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怪盗少女ビヨンド  作者: Melon
第4章 暴走

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乗馬練習

 次の日の朝、訓練場にて。


 ビヨンドはラッティによる訓練が行われると思っていた。

 ビヨンド、レパール、クレナイはラッティがやってくるのを待っていた。


 しかし、時間になっても、ラッティが現れることが無かった。


「遅い、ですね」


 クレナイがボソっと呟いた。


「まさか、ラッティさんに何かあったんじゃ......」


 クレナイに続き、レパールが呟く。


「そんなわけ......」


 ビヨンドはそう言い切りたかった。

 だが、少しだけ心配になったのか、ビヨンドは訓練場の入口へと向かった。


 もし、ラヴァやその仲間と遭遇し、やられてしまっていたら。

 そんな可能性が頭をよぎり、いち早く状況を確認したかったのだ。


 ビヨンドが訓練場の重い石の扉に手をかけた瞬間、扉越しに音が聞こえてきた。

 その音は、一定のリズムで鳴っており、こちらに近づいてくる。

 ビヨンドは扉から離れ、警戒する。


「ビヨンドさん! どうしたのですか!?」


 ビヨンドに合わせ、クレナイが木刀を抜刀する。

 レパールもナイフを取り出し、構えた。


「何か近づいてきてる......!」


 三人は扉を凝視し、武器を構える。

 すると、扉はゆっくりと開いた。


「じゃーん! ......って、みんなどうしたの?」


 扉を開けたのは、馬を連れたラッティだった。

 そんなラッティを見た三人は、一気に体から力が抜けた。


「いや、ラッティさんが来なくて、怪しい音が聞こえてきたから、てっきり敵が忍び込んで来たのかと......」


「あー。ただの足音だよ。この子に乗って廊下を走ってただけ」


 ラッティは連れている馬の頭を撫でる。


「しかし、どうしたのですか? 馬なんて連れてきて......」


「今日はね、ビヨンドちゃんに乗馬の練習をしてもらおうかと思って......」


「じょ、乗馬ですか!?」


 ビヨンドは驚いた。


「うん。本当は、フェルノアと一緒に馬に乗ってもらおうかと思ったんだけど、ビヨンドちゃんも馬に乗れた方が、作戦の幅が広がるかなーと思ってさ」


 ラッティはそう言いながら、馬にまたがる。

 そして、馬を巧みに操り、訓練場を半周ほど移動する。


「ラッティさん、乗馬もできるんですね......」


 ビヨンドが感心する。


「まぁね。幼い頃から叩きこまれてきたから」


 ラッティが脚で馬の腹を圧迫すると、馬が走り出す。


「幼いころから馬術って......。ラッティさんって、何者なんですかね......?」


「さぁ......? エリューで子どもに馬術を叩きこむのは、農民か騎士、貴族くらいだけど......」


 レパールとクレナイがコソコソと話す。

 その間、ラッティは満足したのか、手綱を引き、馬を止めた。


「ふぅ......。久しぶりに乗ったから、楽しかった。じゃ、次はビヨンドちゃんの番ね」


「え、いきなりですか!?」


「大丈夫大丈夫、私の指示通りにすれば、ちゃんと動いてくれるから」


 そう言いながらラッティはビヨンドに歩み寄り、体を持ち上げる。

 そして、ビヨンドのことを馬に乗せた。


「あの......。私たちはどうすれば......」


「あ、そうだった......。クレナイちゃんとレパールちゃんは、今日は別の訓練場でフェルノアと特訓ね」


「そ、そうですか......」


「ずるいわよ! ビヨンドだけ特別扱いで......!」


 レパールはビヨンドを指差して怒る。


「悔しかったら、私を追い越してみなさいよ」


 ビヨンドが挑発すると、レパールは顔を真っ赤にする。


「この......! 行くわよクレナイ! あいつを痛めつけるために特訓するわよ!」


 レパールは駆け足で、訓練場から出ていった。


「では、私も失礼しますね......」


 クレナイはレパールの後を追い、訓練場から出た。


「あの、ラッティさん......。私はどうすれば......」


「うーんそうだね......」


 ラッティは少し考え、ポンと手を打った。


「取り敢えず、馬に慣れよっか。じゃ、ちょっと脚で馬の横腹を押してみて」


