森を駆け抜けるよ!木の枝とかにぶつかっても、絶対に手綱を手放さないでね! それじゃ、行くよ!」


 ラッティが口笛を吹くと、ラッティたちを乗せた馬が一斉に走り始めた。


「きゃあ! 虫が顔にっ!」


 木の上から糸を伝って降りてきた蜘蛛を、勢いよく投げ捨てる。


「うぅ......。早く抜けたいわね......」


「そうだね。今の二人だろうと、流石にあいつを倒すのは難しそうだし......」


「ラッティさん。何か良さそうな方法はあるんですか?」


「あるよ。だからこそ、学園の宝物庫を必死に漁ったんだから」


 ラッティは馬のしっぽ付近に乗せている袋を漁る。

 そして、金で作られたクロスボウを取り出した。


「そ、それは......?」


「【破滅のバリスタ(バリスタオブルイン)】。どんな壁だろうと、建物だろうと、圧倒的な貫通力で貫く、最強の対人戦宝。王や軍師を暗殺し、敵国を破滅へと導いたとされる戦宝。こいつで、あいつをうまいこと撃ち抜けば......」


「そ、そんな戦宝が!?」


「ただ、この戦宝は反動が凄いらしくてね......。......使用者は、ほぼ間違いなく死ぬ」


「じゃあ、この中の誰かが犠牲に......?」


 その話を聞いて、動揺するレパール。


「レパールちゃん。落ち着いて。ほぼ、だから。この戦宝は、射撃した衝撃で地面に押し付けられて、体がぐしゃぐしゃになって死んじゃうの。ということは、周りに何もない場所から撃てば、撃ったことが原因の死から免れる。......一人いるでしょ? 何も無い、空から放てる怪盗が」


