23-3話
ラストエンペラーを含め四種のアンノウンを操って立ち塞がる晴斗に三人は苦戦を強いられていた。
智「どうにかして晴斗自身に攻撃か天使の矢を当てれば何とかなるのに……」
晴斗のアンノウン全ての僅かな動きに警戒しながらも衆治は更に何かに備えるかの様に周辺に注意を払っていた。
弥「何を見てるの、衆治?」
衆「…………」
衆治の空を見る目は緩もうとしなかった。
晴「お前のその怯えにも等しい目配りの理由も察しがつく。密緋のアンノウンを恐れての用心だろう?」
衆治の意図を察し揺さぶる晴斗の言葉を衆治は答えも頷きもしなかった。
智「衆治、密緋って……?」
衆「あの城で俺が戦った奴の一人だ」
晴斗の言葉は当たっていた。ペルフェット城で激闘を繰り広げた衆治にとって因縁の深い密緋。その密緋の死体も支配下に置いてあるとすれば密緋のアンノウンもこの近くに潜ませている筈と衆治は考えていた。この状況で更に目視不可の強力なムカデの攻撃を誇るムカデ人間をも敵にした時、それは比類なき脅威となり得ると衆治の直感は言っていた。
晴「その警戒は不要だぞ衆治。俺がこの手に手綱を握る許しを得ているのはこの三人の骸のみだ。密緋に関してはその例に外れる」
晴斗の言い放った言葉の意味が衆治にはよく分からなかった。
衆「許し?」
晴「この三人に関しては生前の内に死後の肉体の提供を言い渡してくれた。即ち、俺がラストエンペラーの能力でもって自らの戦力とする事への承認と受け取れ」
衆「……つまりは密緋からは死体を操るのは断られたと、そういう事か?」
晴「断られてはいない。第一、奴と出会ってからお前達との戦闘までほぼ間は無かった。故に密緋とは交渉の段階にすら至れていなかったのだ」
衆「そりゃ気の毒にな。けどそれを聞いて少しホッとした。お前らの中じゃあいつが俺にとって一番厄介ではあったからな。その脅威が取り去れたのは幸いだ」
意気揚々と笑顔で語る衆治に晴斗は怪訝そうな表情を浮かべて言い返した。
晴「どれだけ言葉で語り尽くした所で、命尽きた者達の幻影に畏怖するなど徒労の極みとも言える」
衆「何?」
晴「既にこの世にいない者を語る暇など俺達には許されていない。お前達が今見据えるべきはこの俺という存在のみ。それ以外の無益なるものに視界を狭まれていてはお前達の敗北は必至だぞ」
その言葉に智琉は疑問の念が浮かんだ。
智「死んだ人間の身体を利用する奴の台詞か?」
晴「なればこそ言葉に重みも出るだろう」
衆「そりゃどうだろうな?」
晴「?」
衆治の言い方には妙な含みが持たされていた。
衆「そこの音を操るアンノウンと俺は少し前に戦ったが、本来の持ち主の戦い方と比べてお前が操るそいつの戦闘用途は至極単純だ。音の衝撃を飛ばす、ただそれだけだ」
晴「…………」
衆「仲間だったなら知ってるだろ、そのアンノウンで出来る回避不能の攻撃。人の頭を一撃で狂わせる危険な雑音を。理屈通りならお前もそれが撃てる筈だよな?だが撃たない。今更お前が俺達に手心を加える理由も無い。なら答えは一つ、お前にはその雑音の出し方が分からないんだろ?」
言葉を噤む晴斗に尚も衆治は言い放った。
衆「幾ら他のアンノウンを操れると言っても、手にしてまだ昨日今日の状態じゃ元の持ち主程の真価は発揮させられないってのがオチだ。智琉、お前もどうせ勘付いてるんだろ?」
智「…………まあな」
衆治の言う通り、智琉もその感覚には覚えがあった。以前に戦った七人の侍と比べて今晴斗が操る侍達の動きはスピードの切れが僅かに劣り、統率もどこか朧げな様子が歪めなかった。
衆「つまりお前はそいつらのアンノウンが使えるだけで、そいつらが引き出してた戦い方までは真似出来ない。少なくともこの短時間の内にはなあ」
少しの沈黙の後、顔を上げた晴斗はどこか納得した穏やかな表情であった。
晴「やはりお前は注意すべき……、いや、尊敬するに値する男だ。今時分になってお前の存在が敵対している事に些かの後悔が生まれてきた」
衆「光栄だな」
晴「しかし、そうであってもお前達がこの状況を覆し得る要因には一歩及ばぬ。我が力の前にお前達が跪く現実に変化は無い」
衆「そうかい。ならその希望を信じ抜いていろ」
智琉と衆治はレッド・ドラゴンとシザーハンズを突撃させ、それと同時に晴斗も再び七人の侍を展開させた。数で攻め立てる七人の侍に加え、強力な広範囲攻撃を誇るエグジット・スピードの連携に翻弄されるも、二人は晴斗のまだ若干拙い操作精度の網目を潜りその攻撃に対応していった。その隙を見計らい弥結は天使の弓矢を晴斗に狙いを定めるが、それを阻止するかの様に侍の飛ばす斬撃が天使を掠め照準を狂わせた。
弥「やっぱり簡単には射抜けないみたい」
衆「だろうな……。智琉!」
智「分かってるよ!」
衆治の呼び掛けに呼応した智琉はレッド・ドラゴンの尾で周囲の侍達を振り払うとエネルギー弾を数発空中へと撃ち放った。
晴「何だ?」
晴斗が撃ち上げられたエネルギー弾を奇怪に見つめていると、そのエネルギー弾にシザーハンズが飛び乗ると、それを足場に飛び移って進んでいった。そしてそのエネルギー弾の道のりは晴斗の元へと連なっていた。
晴「空へ逃れての奇襲を図るか。それで侍共の壁を越えられると?無駄な事」
晴斗はシザーハンズが突き進む先のエネルギー弾を全て侍達の斬撃によって撃ち消した。足場を失ったシザーハンズはそのまま無抵抗に落ちるしかなかった。そこへ六体の侍が再び自らの刀にエネルギーを集中させた。
晴「空中では動作の全ての勝手が地上とは異なる。判断を誤ったな」
六体の侍が放った斬撃は真っ直ぐにシザーハンズへと向かっていった。空中で思う様に身動きが取れないシザーハンズに避ける術は無かった。容赦無く襲い来る斬撃にシザーハンズは無惨に斬り裂かれていった。
晴「他愛もない……」
その時、斬り裂かれたシザーハンズの体が突如破裂し煙に包まれた。その煙の中にいたのはシザーハンズに姿を擬態していた弥結の悪魔であった。
晴「何!?あれは……?」
衆「誤っちゃいねえよ」
驚きを隠せないでいる晴斗のすぐ側には本物のシザーハンズが迫り寄って来ていた。
続く




