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【書籍化】魯鈍の人(ロドンノヒト) ~信長の弟、信秀の十男と言われて~  作者: 牛一(ドン)
第二章『引き籠りニート希望の戦国領主、苦闘!?』

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41.いい日旅立ち、見送りのない湊。

(天文22年 (1553年)7月10日)

ざぶんざぶんと熱田湊の護岸に白い粒を散らして波が打ち寄せる。

空は澄み渡り、まるで出港を祝っているようだ。

湊は拡張されて千石船に対応する入江も完成した。

肝心の千石船は来月の進水予定になっている。

それから試験航行を繰り返して、来年には本格運用に漕ぎ付ける。

やっとここまで来た。

だが、勘三郎(加藤 延隆(かとう-のぶたか))が気に掛けているのは1ヶ月遅れで進水する300石の小型外洋船だ。

ガレオン船よりスマートな2本マストトップスルスクーナーは、俺が昔造ったボトルシップの再現だ。

その美しい船体に魅せられて勘三郎は大枚を叩いた。

さらにその先の3本マストトップスルスクーナーがいつ完成するのかは全く判らない。

夢が広がるな。

でも、世界に向けて勘三郎と航海に付き合う気はないよ。

風が止まって地獄の漂流になりかねない。

風任せの航海なんて願い下げだ。

せめてディーゼルエンジンを搭載した帆船でないと。

つまり、おそらく一生無理だろう。


「殿、やはり本隊と同行して下さい」

「信広兄ぃ、もうそれはいいでしょう」

「少数でお忍びなど危険極まりない行為です」

「加藤らがいれば大丈夫ですよ」

「お任せあれ」

「それでも駄目だ」

「だから、本隊500名は俺の一日後に付いてくる事にしたではないですか。今更蒸し返さないで下さい」

「蒸し返すなと言うが一昨日しか話し合っておらぬではないか。やはり…………」

「その話は止め」


清洲で野口-政利(のぐち-まさとし)らと会談を終えた後、朽木に連れてゆく兵の数で争論となった。

朽木の後は六角家に付き合って浅井攻めに参加する事になる。

俺は100人で十分と主張したが皆に止められた。

その日、帰ると中根南城で皆が集まって議論になった。

熱田の城主らと信広兄ぃが駆けつけてきた。

皆、お供をしたいと言うのだ。

止めてくれ、銭が消えてゆく。


「どうか、我らをご同行させて下さい」

「殿が戦に参ると言うのに家臣が土を弄っていては笑われます。どうか、再検討して下さい」

「若様、私も流石に反対致します」


千代女まで反対派に回られた。

裏切りだ。

謀反だ。

今年は上洛と2つの大戦で大金が消えている。

無い袖は振らない。


『とにかく、銭が無いから駄目だ』


俺も頑固として100人を譲らなかった。

だが、千代女を敵にして勝てる訳もなかった。


「若様、熱田衆と津島衆が矢銭で一万貫文も寄付してくれるそうです」

「いつの間に?」

「事前に約定を交わしてありました。早馬を走らせ、確認を取るだけです」

「脅したな?」

「まさか、脅すなどする訳がありません。おそらく起こるであろう事を予測して、わたくしは若様なら銭が無ければ少ない兵で戦場に行くでしょうと言っただけです。そして、矢に討たれてお倒れになる事があれば、どれ程の被害になるでしょうかと問うただけです」

「それが脅しだろう」

「あのときは実際に起きるか判らない仮定の話です」

「それを詐欺と言う。六角家への援軍は内定していた」

「情報を知らぬ商人が愚かと若様がいつも言われているではないですか」

「むむむ…………」

「いずれにしろ、これで銭はできました」


最近、千代女に勝てない。

諦めて妥協する事にした。

だが無駄に銭を使うつもりない。


六角家への援軍を後続隊とする。

まず、俺が預かっている3,000人の兵(土木作業員)、沓掛・鳴海・大高・笠寺から500人、熱田から500人の延べ4,000人をすべて後続隊とした。

さっと行かせて、さっと撤退させる。

出発は六角と浅井の交渉が決裂してからだ。

決戦日を逆計算して八風街道を通って観音寺城で集結する。

後続隊の総指揮は信広兄ぃが取る。

知能指数に問題がある?

