三人で食事
太陽が沈んでもなお、街には活気が溢れていた。
ビヨンドたちは学園に戻るために、大通りを歩いていた。
変装はしているが、なるべく目立たないようにするために、道の隅っこを三人で歩く。
「はぁ......。お腹空いたわね......」
レパールがそう呟く。
ランディを探し回ったことにより、三人はお腹を空かせていた。
「あぁ......いい匂いですね......」
住宅や店から漂ってくる料理の匂いの香りのせいで、体はより一層空腹を訴え始めた。
「そうだ! せっかくだし、何か食べていきましょうよ!」
「嫌よ。外の食事なんて無駄に色々使ってて高価なんだから、お金が勿体ないわ」
レパールの提案を即座に却下するビヨンド。
「ええー! たまにはいいじゃない! それに、あんたはお金の使い道なんてないんだし、余ってるでしょ!」
「なんだかんだ服の修復とか、色々なところでお金を使ってるのよ。だから嫌」
ビヨンドは断固拒否する。
そんなビヨンドの態度に、大きなため息をつきながら、レパールは自分の服のポケットを漁り始める。
「仕方ないわね......。じゃあ、私が奢ってあげるわよ」
レパールはポケットから硬貨が入っていると思われる麻袋を取り出した。
使い込まれているのか、袋はズタズタで、レパールに相応しい綺麗なものではない。
「あら、普段からそんなに使い込まれたお財布を使っていましたっけ?」
「まぁ、ちょっとね」
レパールは手で物を掴むジェスチャーをする。
「はぁ......。手癖が悪いわね、このクソガキは......」
ビヨンドは即座に盗ったと理解し、呆れる。
「そんなことをしてると、ろくな大人になれませんよ......?」
「あ、あんた達に言われたくないわよ! 同族でしょ!」
「ふふ、冗談ですよ」
「私は本音だけど」
「何ですって!?」
レパールがビヨンドに掴みかかり、体を揺さぶった。
そんなビヨンドはレパールの頬を片手で挟み、手に力を入れる。
「ふふ、お二人は仲が良いですね」
「「良くない!」」
二人は同時にクレナイに振り向き、否定の意志を示す。
そんな二人を、まるで子を見守る親のように、笑顔で見守るクレナイであった。
ビヨンドとレパールが落ち着くと、店探しを始めた。
店が密集している地域に移動し、店の看板や様子を確認しながら歩く。
チーズとパンの店、肉料理の店など、様々な店があるが、レパールはしっくりこなかったのか、なかなか歩みを止めない。
「別にパンやら肉やら魚やらって、普段食べられるからあんまり特別感が無いのよねぇ。なんか、珍しい物でもないかしら......」
レパールがキョロキョロと見渡すと、気に入った店が見つかったのか、指を指す。
「お酒! お酒はどう!? 学校じゃ飲めないわよ!」
レパールは目を輝かせ、酒場を指指しながら二人に聞いた。
しかし、ビヨンドの冷たい視線とクレナイの不安そうな顔を見て、腕をそっと下ろす。
「じゃ、じゃあ......」
再び店を探すレパール。
駆け足で走り回っては止まり、走っては止まりを繰り返す。
すると、とある店の前で立ち止まり、の看板をじっと見つめ、ビヨンドとクレナイの元へ戻ってきた。
「あそこに海の魚の店があったわよ! 内陸地で海がないエリューでは珍しいわよ!」
ビヨンドとクレナイは店の前まで移動する。
石材建築が主流のエリューでは珍しく、木造建築の店だった。
ビヨンドは店の前に置かれている看板に気が付き、書かれている文字を読み始める。
「海の幸が豊富な国、ソルダから仕入れた美味しいお食事を提供します、と書いてあるわね」
「久しぶりに海のお魚を食べたいですね......。私はここで賛成です。」
「......私もここでいいわよ。それで、本当に奢りでしょうね?」
「勿論! 奢りでいいわよ!」
「じゃあ、ここで食べましょ」
レパールの気前の良さに若干怪しさを感じたが、ビヨンドは奢ってもらうことにした。
三人は店の中に入り、店内を眺める。
店には通常の座席と違い、靴を脱いで座る席が存在していたり、海に生息しているであろう魚の飾りが飾られているなど、エリューとは違う、ソルダの文化を感じられる店だった。
異文化に慣れない市民が多いのか、客はそこまで多くなく、比較的静かだ。
ビヨンドたちは慣れている椅子とテーブルの席に座る。
円形のテーブルの中央には、メニューが書かれている紙が置かれていた。
「じゃあ、何があるか確認するわね」
レパールはメニューを手に取り、眺め始めた。
「......私、エリュー育ちでエリューから出たことがないから、どれが美味しいのか全く分からないんだけど......」
レパールがそう言うと、クレナイが立ち上がり、メニューを覗き込む。
「この中だと、マグロが美味ですよ。私の故郷では幼い子どもに人気なお魚です」
クレナイはマグロのソテーと書かれている部分を指差す。
「へぇー......。って、誰が幼い子どもよ!」
レパールは怒るが、クレナイは笑顔で微笑む。
「幼稚なガキじゃない」
「幼稚じゃないってば! もう十四歳よ!」
「ふふ。でも、美味なのは本当ですよ」
「じゃ、あんたはそれでいいわね。さっさとメニューをよこしなさいよ」
ビヨンドはメニューを取り上げ、確認し始めた。
「この......! 奢ってもらう分際で......!」
レパールは怒りを露わにするが、ビヨンドは全く気にしなかった。
サラッとメニューに目を通し、テーブルの上にメニューを置いた。
「では、私は......。ヒラメのムニエルにします。......本当はお刺身で食べたいですが、流石に遠く離れたソルダから生魚を輸入するのは難しいのでしょうね......」
「お刺身って初めて聞いたけど、どんな料理なのよ」
「お魚を捌いて、焼いたりせずにそのまま食べるんですよ。私の故郷では、一般的なんですよ」
「さ、魚を生で!? 確実にお腹を下しそうな料理ね......」
「不思議なことに、海のお魚は基本的に生でも大丈夫なんですよ」
「へぇー......」
クレナイの故郷の話に驚くレパール。
その一方、興味がないのか、店員を呼ぶビヨンド。
隣の席で注文を聞いていたおじさんの店員が駆け寄り、注文を取る準備をする。
「ニシンの煮物で」
店員がメモすると、クレナイとレパールの注文を受ける。
二人が注文を終えると、店員は厨房へと駆け込んでいった。
「ニシンの煮物って、そんなに高価なものではないですよね? 奢りなのに良かったんですか?」
「ちょ、ちょっとクレナイ! 余計なこと言わないでよ!」
奢ると言ったはいいものの、あまりお金は使いたくなかったのか、レパールが怒る。
「いいのよ。......久ぶりに故郷の食材を味わいたいの」
「あら、ビヨンドさんって海に面した地域にお住まいだったんですか?」
「海に面したというか......。海に囲まれてるというか......」
「つまり、半島か島だったってことね」
「そこで、お父さんが取ってきた魚を食べて......。それで......」
故郷の話を始めたビヨンドだが、露骨に気分が落ち込み始め、レパールとクレナイが少し困惑する。
「ど、どうしたのかしら......」
「さ、さあ......」
レパールとクレナイはコソコソと話す。
「お父さん......」
その一言を聞いて、レパールとクレナイは察した。
「もしかして、ホームシックですか......?」
クレナイがボソっと呟く。
しかし、ビヨンドは首を横に振った。
「......ホームシックではないわよ。ただ、どうなったのかなって......」
「どうなった......って......?」
「......ずっと行方不明なのよ。私のお父さんは」