「ビヨンドさん......!」


「そう。あいつを倒せるかどうかは、ビヨンドちゃんにかかってる。だから、急がないと......!」


 ラッティは口笛を吹く。

 馬は限界まで加速し、勢いよく森を駆ける。

 枝で怪我をしないよう、顔を守りながら前を見る。


「見えた! 森の出口!」


 薄っすらと見える、森の出口。

 月光に照らされた、美しい草原。


 そこで、戦いが繰り広げられていた。

 とてつもなく大きな巨人と、その周囲に立っている巨人。

 その隙間から、見知った人物を発見する。


「いた! ビヨンドちゃん!」


「それと、他の誰かもいるけど......。誰かしら......?」


「って、テペア!? それと、ランディちゃんも!?」


「「えぇ!?」」


 ラッティは馬に止まるよう指示を出し、馬から降りる。

 レパールとクレナイもそれに続いて降りた。


「ラ、ランディ! 無事だったのね!」


「レパールさん! 感動するのは後です! それより今は、先ほどの武器をビヨンドさんに届けなければ......!」


 ラッティたちが話していると、巨人がラッティたちに気が付いたのか、睨みつけた。

 そして、ラッティたちの目の前に、自分の指を砕き、投げつける。


「な、なんでしょう......?」


 武器を取り出し、構えるクレナイ。

 目の前の岩は、形を変え、人型に変化する。


「......っ! 危ない!」


 人型に変化し、レパールのことを殴ろうとした岩の巨人の拳を、真剣で受け止めるクレナイ。


「くぅ......!」


「クレナイ!」


 必死に耐えるクレナイ。

 クレナイが持っている刀に、どんどん亀裂が走り始める。


「レパールさん! 逃げて!」


「え、ええ!」


 レパールが逃げるとほぼ同時に、クレナイの刀が折れる。

 クレナイはすぐに後ろへ後退し、拳を回避する。


「そんな......! 私の刀が......!」


 拳を地面から引き抜いた岩の巨人は、ラッティたちに近づく。


「邪魔されては、ビヨンドさんに武器を届けるなんて......」


「......レパールちゃん。レパールちゃんの武器って、ナイフ以外も操作できる?」


「え? できる......? のかしら?」


 それを聞いたラッティは、馬の元に戻り、先ほどの破滅のバリスタ(バリスタオブルイン)と紙を取り出す。

 その二つを、レパールへと投げ渡した。


「重っ......! えっ......!? なんで私に......。って、もしかして!」


「レパールちゃん頼んだよ! その紙と一緒に、ビヨンドちゃんに投げて!」


「こ、こんな重い物、試したことが無いから、できるか分かりませんよ!」


「早く!」


 ラッティの声に気圧され、レパールは戦宝を持ち、振りかぶる。


「えーい! 飛んでけぇ!」


 レパールは戦宝を投げる。

 レパールが念じると、指にはめている指輪の宝石が、強い光を発する。


「だ、大丈夫かしら!? こんなに光っているところ、見たことなんてないけど!」


 だが、もう後戻りはできない。


「と、飛びなさい!」


 破滅のバリスタ(バリスタオブルイン)は夜空を飛び、ビヨンドの元へと向かう。


「や、やった!」


 月明かりに照らされ、破滅のバリスタ(バリスタオブルイン)が金色に輝く。


「......っ! 指輪が!」


 レパールの指輪の宝石が赤色から黒色に変わっていく。

 投げた破滅のバリスタ(バリスタオブルイン)は、だんだんと地面へと落ちていく。

 そして、完全に見えなくなってしまった。


 だが、金色に輝いた戦宝を、ビヨンドは見逃さなかった。


「......っ! 何あれ? クロスボウ......?」


 ビヨンドは、落ちてきたクロスボウに駆け寄る。

 そして、その近くに、丸められた紙が落ちていることに気が付いた。

 その紙を広げると、「空から放て ラッティ」と書かれていた。


「ラッティさん!? どうして、ラッティさんのメモが......! いや、考えている暇はない!」


 ビヨンドはクロスボウを持ち、疾風の靴の力を発動させる。

 靴は緑色に輝き、辺りに突風を発生させる。

 舞い上がる草に囲まれ、ビヨンドは空へと飛ぶ。


 空を飛び、勢いが止まる。

 ビヨンドの高さは、既に巨人を超えていた。

 巨人はビヨンドに気が付き、光線を発射する。


「くっ!」


「ビヨンドちゃん!」


 叫ぶランディ。

 赤い光線が、ビヨンドを包み込む。


「これで......!」


 光線が消えると、傘で身を守ったビヨンドが、逆さまになった状態でクロスボウを構えていた。

 巨人の顔に付いている赤い水晶に、両手でクロスボウの狙いを定める。


「くたばりなさい!」


 ビヨンドがクロスボウのトリガーを引く。

 すると、金色に輝くと共に、轟音が鳴り響く。

 そして、世界から音が消えた。


 クロスボウの矢は、みるみると姿を変え、巨大な槍へと姿を変えていく。

 その見た目は、まさにバリスタの弾。


 そんな巨大な槍は、巨人の頭を軽々と貫いた。

 巨人の頭は粉々になり、巨体は森へ倒れていく。


「やった......!」


 粉々になった巨人の頭を眺めながら、地面へと向かって落ちていく。

 ビヨンドは姿勢を変え、地面に足を向ける。


「......って、あれ!? 靴の様子が......!?」


