任務開始
それから、午後も同じように、乗馬の訓練が続いた。
それだけではなく、次の日も、また次の日も、同じように続いて行った。
「おっ......。ほっ......」
ビヨンドは最低限の技術を身に着け、訓練場を走り回れるようになった。
「いやー、やっぱりビヨンドちゃんは飲み込みが早いねぇ。これなら大丈夫そうだね。フェルノアも安心だと思うよ」
「あ、ありがとうございます。ラ、ラッティさんの訓練のおかげです......」
ここ数日の無茶苦茶な訓練を思い出し、苦笑いをしながらお礼を言うビヨンド。
「それじゃ、あとは任務までは通常通り、戦闘訓練に戻すね。フェルノアとの任務まで、本気で特訓するよ!」
「は、はい......」
乗馬より慣れているとはいえ、過酷な日々が続くことには変わりない、と察するビヨンドであった。
数日後、学園長室にて。
「ヤッホー。フェルノア」
学園長室に入ったラッティが、事務作業をしていたフェルノアに話かける。
「ヤッホー......じゃない......! お前も少しは手伝いを......」
「まぁまぁまぁ。それよりさ......」
ラッティはソファに座り、靴を脱いで寝転ぶ。
「レパールちゃんとクレナイちゃんを通じて、ビヨンドちゃんに伝言したんだって? それも、元気か? だなんて」
「な、なんでお前がそれを......!」
「二人とも素直だからねぇ。質問したら、すぐに答えてくれたよ」
「......任務に支障が出たら困るからな」
「フーン......そっか」
ラッティは自分のハンカチをポケットから取り出し、顔にかける。
そして、部屋の明かりを遮り、眠ろうとした。
「待て、寝る前に俺の質問にも答えろ」
「んぅ? 何?」
「......確かビヨンドは、キラーナに憧れているんだったよな......?」
「らしいね。だから、キラーナが使ってた傘を使ってるはずだけど......。キラーナに憧れてるのは、キラーナに助けられたから、って話らしいけど......」
「......キラーナは、どうしてビヨンドをスカウトしたんだろうな......」
「うーん......。純粋に、才能を見抜いたんじゃない? 実際、ビヨンドちゃんは若くして四天王になりそうだし......」
「だが......。......いや、何でもない」
「だが、って何? まるで、違う理由があるみたいな......」
「何でもない。俺は仕事に集中する。お前は仕事を手伝うか、黙って寝てろ」
「......はーい。じゃ、お言葉に甘えて寝まーす」
ラッティは口を閉じ、そのまま眠りについた。
任務の日、夜八時。
学園の入口前でビヨンドは馬に乗り、フェルノアを待っていた。
いつもの服装とは違い、今日は黒いローブを羽織っていた。
「遅れて済まない」
フェルノアが外に出てくると、すぐさま馬に乗った。
「フェルノアさん。どうして今日は黒いローブを羽織って行かなきゃいけないんですか」
「今日は怪盗としての任務ではなく、諜報員としての任務だからだ。だから、予告状も出していないし、無理に身を晒す必要もない」
「へぇ、そうなんですね」
「さて、最後にもう一度任務を確認するが......。ここから北にずっと向かうと、エリュー軍の砦がある。馬の扱いは大丈夫だな?」
「はい。ラッティさんに叩きこまれたので」
「よし。砦に向かったら忍び込み、エリュー軍の現在、今後の動きが把握できるような情報や資料を入手する。いいな?」
「何度も書類を読みましたので、大丈夫ですよ」
「それじゃ、すぐに向かうぞ」
フェルノアは馬に指示を出すと、馬は走り始めた。
同じように、ビヨンドも馬に指示を出し、フェルノアの後に続いた。
月光が差し込まない、暗い森。
フクロウの鳴き声と、虫の鳴き声と思われる音。
そして、馬が地面を強く蹴る音だけが、森に鳴り響く。
「そういえばフェルノアさん。この任務が成功したら、私は正式に四天王候補として育てられることになるんですか?」
「......まるで、今回の成功する前提の質問だな」
「......私が任務を失敗すると思いますか?」
「ふん。トラブルが起きない限りは大丈夫だと思うが、少し慢心しすぎじゃないか?」
「大丈夫ですよ。私はこう見えても、慢心による失敗を乗り越えてきてるんで」
「そうか。......この任務が成功したら、お前は四天王候補。つまり、俺とラッティの直属の部下になる。本来は卒業生から四天王候補を探すために結成された部隊だが、お前は特別に、在学中の身で所属してもらう。だから、お前は今後学生とではなく、大人の怪盗と共に切磋琢磨することになるんだ」
「それじゃあ、学生気分じゃいられませんね」
「ふっ、そうだな」
暗い森の中なのにも関わらず、気軽に会話をする二人。
まるで二人とも、今回の任務は問題無く成功する、そう思っているようだった。
一方その頃。
「いやー助かったよ。ナターシャのおかげで、穴掘りが楽ちんだよー」
エルダは地上から、穴に潜っているナターシャを見下ろしながら言う。
「チッ......。何故、私がこんなことを......」
ナターシャが金色に輝く螺旋状の槍を構え、地面へと突き刺す。
すると、轟音と共に、目の前の土は一瞬にして吹き飛び、岩も軽々と破壊されていく。
ナターシャの目の前には、松明の光すら届かない深い斜めの穴が出来上がっていた。
「仕方ないじゃーん。このままだとエリュー国に怪しまれちゃくからさ。早く仕事を終わらせて自国に帰りたいんだよね」
「......お前がどうなろうと、私は知ったこっちゃないんだが」
「あれれ? その槍を発掘したのは、どこの誰だっけ?」
「チッ......。クソ野郎が......」
怒りで血管を浮かべながら、ナターシャは穴を掘り進めていた。