でも大丈夫だ。

軍師役に俺の右筆を同行させる。

それに熱田の城主が重臣として何人か参加するので信広兄ぃの独断専行はできない。

渡河は熱田衆と津島衆にお願いしておいた。


朽木同行の本隊は、毎度おなじみの信実(のぶざね)叔父上が名乗りを上げた。

勝幡常備軍から200人を連れて同行して貰う。

だが、勝幡の常備軍には能力に不安がある。

彼らは常備軍と言う土木作業員だからだ。

兄上(信長)に対抗して常備軍と言う名前にした。

兵もできる土木作業員。農兵よりマシってレベルだ。

一応、精鋭200人と言う事にしておこう。


「俺の(沓掛)黒鍬衆はどうする?」

「実践経験がありません。連れて行っても足手纏いになると思われます。勝幡の兵と一緒に面倒を見られるおつもりですか?」

「ないな。そんな事をする気はない」

「では、黒鍬衆は見送りましょう」


こうして沓掛城の黒鍬衆100人は御留守番が決まった。

こんな事ならば三代目の黒鍬衆は人手不足を補う為に解散させなければよかった。

彼らは各方面の鍬衆の頭として各地に派遣してしまった。


「岩崎の警備に派遣している鍬衆300人を推奨します」

「あそこも頭(元黒鍬衆)を半分抜いた所だろう」

「はい、その通りです。ですが、この2年間もずっと訓練してきた者達です。実践経験も豊富です。若様の手足となって動けるでしょう」

「では、信光叔父上に頼んで休みを貰い、こちらで使う事にする」


これで旧岩崎丹羽領から3,300人の救援隊が消えた。

だが、旧岩崎丹羽領から人材の引き上げはそれだけで終わらない。

野口政利が公方様から六角援軍の許可状を貰って来た。

(明智)光秀の交渉の賜物だ。

講和交渉が決裂した場合、織田家は六角家に援軍を送れと言う命令書だ。

公方様に命じられたのだから仕方ない。

信勝兄ぃが張り切った。

昨日、忙しいのに末森城に呼ばれたよ。


「魯坊丸、これで文句はあるまい」

「好きにして下さい。費用は持ちませんよ。こちらも余裕がありません」

「那古野も同じく余裕が無い」

「那古野は豊作ではないですか?」

「清洲に全部取られた。支援物資と言われれば断る事もできない」


末森は信勝兄ぃや家老の備蓄を切り崩して、兵2,000人を連れて斎藤家の援軍に向かう事になった。

信勝兄ぃは最初に言った3,000人に拘ったが、こっちは六角家に十分過ぎるほど兵を派遣するので回す余裕は無いと断った。


「六角家の援軍が多すぎる。こちらに回せ」

「熱田衆や沓掛・鳴海衆の兵が信勝兄ぃの指示に従うと本気で思っているのですか?」

「それをさせるのがお前の役目だろう」

「無理です。先だっての事を忘れたのですか?」


俺がそう言うと信勝兄ぃが青い顔をする。

援軍に向かって味方に討たれる姿でも想像したのであろう。

それで矛先を那古野に変えた。


「駄目だ。万が一に備えて那古野の兵は動かさん」


鶴の一声でおしまいだ。

信勝兄ぃが他の家老らに助けを求めるが、筆頭家老の信光叔父上に歯向かう者はいない。

末森の支配者が誰かはっきりする瞬間であった。


こうして、

朽木への護衛本隊500人。

六角家への後続隊4,000人。

斎藤家への援軍2,000人。

延べ、6,500人。

十分過ぎる援軍を送る事になってしまった。

他人の戦に兵を出し過ぎでしょう。

阿呆ですか?


勝幡の常備兵は伊勢への用心に残させました。

勝幡常備兵(土木作業員)はどんどん耕作地を増やしていかないと採算が乗らない。

戦で遊ばせる余裕は無いのだ。


兄上(信長)はお市の件でまだ怒っているので一兵も出さないと言っている。

うん、正解だ。

もっとも浮気がバレて、光秀に構っている暇も無いけどね。

帰ってくる頃には帰蝶義姉上の機嫌が直っているといいな。


「で、何で十兵衛がいるのだ?」

「旅は道連れと言うではないですか」

「謀反人の十兵衛。美濃に帰って申し開きしなくていいのか?」

「利政様は許してくれるでしょうが、安藤(あんどう)辺りが暗殺者を送ってくるでしょう」

「だろうな」

「私が死ねば(明智)光安(みつやす)叔父上も黙っていられません。稲葉家と明智家の対立になってしまいます。いない方がいいのです」


すっきりと坊主頭になった光秀が頭を撫でながら軽く言う。

織田家ではお市の輿入れの話が上がっていないので誰もまだ騒いでいない。

お市にも知らせていない。

だから、怒っているのは兄上(信長)だけだ。


「魯坊丸様も怒っているご様子です」

「そんな事はない。帰蝶義姉上に坊主にされて、斎藤家で謀反人に仕立てられた十兵衛を更に鞭打つつもりはないぞ」

(うん、鞭で光秀を打ちたくない)

助けて(・・・)頂けないのですか?」

「当然だろう。俺は他家の事に口出しなどしない」


暗に他家の姫の事に口を出した光秀が悪いと言っている。

溜息を付いているが、光秀は初めから承知している。

光秀の顔がそう言っている。

光秀は同行していた日根野-弘就(ひねの-ひろなり)の告発で斎藤家を裏切って織田家の為に働いていると言う嫌疑が掛かった。

こちらもまだ大騒ぎになっていないが、(安藤)守就(もりなり)が仕掛けた光秀排除の罠だ。

光秀が美濃に戻れば大騒ぎになるのが目に見えていた。


「ご安心下さい。既に明智家から廃嫡され、従兄弟の秀満(ひでみつ)に相続権を譲りました」

「では、光安様は繋ぎ領主から本物の領主になられた訳か」

「はい、そうなります。利政様にも許可を頂きました」

「利政様の為に働いたのに随分と酷い仕打ちだな」

「その通りでございます。ですが、自業自得と覚悟しておりました。利政様が現状維持を望まれるのならば、私は居ない方が良いでしょう。できますれば、魯坊丸様に召し抱えて頂きたいものです」