 疾風の靴で着地をしようとしていたが、様子がおかしい。

 いつもなら緑色に輝くはずが、靴はくすんだ緑色をしていた。


「なんで......! 戦宝って、エリューでも使えなくなることがあるの......!?」


 このままでは、着地が出来ず、地面に叩きつけられてしまう。

 地面まであと少し。

 ビヨンドは、恐怖で目を瞑ってしまう。


「諦めるんじゃないよ!」


 すると、下からテペアの声が聞こえた。

 ビヨンドが目を開けると、ランディの馬に乗ったテペアが接近してきていた。


「嵐の塔! 風を起こせ!」


 テペアが三つ目の塔を投げると、ビヨンドの真下で風を巻き起こした。

 その風がビヨンドを押し上げ、落下の勢いを抑えていく。


「た、助かった......!」


 ビヨンドは一安心する。

 風はだんだんと弱くなっていき、ゆっくりと地面に近づいていく。


「よくやったね。お疲れ様。......って言いたいところだけど......」


 テペアは辺りを見渡す。

 巨人の指から生まれた岩の巨人が、ビヨンドたち目掛けて近づいてきていた。

 そして、頭を粉々に破壊され、倒れた巨人も、平然と起き上がり始めていた。


「嘘......!」


「どうやら、あれが動力源って訳じゃなかったみたいだね......」


 巨人は起き上がり、ビヨンドたちに接近を始める。


「......テペアさん。お願いがあります」


「お願い?」


「テペアさんの戦宝で、あいつの肩まで私を飛ばしてください。今の私じゃ、飛ぶことができないので......」


 ビヨンドは、自分の靴を見つめる。

 靴は相変わらず光らず、能力を発揮できなさそうだった。


「でも、なんで肩に......」


「あいつの頭を壊したとき、一瞬だけ見えたんです。あいつの頭の下に、空洞があることに......。もしかしたら、あいつの動力源は、その中にあるかもって......」


「そうかい。......でも、私より、あの子に頼んだ方がいいと思うよ」


「え?」


「ランディ! こっちに来な!」


「う、うん!」


 テペアが腕を空に伸ばすと、ランディはその腕に向かって鎖を投げる。

 鎖はテペアの腕に触れると、鎖は勢いよく鎖を巻き取られていき、ランディはビヨンドたちの元へ近づいた。


「調整が難しい私の戦宝よりも、この子の戦宝【繋ぎとめる鎖】の方が適していると思ってね。今のを見てわかったと思うけど、この子はこの戦宝を使いこなせる。だから、二人で行ってきな!」


「はい!」


「それじゃ、ビヨンドちゃん。行くよ!」


「行こう! ランディ!」


 ランディは馬に乗る。

 そして、ビヨンドはその後ろに乗り、ランディにしがみつく。


 馬は巨人に向かい、勢いよく駆ける。

 巨人が岩を落としてくるが、ランディが的確に鎖で破壊していく。


「ビヨンドちゃん! しっかり捕まっててね!」


 巨人の足元まで接近したランディは、鎖を巨人の腰あたりに向かって飛ばす。

 鎖は巨人にくっ付く。


「上がるよ!」


 ランディがビヨンドにそう言うと、鎖が巻き取られ、上に昇っていく。

 腰から鎖を外して腕へ、次は腕から肩へと、どんどん昇っていく。

 肩に乗ると、ビヨンドの言う通り、胴体へ続く穴が存在していた。

 そして、穴の奥には、薄っすらと赤い光が見えた。


「それじゃ、入るよ」


 ランディは穴の端に、鎖の先端をくっ付ける。

 そして、すこしずつ鎖を伸ばし、暗い穴を降りていった。

 地面に着地すると、ランディは鎖を巻き取る。


 二人のことを赤い光が照らす。

 二人は光が発せられている方向へ向かうと、そこには部屋があった。


 巨人が倒れたせいか、部屋の隅にテーブルや椅子が積み上げられている。


「何ここ......? 居住空間......?」


 そんな部屋の真ん中に、赤く輝く、ビヨンドほどの高さの水晶が飾られていた。


「これは、壊せるのかしら......?」


 こんな閉所では、巨人の頭を破壊した戦宝は使えない。

 それ以前に、戦宝は金色の輝きを失っており、使えそうになかった。


「ビヨンドちゃん......!」


「......今は、これしか試せないわね」


 ビヨンドは、傘を持ち、振りかぶる。

 それを見て、ランディも鎖を構える。


「壊れてちょうだい!」


 ビヨンドが傘を振り下ろす。

 それと同時に、ランディは鎖で水晶を殴った。



 水晶はあっさりと砕け、光を失い、部屋に散らばった。

 しばらくすると、巨人の体が大きく揺れた。


「もしかして、今のが動力源で......!」


「じゃあ、倒れるの!?」


 二人は、急いで穴まで戻り、鎖で昇る。

 巨人の体はバランスを崩し、今にも倒れそうだ。


「二人とも! こっちだ! さっきみたいに受け止めるよ!」


 ビヨンドは怖気もせず飛び降りる。

 ランディもそれに続いて飛び降りる。


 テペアの戦宝が風を起こし、二人を包み込む。

 そして、勢いを緩め、二人は無事着地した。


 ビヨンドが辺りを見渡すと、巨人が生み出した岩の巨人の姿がどこにも無かった。


「テペアさん。周りのやつらは......?」


 巨人が倒れ始める直前に、粉々になって消えたよ。多分、あいつと同じ力で動いていたんだろうね。......しかし、戦宝ってのは本当に不思議だね。あんな巨人の戦宝もあるだなんて......」


