任務説明
ビヨンドが立ち直ってから五日後の夜。
フェルノアから夕食後に学園長室に来るように、そう伝えられたビヨンドは、学園長室の前に立っていた。
ドアを軽くノックし、咳払いをして声の調子を整える。
「失礼します、ビヨンドです。本日はフェルノアさんに呼ばれたので来ました」
「入っていいですわよー!」
扉の向こう側から学園長の声が聞こえる。
その声を聞いたビヨンドは、学園長室の扉を開けた。
「あ、ビヨンドちゃん!」
近くのソファで寝っ転がったままラッティが背もたれから顔を覗かせる。
「おう、こっちだ」
フェルノアは対面側のソファに座っていた。
「おい、お前が寝てたら座れないだろ」
ソファから立ち上がり、ラッティの手首を掴んで引っ張る。
ついでにテーブルに置いてある皿から焼菓子を掴み取り、ソファに座って食べ始めた。
「ここ、本当に学園長室......?」
まるで自室のように過ごしているフェルノアとラッティを見て、ボソっと呟くビヨンド。
「さ、そこに座ってくれ」
ラッティが起きたことでできた空席を指差し、座るように指示する。
ビヨンドがラッティの隣に座ると、フェルノアは任務の内容がまとめられた書類を皿の隣に置いた。
「まず、四天王の基本的な任務について説明する。その書類の中身を確認しろ」
ビヨンドは書類を手に取り、中身を確認し始める。
潜入先には、エリュー軍の砦に潜入すると書かれている。
学園からはそこそこの距離があると思われる。
「四天王の任務は、お前たち生徒が行う戦宝、美術品の回収任務とは違う。生徒候補の調査やスカウト、潜入先の危険度を確認する偵察、任務提供のための宝の情報収集......。そして、学園外の人物の動向を調べ、生徒と衝突、衝突回避するための人の情報収集。この四つが主な任務となっている」
「こういうお仕事をしてるから、ビヨンドちゃんとルーフを対決させることができたんだよ。ちなみに、私は最後の人の情報収集が主な任務だよ」
「だから、人探しが得意って......」
ビヨンドは、ラヴァの部下を取っ捕まえ、情報を吐かせたと言っていたことを思い出す。
「まぁ、こいつは命令無視で勝手に動いてるだけなんだけどな......。......話を戻そう。今回の任務はエリュー軍の砦。任務の分類としては、人の情報収集に該当するな」
「今回は、フェルノアがビヨンドちゃんの能力を確認したいってのもあって、私じゃなくてフェルノアと行ってもらうよ」
ビヨンドは話を聞きつつ、任務概要を読み始める。
「えっと......。ここ最近、エリュー軍が何かを探し出すような不審な動きを見せている。今後に支障が出るか判断するため、エリュー軍の砦に潜入し、情報収集を行っていただきたい......」
それに関しては、私から説明しますわ。
学園長が立ち上がり、フェルノアの隣の空席へと向かう。
「隣、失礼しますわよ」
「ああ」
学園長はフェルノアの隣に座る。
「そこに書かれている通り、最近のエリュー軍の動きが不審ですの。上層部からの指示があったのか、兵士たちが何かを探しているような動きを見せていますの」
「俺たちに関係無いのであればいいんだが、万が一、学園側に都合が悪い情報が出回っていて、探しているのだとしたら......」
「そこで、実際にどうなのかを確かめるために、情報を集めてきてほしい。というわけですわ」
「それは分かったんですけど......」
ビヨンドは腑に落ちないでいた。
「......なんで、四天王の任務を、ただの生徒である私が......?」
ビヨンドが質問すると、学園長とフェルノアの顔が曇り始める。
「.....ビヨンドさんには説明した通り、今はキラーナとテペアが行方不明......。正直、仕事が溜まりすぎているんですわ......」
「それに加えて、こいつは仕事をサボりがちだしな......」
フェルノアはラッティを睨みつける。
「えへへへへ......」
ラッティは鋭い視線を気にもせず、笑顔で照れる。
「ちっ......。それで、俺たち四天王にも部下がいて、勿論、キラーナとテペアの部下もいる。だが、俺と学園長だけでは管理しきれないんだ」
「そこで、相談して決めましたの。優秀な怪盗を一時的に四天王と扱い、仕事をしてもらいつつ、時期四天王候補として育てようと」
「それで、私が選ばれたってことですか......? でも、私にそんな実力は......」
「あるんだよ。ビヨンドちゃんには」
ラッティがそう発言すると、学園長が頷いた。
「貴方の前回の任務である、ルーフとの対決......。正直、私は無謀だと思っていましたわ。彼ほどの強者の怪盗、四天王の部下でも、勝てる人間は一握りですわ」
「それに、ビヨンドちゃんは強いし若くて将来性があるし、あと、既存の闘い方や自分が決めた闘い方にとらわれない柔軟性を持ってる。だから、ビヨンドちゃんが選ばれたんだ」
「貴方はキラーナに憧れているんですよね? 少し忙しくなってしまうかもしれませんが、これを近づくための一歩だと思って、引き受けてくれませんか......?」
学園長は不安そうにビヨンドに問いかける。
「勿論です」
学園長の不安に対し、ビヨンドは考えもせず、即答した。
その瞬間、学園長からは安堵のため息が漏れた。
「決まりだね」
「決まりですわ」
「......だが、少し意外だな。お前は面倒臭がりだと聞いていたが......」
「......私が嫌いなのは、無駄なことです。こんなお誘い、無駄だと思う訳ないじゃないですか」
「フッ......。そうか......」
それを聞いたフェルノアは、ニヤリと笑った。
「それじゃ、その書類はお前に渡しておく。しっかり読み込んで、準備をしておけよ」
「それでは、話は以上ですわ。ビヨンドさん、よろしくお願いしますね?」
「任せてください。それでは、失礼します」
ビヨンドは立ち上がり、学園長室から出ていった。