「嫌だ」

「そこを何とか」

「無理だ。俺の家臣にすると安藤殿の嫌疑を認める事になる。況して、お市の話を俺がさせた事になってしまう。それは困る。浅井家を断れなくなるではないか」

「ははは、そうでございました」


白々しい笑いを光秀がする。

そう承知していながら一緒に朽木まで同行したいと言う。

本当に図々しい。


「俺と十兵衛が一緒では不都合ではないか?」

「ですから、熱田神社で出陣式を行っておられる魯坊丸様とは一緒に行けません。ですから旗屋-金田(はたや-きんた)様、ご同行をお許し下さい」

「嫌だ」

「では、勝手に付いて行きます」

「その首を落とせと命じるぞ」

「魯坊丸様は無益な殺生はなさいません。私は魯坊丸様の為に働きたいのです」

「いらん」

「お市様の事では改めて、心より謝罪させて貰います。魯坊丸様が妹御をこれほど大切にされているなど知らなかったのです。二度と致しません」

「何度謝られても返答は同じだ」


白々しい。

だが、将を射んとする者はまず馬を射よと言うが、見事に馬を射られてしまった。

果心(かしん)に案内されて虎の穴に飛び込んだ。

光秀は加藤らの集会で俺が天下に号令する夢を語ったらしい。

六角家の戦で魯坊丸様の勇姿を見たい。

その一心で行ってしまった。

何故か、皆が光秀の味方をした。

同じ事を望む加藤らにとって光秀は同士であって敵ではないらしい。

加藤に頼まれれば俺も断れない。


「いいか、朽木までだ」

「はい、それ以降は石谷家(いしがいけ)を頼って、公方様を手伝って魯坊丸様を援護するつもりでございます」

「いらん。何もするな」


いい日旅立ち。

船が出港して桑名を目指す。

お市と光秀を会わせたくないので、お市らには影武者の熱田神社に回って貰った。

可愛い妹らの見送りをふいにされて俺は拗ねていた。


別にどうでも良い事ですが、魯坊丸が算出した予想経費。


延べ、6,500人。

兵1日8合を支給した場合。(1合150g))

1日7,800kg

1日(一俵30kg)260俵、(1石150kg)52石(7800kg)。


米一石を1貫文(1000文)として1日52貫文を消費する。

10日で520貫文が消える。

1ヶ月(30日)で1,560貫文が消える。

但し、これは兵が食う米代であり、実際は荷駄隊に掛かる費用が入る。


駄馬の積載量は25貫目(94kg)、人夫の場合は4貫目(15kg)とする。

1日の52石(7800kg)を運ぶのに、馬なら83そんなにいない、人なら520人が必要になる。


そう考えると、延べ約7,000人で計算をやり直す必要になる。

人1日8合、1日8,400kg(56石=56貫文)

10日で560貫文が消える。

1ヶ月(30日)で1,680貫文が食費費のみ消える。



日数が少ない場合は六角領で用意できるので問題ないが、長期化すると尾張や伊勢から輸送すると仮定する。

約10日分の荷駄隊を編成し、最大5,000人とする。


そう考えると、延べ約11,500人で計算をやり直す必要になる。

人1日8合、1日13,800kg(92石=92貫文)

10日で920貫文が消える。

1ヶ月(30日)で2,760貫文が食費費のみ消える。


その他の経費(人代・矢・火薬などを含む)を食費相当と考えると、2ケ月以降は約3,000~4,000貫文が必要と見る。(浅井家との戦の期間が1ヶ月を越えた場合の戦費。)


一万貫文の矢銭があっても3ヶ月程度で消える。

(信勝分を出すつもりはないが、穴が空くようならば貸す事になる予想)


<注>なお、沓掛の兵3,000人分の食費は元々魯坊丸の必要経費なのでもう少しは余裕があります。但し、日常的に消費されるので魯坊丸の日々の利益から消えてゆきます。よって早急に沓掛の収穫量を上げないと魯坊丸の儲けを消耗するお荷物状態だったりします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 千代女が優秀過ぎる件www でも確かに兵100で出陣して 万一あったら?と言われると 矢銭差し出すよなぁ 万一あったら 10万貫あっても補填できんやろうし
[良い点] 暴走する魯坊丸ファンクラブ。千代女さんも不貞腐れてごろごろする旦那様(仮)の姿を見せられるくらいなら戦場で活躍してもらいたいですわな。魯坊丸もいい加減に自業自得な現状を認めて諦めれば楽にな…
[一言]  ディーゼルエンジンは無理だけど、ポンポン船みたいなのはできないだろうか。  土木作業ができる兵士。ローマ兵かな?盾もつかうし  なるほど、そうなって幕臣になるのか。
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