22-4話
鍾乳洞を進んだ先には大きく開けた空間があり、家具の様な物は無いが細部の至る所に雪久がこの場で生活している様な情景が窺えた。
雪「適当に腰掛けてくれたまえ。それとも早急なカードの受け渡しを所望かな?」
衆「出来れば後者を選択したい」
雪「勿論構わんよ」
雪久は奥に置いてあった箱の中から一枚のカードを手にするとそれを衆治に渡した。
雪「これがお前さんの望むUC"アイズ・ワイド・シャット"だ」
弥「アイズ・ワイド……」
衆「…………シャット」
渡されたカードの名の響きに二人は少し心配を覚えた。
衆「俺達は目を覚まさせたいんだけどな……」
雪「心配は要らん。アンノウンの名など詮無きものだよ。おっと、これは失言だな」
弥「……兎に角、ありがとうございました。衆治、急いで山を下りよう」
雪「ここまで来た道のりをまた引き返すのはしんどいだろう?そこに楽に下山出来るルートを作っておいた。そこから下るといい」
雪久が指を差した方向には下へと続いているであろうトンネルの入り口が作られていた。
弥「本当にありがとうございます。行こ衆治」
衆「……ああ、先に行っててくれ」
弥「え?どうして?」
衆「すぐに行く」
疑問に思いながらも弥結は先にトンネルへと入って行った。
雪「まだ何か用かい?」
衆「……言っておきたい。あんたがこの山に囚われている要因の一端を俺は引き起こしてしまっている。それを謝りたい」
振り返り雪久を映す衆治の目は形容し難い感情が渦巻いていた。自身の背負う使命と真っ直ぐに向き合う雪久の姿に思わず衆治の体と口が行動を起こした。
雪「……お前さんはメディエイターが持つ力の本質を理解しているのか?」
神妙な表情のままの衆治に雪久は何かを察するかの様に問い掛けた。
衆「他人の寿命を奪い力に変える。その真実を知った俺は手が届く範囲のメディエイター達を滅ぼそうとした。俺のした事は正義なんかとは程遠い。そんな事をしても俺自身さえ満足しないのだともはっきり言われたのに、俺自身はその罪滅ぼしと託けて自分一人は体良く生き続けてる。それは俺の人生における恥と言っていい」
自分が伝えなければならないと思った事を衆治はありのままに打ち明けた。しかし、雪久の口から出た言葉は意外なものだった。
雪「良いじゃないか、恥をかけて」
衆「?」
雪「人生で恥をかいた数というのは人生に果敢に挑戦した数と同義だ。挑戦する心を持つ限り恥を臆する事も無い筈だ」
空いた口が塞がらず立ち尽くす衆治に雪久は更に言葉で突き動かした。
雪「行きたまえよ、急いでいるんだろう?」
はっ、と我に返った衆治はトンネルの入り口へ急ぐと、雪久を振り返り一礼しトンネルへと入って行った。
雪「…………俺がこの山に囚われているのも晴斗の暴挙も、全てはお前にとって想定の事なのか、迅?」
カードを手にした二人は急いでワンテーブルホームまで戻って来た。
衆「戻りました、心壱さん!」
ドアを開け衆治は心壱を呼んだが心壱の姿は見当たらなかった。
衆「あれ?心壱さん?」
弥「出かけてるのかな?」
疑問に思いつつも二人は最優先の目的に取り掛かった。ダイニングルームの扉を開けると意識を無くしソファに横になったままの智琉の姿を確認した。
弥「……衆治」
衆治は雪久から受け取ったカードをポケットから取り出すが、それをじっと見つめて手が動かずにいた。その姿に弥結は後ろから優しく囁いた。
弥「大丈夫、心配なんて要らないよ」
自身の決意と弥結の言葉に衆治は迷いを完全に取っ払った。
衆「ああ、ありがとな」
衆治は瞳を黄金色に変化させるとカードからアンノウンを呼び出した。
衆「UC"アイズ・ワイド・シャット"」
