24-3話
上空から迫り来るレッド・ドラゴンに対し、晴斗はE・F・Tで備えた。
晴 (特異なエネルギーを纏おうが、急降下の勢いに身を任せようが、E・F・Tの前には無用の長物。だがそれよりも……)
晴斗はE・F・Tを構えると同時に七人の侍を一斉に智琉に襲い掛からせた。
晴「自らの防備を欠いた今のお前の首を獲る方がお前の攻撃よりも一手先を抜きん出る」
刀を構え智琉へと斬り掛かる侍達の攻撃に確信を得たその時、晴斗の前に異様な動きを見せる物体が現れた。
晴「?」
その形と動きは紛れもなくレッド・ドラゴンのエネルギーであった。無数の小さな欠片の様なエネルギーが徐々に収束し一つにまとまりを見せていた。
晴「これは……奴のエネルギーか!?一体いつ……!?」
智琉は先程放った矢をE・F・Tに受け止められた時、E・F・Tの手が触れる寸前に矢に纏っていたエネルギーを目視不可な程に細かくばら撒いていた。そうする事でE・F・Tの能力によってエネルギーをかき消したと晴斗に錯覚させたのだった。今晴斗の前に集まるエネルギーはその時のものである。
智 (そのアンノウンには相当手を焼かされた。だからこそ、不意の突き方も心得た)
智琉は集めたエネルギーの形態を即座に変化させた。その姿は小さな矢を形作った。
晴「今更何に形を真似て何とする?そんなものを謀った所ですぐさま弄してしまえば……」
エネルギーで構築された矢が放たれたと同時に晴斗はE・F・Tを自身の前に呼び寄せ手を広げて防ごうとした。しかし、晴斗の予測に反し矢は晴斗自身にではなく晴斗の斜め上に放ち飛ばされた。
晴「何だ、一体?」
後方を振り向いた晴斗はそれを見て理解した。晴斗の背後に佇むラストエンペラーの持つ杖に備えられた調律石、レッド・ドラゴンのエネルギーの矢はそれを貫いたのだった。
晴「!?」
智「その石、それがお前がラストエンペラー以外のアンノウンを操れる絡繰だったよなあ?」
晴「ま……まさか、お前の狙いは初めから……!?」
晴斗の驚愕と同時に貫かれひび割れた調律石が音を立てて砕け散った。その瞬間、動く死体と化した燈葉と昌気が持っていたカードが消滅し、晴斗の前に立つE・F・Tと智琉に対し刀を振り上げた七人の侍もその姿を消滅させた。
智「残るはお前自身のアンノウンのみだ」
晴「な……なんという……!?」
驚きを隠し切れない晴斗のラストエンペラーに対し、頭上からレッド・ドラゴンが迫って来ていた。
晴「……侮るなよ。たかが石を砕かれた程度……。お前を討つ手はまだある!」
晴斗はラストエンペラーで操る燈葉と昌気の死体を操作し動かした。力を振り絞り操作する二体の死体は俊敏に行動し、昌気が智琉の胴体に掴み掛かりその場に抑えつけた。
智「ぐ……!」
上手く身動きが取れなくなった智琉に迫る燈葉の手に握られていたのは先程E・F・Tが折った天使の矢の矢先であった。
智「!」
折れた矢には既に魂を奪う効果は残ってはいないが、鋭利な矢の先端部分であれば智琉に致命傷を与える事は充分に可能であった。燈葉が振り下ろした矢先は智琉の喉元を深く確実に斬り裂いた。
智「があっ…………」
喉から噴き出す血潮に晴斗は智琉の死を確信した。その瞬間、智琉の体が破裂し煙りに包まれた。
晴「何!?」
晴斗にとってその現象は既にその目にしたものであった為、即座に理解した。立ち込める煙りから飛び出したのは智琉に姿を化けていた悪魔であった。そして晴斗はカードを構える弥結とその背後に身を隠していた智琉の姿を視界に捉えた。
晴「またしても……囮か……!?」
悪魔は手に槍を構えるとすぐ側の燈葉と昌気の死体の心臓部を的確に一撃ずつ槍を突き刺した。左胸に穴が陥没した二体の死体は糸が切れたかの様にその場に倒れ伏せた。これによって晴斗の手中にある戦力はラストエンペラーのみとなった。
晴 (…………命尽きて希望が断たれるのなら、恥を忍んで生を掴む!)
目前に迫るレッド・ドラゴンを前に晴斗は唇を噛み締めながら手に握るカードを掲げた。
晴「我が元に戻れラストエンペラー!勝機は訪れる、今は身を引けえ!」
込み上げる屈辱を抑えながら、晴斗は声を叫び上げた。レッド・ドラゴンの突撃から逃れる為に。しかし、晴斗の声にラストエンペラーは呼応せず一切微動だにしなかった。
晴「……何故だ?何故俺の言葉に応えない!?」
衆「そりゃあれだ……」
晴斗は一瞬自身の耳を疑った。しかし、それは確かに衆治の声であった。
衆「ラグ、ってやつだよ……」
晴「……衆治!」
地面に膝を着きながらも身を起こし黄金色の瞳を向けながらカードを構える衆治と、その前に立ち手の平の目をラストエンペラーに向けるアイズ・ワイド・シャットの姿がそこにあった。
衆「アイズ・ワイド・シャットの能力でお前とラストエンペラーの間の指示系統に歪みを作ってやった……。まあそのズレも十秒も無いだろうが……、今のお前にはそれだけで充分だ……」
唯一残されていたラストエンペラーの操作も引き剥がされた晴斗に打てる手段は完全に失われた。
晴 (…………負けたのか……?俺が……?)
固定されたかの様に動かないラストエンペラーにエネルギーを纏い強力な砲弾の如くと化したレッド・ドラゴンの突撃が炸裂した。地面を盛大に抉る程に凄まじいその衝撃は辺りに広がった。その瞬間、晴斗は自身の頭が一瞬で真っ白になった事にラストエンペラーの完全な崩壊を認識し理解した。
晴 (……死……か……。掲げた夢も……幻に帰すか……。いや……俺はこのその器ではなかったのかもな……成るべくしてなった結果か……)
ゆっくりと薄れゆく意識の中で晴斗の胸中にあるのは自分でも驚く程に穏やかな気持ちであった。その感情から浮かんだ晴斗の表情は柔らかな笑みであった。
晴 (……やっぱり……俺はあんたみたいにはなれなかったな…………迅…………)
地に倒れた晴斗の顔は智琉達との戦いでは決して見せる事の無かった清々しい笑顔に満ちていた。
続く




