炎
数時間後。
暗い森を抜け、警備兵が守る橋へと辿り着いた。
鉄の剣と鎧を装備した、二人のエリュー兵が橋を守っていた。
「警備兵が二人ほどいますね」
「......ビヨンド。やってこい」
「分かりました」
ビヨンドは馬から降り、草むらに隠れながらコッソリと近づく。
「ん? そこの草むら、今動かなかったか?」
「どうせ、小動物か何かだろ」
「まぁそうか。こんな山奥に、人なんて......」
次の瞬間、草むらから勢いよくビヨンドが飛び出し、傘で兵士の頭を殴る。
「ぐぁ......!」
兵士は兜を被っていたとはいえ、強い衝撃が頭を襲ったため、怯んでしまった。
「か、怪盗!? な、何故こんなところに......!」
ビヨンドは即座にもう一人の兵士に接近し、足を払う。
「うわっ......!」
兵士は転び、仰向けになってしまう。
そして、同じように兵士の頭を傘で殴る。
「がっ......!」
兵士が頭を殴られ、口を開ける。
その隙に、口封じとして綿を詰め込む。
「むぐっ......!」
兵士が暴れ、抵抗しようとする。
すると、ビヨンドは再び頭を殴り、落ち着かせる。
兵士が静かになると、綿を吐き出さないように口に布を咥えさせ、後頭部で縛る。
そして、腕と足を即座に縛り、声を出すことも動くこともできなくした。
「お、おい! 覚悟しろよ!」
最初に頭を殴った兵士が、剣先をビヨンドへと向ける。
兵士は新米なのか、手足がプルプルと震えていた。
「そんなんで勝てると思うの?」
「う、うるさい!」
兵士は剣を振り上げ、ビヨンドへと近づく。
だが、新米の剣術など、ビヨンドには通用しない。
兵士は剣を外してしまい、疾風の靴の力で加速したビヨンドに突き飛ばされる。
そして、木に思い切り叩きつけられ、立ち上がれなくなってしまった。
そんな兵士にも、同じように綿を詰め、無力化していく。
二人の兵士を完全に無力化すると、フェルノアの元へと戻っていった。
「......お前、ラッティみたいに荒々しいな......」
「まぁ、ラッティさんの訓練を受けてましたからね。でも、こんな無理やりな戦い方をするのは、雑魚相手の時だけですよ」
「そ、そうだといいんだが......」
ビヨンドが馬に乗る様子を、若干不安に思いながら眺めるフェルノア。
「ま、まぁいいか。行くぞ」
二人は馬を走らせ、砦へと向かった。
再び森を馬で駆け抜けると、正面に明かりが見えてくる。
「あそこだ」
見張りの兵士にバレないように、ギリギリまで砦に近づく。
砦は石の壁に囲まれており、唯一の入口と思われる場所には、五人ほどの兵士が立っていた。
橋を守っていた兵士と同じように、鉄の剣と鎧を装備している。
「入口に五人ということは、中には数十人くらい居そうですね。どうします?」
「お前はどう思う?」
「私だったらこの靴で壁を飛び越えちゃいますけど、それだとフェルノアさんが着いてこれないですよね?」
「あぁ、そうだな」
「あーあ、私だけだったらなぁ......」
「お前、ラッティに対する態度と、俺に対する態度が違いすぎないか......?」
「じゃあ、ラッティさんみたいに凄い所を見せてくださいよ」
「チッ......。分かったよ」
フェルノアがそう言うと、手にはめている黒い手袋が、赤く輝きだした。
「おい、なんだあれ!」
手袋が赤く輝きだしたのと共に、兵士たちが驚き始めた。
「燃えてる狼か!?」
「クソっ! なんだよあれ!」
ビヨンドがコッソリと草むらから顔を出すと、そこには不可思議な光景が広がっていた。
炎を纏った狼が、兵士たちを襲っていたのだ。
「狼......? いや、炎が狼に見えるだけ......?」
兵士たちが狼に剣を振るうも、狼の体を通り抜けてしまう。
ただの炎であるのだから、当然である。
「熱いっ! 助けてくれ!」
兵士たちは炎に包まれ、熱さで叫ぶ。
その叫び声を聞きつけた兵士たちが、中からぞろぞろと駆け出してくる。
「この炎......! まさか、怪盗フェルノアの......!」
「どうしてこんなところに! こんな所に宝は無いし、そもそも予告状も何も届いていないぞ!」
炎の狼は次々と数が増えていき、兵士たちを混乱させる。
フェルノアはその狼たちを操っているのか、狼たちはまるで入口から兵士を遠ざけるかのように、砦から追いやっていく。
「今だ。行くぞ」
「は、はい......!」
兵士が外に出切ったタイミングを狙い、二人は入口から入り、すぐ近くの草むらに身を隠す。
フェルノアが周囲の様子を確認している一方、ビヨンドは不安そうに、炎に包まれる兵士たちを見ていた。
「......言っておくが、あの兵士たちは死ぬことは無いぞ。俺だって怪盗だ。殺しはしない。......それじゃあ、ここからあの一番大きい建物に進むぞ」
「わ、分かりました......」
フェルノアの後に続き、ビヨンドは歩き始めた。




