支援要請
ビヨンドたちがランディの捜索を行った日の夜。
エリュー国境付近の森の中にて。
「はぁ......。今日も進展無しか......」
真面目そうな男が建物二十階に相当する深い穴を這い上がり、地上に顔を出した。
ずっと穴掘りをしているのか、顔や服は泥だらけだった。
しかし、顔や腕には一滴の汗も無かった。
「おーご苦労さん」
胡散臭い男が馬車から出てきて、コップに入った水を手渡す。
「あ、ありがとうございます......」
真面目そうな男はコップを受け取り、水を一気に飲み干した。
「いやー。【怪力の指輪】で掘るのが楽とはいえ、そうすぐには成果は出ないか......」
二人は焚火の前に置いてある椅子に座り、焼いていた魚を手に持つ。
「しかし、王様も無茶だよなぁ......。指輪があるとはいえ、スコップ一本で行ってこいだなんて......」
「まぁ、小さな道具じゃないと、国境で怪しまれて没収される可能性がありますからね......」
「うーん......。何か他の道具やら戦宝があればいいんだけどねぇ......。軍から拝借してくれば良かったなぁ......」
「軍で思い出したんですが、エリューにはナターシャ様が派遣されているのではありませんでしたか? 確か、戦場の下見のために、ひと月前ほどから......」
馬車に繋がれた馬の調子を見ていた運転手が話に混ざる。
「おお! そういえばそうだったね! 彼女も戦宝を持っているだろうし、もしかしたら役に立つかもしれないな!」
胡散臭い男は、ポケットから青い水晶が取り付けられたブローチを取り出した。
水晶の部分を指先で軽く数回叩くと、水晶が発光し始めた。
「......グレイブ軍第二戦闘部隊長、ナターシャだ」
突然、ナターシャという名の女性の声が周囲に響き渡す。
「こちらグレイブ戦宝調査部隊長のエルダだよ。どう? 元気?」
その声に返事をするように、エルダという名の胡散臭い男は返事をした。
「チッ......」
ナターシャは話すのが嫌なのか、わざとらしく大きな舌打ちをした。
「まぁまぁ嫌がらないでよ。仕事の話なんだからさ」
「......仕方ないな。それで、要件はなんだ?」
「実は命令で、エリュー国境付近の森の中で穴掘りしてるんだよね。それで、君の手持ちの戦宝で役に立ちそうなやつってない? このままだと、ただ穴を掘っただけで帰国することになりそうでさぁ......」
「......了解した。森の下見ついでに手伝ってやろう。数日後にそちらに向かう」
「よっしゃ。ありがとね。案内は都度【遠話のブローチ】で行うから安心してね。それじゃ......」
「待て。私からも一応報告しておきたいことがある」
会話を終わらせようとしたエルダを、ナターシャが引き留める。
「ん? 何?」
「お前は怪盗という存在については知っているよな?」
「怪盗? 確か、エリューを中心に活動する、貴族や国から堂々とお宝を盗む変人でしょ? それがどうしたの?」
「戦宝を巧みに使いこなす怪盗はかなりの実力者であるはずだ。もし怪盗と遭遇しても、絶対に刺激するなよ。敵に回したら厄介だ」
「あーなるほど。そういうことね、りょーかい。敵に回さないようにするよ。むしろ、味方にしちゃおうかな。多分エリュー国と敵対してるだろうし......」
「......どうするかはお前に任せるが、私や国に迷惑がかかるようなことはするなよ」
「はいはい。わかりましたよ」
「私からは以上だ」
ナターシャが報告を終えると、青い水晶の光は消えた。
「いやー、良かったねぇ。ナターシャが来てくれることになって」
「本当、ありがたいですね。これで、目当ての物がすぐに出てくれればいいんですがね......」
「逆に、戦宝が強すぎてエリュー軍にバレたり、目当ての物が壊れちゃったりして」
エルダは笑いながら言うが、真面目な男は顔は真っ青になった。
「そ、そんなことが起きたら......。さ、最悪の場合......」
「エリュー軍にバレたら殺されて、目当ての物が壊れたらグレイブで処刑か逃亡生活。悲惨だね」
「ひ、ひええええ!」
真面目そうな男は、頭を抱えてパニックになる。
「ははは! まぁ、大丈夫だよ。ナターシャは慎重な性格だから。うまいことやってくれるさ。ほら、明日も掘るんだから、早いうちに寝な」
エルダは真面目そうな男にそう言うと、真面目そうな男は馬車へと入り、椅子の座面に横になる。
処刑されるかもしれないという恐怖に震えながら、目を閉じて眠りについた。




