雰囲気
「で、なんであの女性がランディの姉である四天王テペアじゃないのか。そう思う理由を聞かせなさいよ」
食事を終えて学園に戻り、レパールが開口一番、話の続きについて聞いてきた。
「簡単よ。雰囲気、というか殺気。それだけ」
「......は?」
レパールは意味が分からず、ポカンとする。
「やはり、ビヨンドさんも感じましたか......。あのお方の雰囲気。今まで沢山の人を殺し、生き延びてきた。そんな歴戦の戦士のような雰囲気を、私やビヨンドさんは感じました」
「弱っちくて未熟者のレパールには分からなかったでしょうけどね」
「なっ......! そ、そんな気配、最初から気が付いていたわよ!」
言葉とは裏腹に、目はあっちこっちに泳いでいた。
「......それで、怪盗は基本的に殺しはしない。だから、怪盗であるテペアから殺気なんて感じられるはずがないのよ」
「その通りです。勘っぽくなってしまいますが、これが私とビヨンドさんが、あの方は怪盗ではないと思った理由です。」
「......まぁ、ラッティさんは人を殺してそうではあるけど......。あと、クレナイも......」
そう思ったが、レパールに聞かれると説得が面倒になるので、聞こえないように小声で呟いた。
「で、でも! この学園を狙ってるやつらだって怪盗なんでしょ! もし、学園を裏切っていたら......!」
「四天王という立場まで昇りつめた人間よ? そこまで努力した後から、学園や怪盗の仕組みに不満を持って裏切るとは考えにくいわ」
「そ、それはそうだけど......」
「じゃあ、私に聞いてみればいいんじゃない?」
突然、学園の入口の扉が開き、ラッティが姿を現す。
いきなり入ってきたため、三人とも体がビクッと動いた。
「ラ、ラッティさん!?」
「ちょうど帰ってきたらテペアの話が聞こえたから、盗み聞きしちゃった! テペアのことが気になるなら、私が教えてあげるよ!」
「そ、それじゃあ......。外でランディと同じような髪型、髪色で、威圧感や殺意が感じられる女性の方と出会ったんですけど......。テペアさんってそんな感じだったりしますか?」
「しない!」
ビヨンドがラッティに質問すると、すぐに回答が返ってきた。
「テペアはランディちゃんと同じ髪色だけど、髪は長いし、威圧感や殺意は皆無! むしろ、おっちょこちょいというか、おバカ......?」
「お、おバカ......」
直球な悪口に、困惑してしまうビヨンド。
「でも、素直で勇敢だから、敵に回ることはないと思ってるけどね。それじゃ、私は用事があるのでこれで! 早くいかないと、フェルノアに怒られちゃうから! またねー!」
ラッティは手を振りながら廊下を走り、去っていった。
「......ラッティさんがあのように仰るなら、あの方がテペアさんというのは間違いで確定なのではないでしょうか」
「そ、そうね......」
ビヨンドやクレナイ、ラッティの意見を聞いたことで、勘違いである可能性が高いと納得したレパールであった。
「学園長! フェルノア! ただいま!」
ラッティは学園長室の扉を思い切り開き、ズカズカと入り込む。
「あら、お帰りなさい」
学園長は部屋の奥の自席に座っており、書類を眺めながら返事をした。
一方フェルノアは、部屋の隅に置かれているソファに座っており、特に返事ない。
ラッティはフェルノアの対面側のソファに向かい、腰を下ろす。
それから、靴を脱いで仰向けになる。
「おいおい......。お前の方が世間的な地位が高いからって、学園長の前でなんて態度を......。俺も人のことはあまり言えんが、限度ってもんが......」
「あっ! お菓子もーらい!」
ラッティは対面側に座っているフェルノアの言葉など聞きもしない。
そして、テーブルの上に置かれている焼菓子を掴み、口に入れた。
「おい......! 人の話を聞けよ......!」
「まあまあ、いい話があるからそれでも聞いて落ち着いてよ」
お菓子を食べ終え、更にお菓子を掴み取りながらフェルノアを宥める。
「フェルノアが少し前に扉の隙間から医務室を覗いているところを見たんだけど、相当ビヨンドちゃんのことを心配してるんでしょ?」
「な、何故それを......!」
医務室を覗いていたところを見られていたことを知り、驚くフェルノア。
「それでね、ビヨンドちゃんとーっても落ち込んでたと思うんだけど、優しいお友達のおかげで元気になってね。なんとか立ち直ってくれたんだ」
「そ、そうか......」
「多分、フェルノアはビヨンドちゃんを一緒の任務に連れて行って、四天王とまた任務ができるなんて......! 頑張らないと......! って思わせてやる気を取り戻させようとしてたんでしょ? でも、フェルノアが手を出すまでもなかったね」
「あぁ......。だが、任務には予定通り連れていく。あいつはここ数年の中でもかなり優れている怪盗だ。だからこそ、実力を把握して、あいつが最大限成長できるような適切な任務を割り当てられるようにしたい」
「ふーん......。......本当にそれだけ?」
フェルノアの言葉に疑問があるのか、真意を確かめようとするラッティ。
しかし、フェルノアは表情一つ変えず、立ち上がる。
「......それだけだ。それじゃ、俺は仕事に行く」
フェルノアはそう言い残し、学園長室から出ていった。
「......ラッティ。さっきの本当にそれだけって、どういう意味なんですの?」
先ほどのフェルノアに対する質問に疑問を持ち、ラッティに聞く学園長。
「だってさ、フェルノアって今まで一回も生徒のことなんて気にしたことがなかったでしょ? それなのに、ビヨンドちゃんに対してだけ対応が違うのっておかしくない?」
「言われてみれば、そうですね......」
「私やテペアが生徒だった時ですら、声なんてかけられなかったもん。だから、実力以外にも何か理由があるんじゃないかと思って、理由を聞いてみたんだけど......」
「......理由を話す気はない、って感じでしたね」
「うーん......。気になるなぁ......」
体を起こしてソファに座り、子どものように足をぶらぶらさせながら考えるラッティ。
「気になりますね......」
学園長も気になりだしたのか、書類を確認する手が止まってしまった。