「あ、あれも戦宝なんですか? 宝、というにはほど遠い見た目ですけど......」


「まぁ、戦宝って名前は、お宝みたいに美しい武器ばかりだったから名付けられただけだからね......。元々は戦いのための道具だから、ああいう性能重視の物もあってもおかしくないんじゃないかな?」


 テペアと話していると、地面が大きく揺れる。

 巨人が完全に倒れたのだ。


「ビヨンドちゃん!」


 馬に乗ったラッティたちが、ビヨンドに近づいてくる。


「ラッティさん!」


 ラッティはビヨンドに抱き着き、そのまま持ち上げる。


「ビヨンドちゃん! 良かったぁ!」


 ビヨンドを抱きかかえたまま、その場でグルグルと回転する。


「わっ! お、降ろしてください!」


「ビヨンド!」


「ビヨンドさん!」


「あ、あんたら......!」


 二人を見た瞬間、ビヨンドの顔が若干曇る。


「な、なんなのよ! その反応は!」


「やっぱり、私たちはまだ好かれていないみたいですね......」


「まぁまぁビヨンドちゃん。この二人も頑張ったんだから、褒めてあげてよ」


「そうよ! 私があんたに戦宝を届けてやったのよ! 感謝しなさい!」


 腰に手を当て、堂々としているレパールのことを、ビヨンドは睨みつける。


「ちっ......。はいはい、頑張りましたねー」


「ちょっと! 何よその態度は!」


 レパールはビヨンドの髪を掴み、引っ張る。


「何するのよ! 褒めたじゃない!」


 ビヨンドは仕返しに、レパールの鼻を指で潰そうとする。


「ははは。仲良しだねぇ」


 テペアは、そんな二人の様子を地面に座り、眺めていた。


「テペア! 今までどうしてたの!?」


「え? どうしてたって......。キラーナの捜索ついでに修行しに行くって伝えただろ?」


「何にも知らないよ! 」


「え? おかしいなぁ......。学園長室に、置き手紙を残したはずなんだけど......」


「それに、どうしてランディちゃんと一緒に......!」


「偶然、街で泣いてるところを見かけたからさ、連れてったんだよ。この子には、学園の指導に従うよりも、戦宝を持たせて一対一で指導した方が成長すると思ってね。というか、それも知らなかったのかい?」


「何にも知らないよ!」


「ランディ、みんなに伝えなかったのかい?」


「あー......。あの時は自暴自棄になってたから......」


「......ま、そこら辺はどうでもいいじゃないか。お互い無事だったんだし。さ、お腹も空いたし、パンでも食べようかな」


 テペアは立ち上がり、ランディの馬に持たせていた袋を漁る。


「そうだ、もうパンが残ってないんだった......。他に何かあるかな......。って、ん?」


 テペアは袋から、紙を取り出した。

 そして、その紙を広げ、じーっと見つめる。


「......ごめん。学園長への置き手紙、袋の底にあった」


「......もー! テペアの馬鹿ー!」


 ラッティはそう叫びながら、テペアの肩を勢いよく揺さぶった。


「みんな、仲がいいね!」


「そうですね」


 ランディとクレナイが、笑顔でみんなのことを見ていた。

 しかし、突如クレナイが、森の木の影を見つめた。


「ど、どうしたの......?」


「あそこに人が......」


 クレナイの視線の先には、三人の人影。


 一人目は、眼鏡をかけた男性。

 二人目は、若い好青年。

 そして、三人目は、ランディを探している時に見つけた、ランディ似の女性。

 その三人は、こちらをジーっと見つめていた。


「あの方、どうしてこんなところに......?」


 クレナイが見つめていると、三人は逃げるように森の中へと消えていった。

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