24-4話(終)
土煙が晴れラストエンペラーの消滅と晴斗の絶命を確認した智琉は、立ち上がれない衆治とそこに寄り添う弥結の元へ歩み寄った。
智「……終わったよ」
衆「……みたいだな」
疲労困憊ではあるものの、三人の心には久しぶりの平穏が訪れていた。
智「とりあえず心壱さんの所に戻ろう。心壱さんにもこの事を伝えないと」
衆「ああ、そうだな」
弥「ねえ、あの人はどうするの?」
弥結は屍となって倒れる晴斗に目を向け尋ねた。
衆「弔ってやるさ、勿論な……。けど今は戻ろう、俺達の家に」
弥「……うん」
智琉は弥結と共に衆治の腕を抱えながらワンテーブルホームへの帰路に就いた。
三人の無事を知った心壱は大喜びすると同時にすぐさまブラック・スワンの羽を出し三人に処方した。元気を取り戻した三人と心壱、そしてワンテーブルホームの子供達の全員でその日の夕食は豪勢に行われた。漸く取り戻した安寧を喜びながら、大切な人達の無事を幸福に感じた。当たり前では無い、それでもこの瞬間には確実に存在するその平和を皆が心地いいと感じながら夜は更けていった。
その後、智琉と衆治は晴斗の遺体を丁重に埋葬した。そして、かつて晴斗と初めて相対した墓地に二人は赴きそこにある墓の一つ一つに花と線香を備え丁寧に手を合わせていった。晴斗との戦闘でその身を操られた人達、それを我が身を守る為とはいえ無下に扱った非礼の詫び、そして追悼の意を込めての行いである。
智「この人達は晴斗の事を許すかな?」
衆「さあな。奴も言ってたがそれこそ死人に口無しだ。文句があったとしてもその声は俺達には届かない」
智「じゃあ死んだ晴斗になら届く可能性はあるって事か?」
衆「……考えようによっちゃあな」
智「…………晴斗の考える事も今の俺達には分からないって訳か」
衆「?」
智琉は少しうなだれながら小さな声で言った。
智「……あいつの最後の表情、笑ってたな。それが何を意味するのか、何を思って死んだのかはもう分からないんだな」
衆「……そんなに分かりたいか?」
少しの沈黙の後、智琉は顔を上げて答えた。
智「別に、そこまで気にしちゃいない。衆治の言葉を借りるなら、分からない事を無理に理解する必要は無い、かな?」
笑顔を見せる智琉に衆治もとりあえず安心した。
衆「断言は出来ないがあいつもそこまででかい文句は言わないだろう。弔われるだけでも俺達の世界じゃ贅沢だ。どことも知れない地で誰にも気付かれず、途方の無い戦いの果てに息絶えるのが俺達の辿る道だ」
達観した目で遠くを見る様な衆治の表情に智琉は衆治のこれまで経験してきた苦労が僅かに垣間見えた気がした。
智「……見てきたのか、衆治はそれを?」
衆「……見てきたし迎えさせてもきた、いろんな奴にそういう最後を……」
自身の言葉に一旦の沈黙を挟んだ後、衆治は何かを決心した様子で智琉に振り向いた。
衆「……聞いてくれるか、智琉?俺がどんな生き方をして来たか、どんな戦いに身を置いて来たかを?」
その質問の答えに智琉の心は迷わなかった。それと同時に智琉は心壱と初めて会った日の夜の約束が頭に浮かんでいた。
智「ああ、勿論。けどその話は俺よりも聞かせないといけない人達がいる筈だよな?」
衆「…………ふっ、そうだったな。今まで掛けてきた迷惑の分、きっちり伝えておかないとな」
曇りの無い智琉の言葉が衆治の決意を後押しした。
その後、ワンテーブルホームに帰った衆治は心壱と弥結、そして智琉に彼らの知らない空白の自身の過去の事を話した。密緋と出会い革新機関に身を置き、メディエイターの本質を知った事。そこでどんな人と出会い何を見て何を聞き、全てを理解した上で自分が下した決断と行動を。その話に三人とも最初は驚きを隠せなかった。しかし、衆治の心配を掛けまいとする優しさと、自分達を信じ包み隠さず話してくれた事に心壱はとても嬉しく感じた。弥結と智琉も又、衆治の思いを理解しその内に秘めてた感情を分かち合えた気がし晴れやかな気持ちを感じた。
夜も更けた深夜、智琉は一人ワンテーブルホームの庭に出て夜空の星を眺めていた。
智 (居心地は全然悪くないんだけど、この家で寝ると何でか寝つきが浅くなるんだよなあ……)
