決意
「うぅぅ......」
仰向けのビヨンドを、何も見えないほどの闇が覆う。
石壁が崩れ落ちてきたのにも関わらず、体は動かせるし、痛みもない。
「私、どうしたの......?」
暗闇に目が慣れ、目の前がハッキリと見えるようになる。
そして、目の前には、真っ赤な血。
「......っ! フェルノアさん!?」
「だ......大丈夫、か......?」
ビヨンドは瞬時に理解した。
フェルノアが身を挺して自分に覆いかぶさり、石壁から守ったのだと。
「す、すぐに助けますから!」
ビヨンドは足を上に伸ばし、靴底で石壁に触れる。
疾風の靴の能力を発動し、石壁を蹴り上げる。
重そうな石壁は軽々と吹き飛び、ビヨンドたちを月光が照らす。
「はぁ......はぁ......」
フェルノアが倒れ、すぐさま体を起こすビヨンド。
「フェルノアさん! しっかりしてください!」
「......ビヨンド、先に、逃げろ......!」
「嫌です! 絶対に連れて帰ります!」
ビヨンドは小さな体でフェルノアを担ぐ。
靴の能力を発動し、フェルノアを運ぶ。
「ビヨンド、よく聞け......! もし、これがただの地震じゃなかったら......。戦宝の力による地震だとしたら......。相手は強大な力を持っていることになる......! エリューを滅ぼすほどの、強大な力を......!」
「エ、エリューを滅ぼすって......!」
「だから、まずは確かめて来い......! それで、ただの地震だと分かったら、俺を助けにくればいい......」
「で、でも! その間に見つかりでもしたら......!」
「......俺の戦宝、劫火の手袋の力はさっき見ただろ......? 意識さえあれば、俺は雑魚兵相手に負けることは......。がはっ! ごほっ......」
勢いよく血を吹き出し、苦しそうに咳き込む。
「フェルノアさん! 死んじゃダメですって!」
「はは......。俺はこの程度じゃ死なねぇよ......。それより、早く......!」
「......分かりました。必ず、戻ってきます。フェルノアさん、死なないでくださいね......!」
ビヨンドは立ち上がり、意を決した。
靴の能力を使い、混乱している敵地を駆け抜ける。
敵陣から脱出し、馬の元まで戻ったところで、靴で上空へと飛び上がる。
月光に照らされているとはいえ、辺りは暗い。
黒い森、その奥には、黒い山。
だが、反対方向を見てみると、森の奥に、一つの巨影を発見できた。
「......っ!? 何アレ......!? 巨大な影が、エリューの都市に向かって歩いて......!」
ビヨンドは本能で察した。
強大な力を目の前にしたことにより、人間としての本能がビヨンドに警告する。
滅亡。
このままだと、エリューは滅ぶ。
今すぐ逃げ出さないと、自分は死ぬ。
地面に着地し、馬に乗る。
「ど、どうしよう......!」
ビヨンドの脳内で、一つの言葉が反響する。
逃げろ。
本能がそう告げる。
だが、それに対抗するように、もう一つの言葉も現れる。
戦え。
人間の本能ではない、怪盗としての本能が、脳内でせめぎ合う。
このまま逃げれば、エリューは滅び、怪盗として生きる世界を失う。
これからも怪盗として生きるには、このまま戦うしかない。
「私は......!」
二つの言葉が拮抗する中、更にもう一つの言葉が間に入る。
守れ。
それは、人間の本能でも、怪盗の本能でもない、ビヨンドの本能による言葉だった。
「私は......! みんなを守りたい......!」
十六歳の少女、国を滅亡から守るには、些か幼さ過ぎる。
だが、そんな少女の震える体は、逃げるどころか、強大な敵へと向かい始めていた。
「私が......守る!」
ビヨンドは馬に指示を出し、巨影の元へ走りだす。
エリューが滅べば、自分の人生は終わったも当然である。
そんな思いを胸に、ビヨンドは戦う決意をした。