「え、えっと......」


 ラッティの指示に従うビヨンド。

 すると、馬は全力疾走で走り始めた。


「きゃああ!」


 振り落とされないように、前かがみの状態で必死に手綱を掴むビヨンド。


「ビヨンドちゃーん! 今、王国の兵士に追いかけられてることを想像してー! 落ちたら、大怪我しちゃうどころか、処刑だよー! だから、必死に耐えてねー!」


「た、耐えてって言われてもー!」


 馬が訓練場の突き当りに近づき、カーブする。

 ビヨンドに遠心力が襲いかかるが、それでも手綱は離さない。


「まずは五周! 頑張ってねー!」


 ラッティは訓練場の中心に座る。

 そして、訓練場を走り回るビヨンドと馬を、お菓子を食べながら眺めるのだった。



 五周したことを確認したラッティは、口笛を吹く。

 すると、馬はラッティの元へ戻り、走るのをやめた。


「ぜぇ......。はぁ......」


 ビヨンドは馬に振り回され、グッタリとしていた。


「あれ? もう疲れちゃった?」


「だ、だって......。私、馬に乗ったの初めてで......」


「えー? でも、戦うよりはよっぽど楽じゃない?」


「な、慣れてないことなので......。ぜぇ.......」


「じゃ、慣れれば問題無いってことね! それじゃ、もう一回いこっか!」


 ラッティは馬のお尻をポンポンと叩くと、再び馬が走りだした。


「な、なんで! さっきと違う指示なのに!?」


「たとえ足が無くなろうとも、喉が潰れようとも逃げ切れるように、色々な指示で走り出すように調教してるんだ! ほら、頑張れ頑張れ!」


「と、止めてくださーい!」


 ビヨンドは再び馬に振り回された。



 それから、馬が疲れてしまったこともあり、基礎訓練や座学へと移った。

 ヘロヘロになってしまったビヨンドは更に疲れてしまい、昼食の時間になっても、食欲が湧いていなかった。


「あら、無様ね」


 食堂で昼食を取ろうとしたはいいものの、料理を目の前に突っ伏してしまっているビヨンドを見て、レパールが一言呟いた。


「う、うるさいわね......」


「ほら、そんな隙を見せてると、後ろからプスッと刺しちゃうわよ」


 レパールは、ビヨンドの首筋をナイフでつっつく。

 だが、ビヨンドはレパールを追い払う元気も無かった。


 一方クレナイは、そんな二人の対面に座り、スープを飲んでいた。


「ラッティさん、戦闘の訓練以外も厳しいのですね......」


「そ、そういえばそっちはどうだったのよ......。フェルノアさんと一緒に訓練したんでしょ......?」


「指導がとてもお上手で、とても有意義な訓練でしたよ」


「どういう時にどこを狙えばいいとか、丁寧に教えてもらったわよ」


「そ、そう......」


「あ、そうですわ......。フェルノアさんからビヨンドさんに、伝言があったのですが......」


「伝言......? 任務について......?」


 任務についての話かと思い、顔を上げるビヨンド。


「いえ、最近元気か? と、おっしゃっていましたが......」


「何よそれ......」


 ビヨンドは再び、テーブルに突っ伏した。


「元気よ元気......。風邪すらここ最近引いてないし、凄く元気って伝えて頂戴......」


「こんなグデッってしてる癖に、何が元気なのかしら」


「まあ、健康的ではあると思いますし、元気と言ってもいいんじゃないですか?」


「しかし、なんでこんなことを知りたがってるのかしらね」


「任務に参加するからじゃないですか?」


「そうだとしても、わざわざそんなこと聞こうって思うかしら?」


 レパールとクレナイが話していると、食堂の扉が勢いよく開いた。


「ビヨンドちゃん居るー?」


 ラッティは食堂に入ると、キョロキョロと見渡した。


「あっ、はっけーん! ビヨンドちゃん! 学園長から別の馬を借りてきたから、特訓再開するよ!」


 ラッティはそう言いながら、ビヨンドに歩み寄る。


「えぇ......。もう少し休ませてもらえま......」


「ほら、行くよ!」


 突っ伏しているビヨンドを抱え上げると、ラッティは食堂から出ていった。


「......大変そうですね」


「そ、そうね......」


 連れていかれるビヨンドを、可哀想な目で眺める二人だった。

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