衆治の持つカードから現れたのは衆治の半分程の背丈の人型のアンノウンであった。その瞬間、衆治はそのアンノウンの能力とこの状況で出来る事の全てが頭に入ってきた。衆治がアイズ・ワイド・シャットの手を横たわる智琉の胴に翳した瞬間にその手の平から瞼が開いたかの様に眼球が現れた。その目に睨まれる事数秒後、突然智琉の体から眩い光が発せられたかと思うと瞬く間に光は治っていった。それと同時に智琉が呻きながら目を覚ました。
智「……ん……うう……」
衆「智琉!」
弥「智琉さん!」
自分を呼ぶ聞き慣れた声に智琉は無意識に耳を傾けた。
智「衆治……?どうしたんだ俺?」
衆「ふっ、寝ぼけてるのか?」
状況を飲み込み頭を整理する智琉の意識は徐々に戻ってきた。
智「何だか、悪夢とも言い辛い何かにずっと彷徨ってたみたいな、そんな気分だった……」
衆「そうか。兎も角、無事に戻って来れたんだ、素直に喜べ」
弥「そうだよ、智琉さん」
智「…………そうだな」
二人の温かい笑顔に智琉の顔もまた笑みが溢れていた。
衆「所で智琉、お前に聞いても分からないだろうが心壱さんが何処にいるか知らないか?」
智「いやさっぱり。いないのか心壱さん?」
衆「ああ、さっき帰って来た時から何処にも姿が……」
その時、部屋の窓を外から叩く音がした。驚いた三人が窓の方を向くと、外から窓を嘴で突く小さな鳥の姿があった。
衆「何だ?」
側に近寄って窓を開けた瞬間、衆治の鼻に異臭が突き刺さった。
衆「うっ!?」
その臭いの元は紛れも無く目の前の鳥だった。よく見るとその鳥は体中が汚れており妙な怪我も目立った。生気を感じない動きと異臭から衆治は即座に悟った。その鳥は既に屍と化してる事を。
智「どうした衆治?」
硬直する衆治を気にかけ智琉と弥結も窓の側に近付いた。
衆「奴だ」
智「えっ?」
衆「既にこの近くに晴斗が来てる。現に今こうして鳥の死骸を飛ばしてきやがった」
智「まさか!そんな……!」
晴斗が遣わせたであろう骸の鳥を見て智琉は何かに気付いた。
智「この鳥、何か咥えてるぞ」
よく見ると鳥の嘴には一輪の花が咥えられていた。その花を見た弥結は驚いた顔をした。
弥「この花!」
衆「知ってるのか?」
弥「私が昨日買ってきた花と同じ、お墓に供えた花に間違いない」
衆「墓って、あの墓碑か?」
智「晴斗はそこにいるのか?ひょっとして心壱さんも!?」
様々な考えが過る三人は居ても立ってもいられずすぐさま墓碑へと急いだ。
厄災での犠牲者を弔って建てられた墓碑。その前に晴斗と心壱の二人が静かに佇んでいた。
晴「この程度とは言え、死者への手向けにこの墓石は贅沢だな」
言葉とは裏腹に晴斗の声色はとても穏やかであった。墓を眺める晴斗に心壱は語り掛けた。
心「……晴斗くんだったね?君はどうして僕にこの墓までの案内をさせたんだ?そんなにもこの墓碑に何か思うものがあるのかい?」
心壱の問いにしばらく沈黙した晴斗は口を開いた。
晴「保安局の人間ならば理解の範疇の筈だ。厄災の折、宍澱区の者が辿らされた末路を」
心「宍澱区……?」
晴斗の口から発せられた言葉に心壱は心当たりが見つからなかった。その反応は晴斗にとっても意外なものだった。
晴「……惚けている風態にも見えんな」
心「僕の場合保安局に身内がいてね、コネという訳じゃないけどそれに近いものがあってあの孤児院を任せられてるんだ。だから正確には僕は保安局に勤めているとは言い辛い」
晴「ともすれば知り得る筈も無いという事か。嘆くべきなのか、それとも……」
心「どういう意味だい?その事が君と一体どうゆう……?」
そこまで言った時、遠くの方から声が聞こえてきた。
衆「心壱さん!」
智琉と衆治と弥結の三人が墓碑の場所まで辿り着き心壱を見つけたのだった。そして、駆けつけた智琉達はその場に居た晴斗とも目が合った。
晴「来たか……」
続く