特に何か考える訳でもなく、一人静かに呆ける智琉の背後から衆治の声が聞こえてきた。
衆「こんな時間に何やってんだ?」
衆治の疑問に智琉はありのままに答えた。
智「別に」
その答えを聞いた衆治も庭に出て智琉の隣に立った。
衆「智琉、体はなんともないか?」
智「……特に何も。何でそんな事聞く?」
唐突な質問に智琉は首を傾げた。
衆「……ちょっと前髪上げてみろ」
言われるがまま智琉は前髪を除け額を衆治の方に向けた。智琉の額にはE・F・Tの紋章が未だ刻まれたまま消えずに残っていたのだ。
衆「燈葉のE・F・Tで閉じ込められたお前の魂は雪久から借りたアイズ・ワイド・シャットの能力で作った歪みから漏れ出す様に表に出ているだけでE・F・Tの能力が消えている訳じゃない。これから生きていく上で支障は無いとは思うが何かしらの弊害があっても不思議には思わなくてな」
問いの意味に智琉は納得した。
智「そうか……。まあ今んとこはどこも悪くは感じないし、多分だけど大丈夫だろ」
衆「……そうだな。その気楽さがありゃ案外取り越し苦労かもな」
晴斗達と戦いを繰り広げる以前の智琉と何ら変わらないその姿に衆治は一安心した。
衆「お前、これからどうするんだ?」
智「え?」
衆「晴斗の打倒も果たした。次にお前は何を目標に目指すかって質問だ」
智「何って……、衆治は何かあるのか?」
衆「ん…………、別に」
智「何だそれ」
衆「まあしばらくはこの家で過ごすかもな。以前に比べるとここは俺にとって大分居心地の良い場所に感じてな。その先は未定だ」
智「そっか……。俺は…………、一旦もとの家に帰ってみるかな。爺ちゃんと過ごした家に。その後は……、色んなとこ旅してみようかな」
衆「一人で大丈夫か?」
智「分かんないけど、あんま心配はしてない。それに一人って訳でもないし」
衆「だな。お前にゃレッド・ドラゴンがついてるしなあ」
智「それもあるけど他にも……」
衆「?」
智「心壱さんや弥結、衆治が待ってるこの家の存在が俺を孤独じゃなくさせてくれてる。そう思ってさ」
衆「…………いつでも帰って来い。ここはもうお前の帰る家だ」
智「ああ、ありがとう」
衆「…………さて、俺もう寝るわ。夜更かしし過ぎるなよ」
智「ああ、そうする」
智琉に軽く手を振り衆治は室内へと戻って行った。その後少しの間、智琉は夜空を眺め続けた。
朝。起床した心壱がダイニングに入るとそこには衆治が腰掛けていた。
心「おはよう衆治くん、早いね」
衆「おはようございます」
そこへ子供達より少し早く弥結もやって来た。
弥「おはようございます、心壱さん」
心「おはよう。すぐ朝ご飯にするから子供達を起こして来てくれるかな?」
弥「分かりました」
心「衆治くんも智琉くんを……」
衆「あいつならもうここには居ませんよ」
心・弥「え?」
衆治の言葉に二人は目を丸くした。
弥「居ないって……?」
衆「智琉の奴、今朝早くに出て行ったみたいですよ」
その事実に心壱は驚きはしたが、すぐに納得したかの様に笑みを浮かべた。
心「……そうか。彼自身で決めたのなら僕達がとやかく言う理由は無いね」
冷静を取り戻す心壱に反し、弥結はどこか腑に落ちないと言った表情であった。
弥「でも、一言でも挨拶したかったな」
衆「居心地の良い居場所を発つ時は誰とも顔を合わせたくないもんだ」
弥「……どうして?」
衆「…………決意が揺らぐからだよ」
ワンテーブルホームを発ち歩き続ける智琉は一度不意に後ろを振り返った。が、もう既に孤児院は見えない所まで進んでいた。しかしそれを寂しいとは感じなかった。
智「……行って来ます」
清々しい気分に心が満ちる智琉は前を向き、自分のまだ知らない世界へ歩みを進めた。
season.1 完
《お知らせ》
ここまで「異形魅了のUNKNOWN」を読んで頂きありがとうございます。今回投稿した話を以ってseason.1を終了させて頂きます。今現在season.2を執筆中です。このページとは別に「異形魅了のUNKNOWN season.2」として投稿するつもりでいます。投稿開始は三月始めを予定していますのでそちらも是非読んで貰えると嬉しいです。再度、本作品をここまで閲覧して頂き本当にありがとうございました。




