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22-3話




意識無く横たわる衆治の傍らに佇む男はしゃがみながら衆治の首元に指を添えた。

?「……やはり息は無しか、悪い事をした。だがこれも定めだ。せめて丁重に弔ってやろう」

男か衆治を抱え上げようと手を伸ばした時、男は視界の端に見慣れない二つの影を映した。

?「……!?」

そこにはそれぞれ天使と悪魔の姿をした小さな物体が空中から男を見下ろしていた。

?「まさか、アンノウンなのか?」

天使と悪魔は手にしていた矢を両手に持つと、同時に真っ二つに折った。

?「何をしてい……」

そこまで言って男は黙り込んでしまった。というのも、男の首には鋭利なハサミの刃が構えられていたのだ。

衆「下手な真似は起こさず、そのまま振り向け」

言われるがままゆっくり後を振り返った男が目にしたのは、自分の足で立ちしっかりと男を見据える衆治の姿であった。

?「……何故だ?確かに息は無かった筈だが……?」

衆「俺一人なら確実に助からなかっただろうが、これも定めだ」

衆治が目線を向ける先からは弥結が歩み寄って来た。

弥「上手くいったみたいだね」

衆「ああ、上出来だ」

二人は溺れる間際、弥結のアンノウンである天使の弓矢で自分達を射らせ魂を矢に移していたのだった。その為、抜け殻となった二人の身体は酸素を必要とせず水の中に居続けられた。そして水中から脱した後に魂を移した矢を折り魂を身体に戻す事であの状況から生還したのだった。

衆「さて、色々と質問したい事があるが先ず聞いておく。あんたは俺達の味方か?」

?「……味方かどうかは分からないが、俺は誰の敵にもなるつもりは無い」

衆「…………よく言う」

口で不満を漏らしながらも衆治は男からシザーハンズのハサミを離した。その状況に男は一息つきながら二人を見つめ直した。その目は黄金色から黒色に変わっていた。

?「……付いて来な」




鍾乳洞内を道なりに進みながら衆治達は男との問答を交わしていた。

雪「俺の名は雪久ゆきひさ。多少無理があるかもしれないが決して怪しい者ではない」

衆 (自覚込みかよ)

弥「私は弥結、こっちは衆治っていいます」

雪「よろしく、歓迎するぞ」

衆「歓迎ならもう受けたぞ。ドぎついのをな」

衆治は嫌味気味に言葉を漏らした。

雪「分かってもらいたい。信用たり得ない者を容易にこの山に足を踏み入れさせる訳にもいかないのだよ」

衆「その行為の明確な理由は何だ?」

雪「……すまんね」

全てを話そうとしない雪久に衆治は胡散臭さを感じつつも目的の為に堪えた。

弥「じゃあさっきの吹雪や光る虫とか、襲って来た水ってやっぱり……?」

雪「あれか?察しの通り、俺が仕向けたアンノウン達の能力だよ」

弥「全部一人でですか?」

雪「出来てしまうんだよ。俺は少し特殊でな……」

衆「メディエイターだからだろ?」

雪久は思わず立ち止まり衆治を振り返った。

雪「詳しいな。それぐらいは知ってるか」

感心する雪久に衆治は自らの目を見せた。その瞳はメディエイター特有の黄金色に煌めいていた。

雪「ほう、これはこれは」

驚くと同時に納得する雪久は再び歩き始めた。

雪「そういう事だったか。それにしても同じメディエイターに会うのは久しぶりだな」

衆「……もしかしたら既に会っていたかもしれないな、あの機関で」

衆治の言葉に雪久は断定的に答えた。

雪「それは無いだろう。俺は革新機関に属していた事は無い。必然的にお前さんに会っている筈は無い」

衆「……なのに革新機関の事は知っているのか?」

雪「人生を生きていれば凡ゆる物事を見聞きするものだよ。自分の意思に関わらずな」

笑顔の最中さなか、哀情混じりに語られる雪久の言葉は不思議な重みを持たせていた。

雪「ここまで色々と話したが、まだ本題には至っていないだろう?とりあえず言ってみたまえ」

衆「……ああ」

衆治はこの山へ足を踏み入れた理由、意識を閉ざした智琉の事を雪久に語った。

雪「成る程。その智琉という男の意識を戻す手立てを模索しにこの山に足を踏み入れたと」

衆「そしてあんたに会いに来たって訳だ」

弥「何か方法はありますか?」

雪「方法というか、お前さん達の願望を叶えるに足る能力のUCアンノウンカードならあった筈だ」

衆「本当か!?」

雪「本当だとも。お前さん達にそれを譲ろう。お前さんもメディエイターであるなら使える筈だな?」

衆「……ありがとうございます」

漸く伺えた衆治の素直な感情に雪久は笑みを浮かべ納得した。

弥「雪久さん」

雪「何だね?」

弥「雪久さんはどうしてこんな場所で一人でいるんですか?」

弥結はずっと心に引っかかっていた疑問を投げかけた。

雪「俺は……、この地を守らないといけないんだ。それが俺自身の使命だとも思っている」

衆「守る?」

弥「何からですか?」

雪久は一呼吸置いた後、静かに口を開いた。

雪「お前さんは革新機関にいたんだったな。ならあの機関がどの様な末路を辿ったのかも知っているな?」

衆「…………一応」

雪「未知の厄災が起こってからの数年は正に混沌を極めていた。そんな混乱を打開しようと凡ゆる人間達が組織を作り我こそはと台頭を図っていった。その最たるものと言っても過言でない勢力があった。その勢力の名をマスターピースと言う」

衆「マスターピース……」

弥「知ってるの衆治?」

遠い過去の記憶の奥底に衆治はその名を聞いた感覚が芽生えたが、それは酷く曖昧な感触であった。

雪「数多あまた存在した勢力と比較してもマスターピースの掲げる思想とは酷く歪んだものだった。その大望は常軌を逸していたが革新機関の存在がその歩みを滞らせていた。しかしそれも機関の崩壊によって連中の利己的かつ排他的な計画は一層の現実味を帯びてきた。その実現を阻む為にもこの山の警戒を怠る訳にはいかないのだよ」

衆「一体何を企てているんだ?そのマスターピースって連中は?」

雪「お前さん達が知る必要は無い。知れば否が応でもでも関わる事になるだろうし、それに俺はお前さん達を巻き込むつもりは毛頭無い。察するにお前さん達も誰かの厄介事に首を突っ込んでいる暇は無いみたいだしなあ」

雪久の言葉に衆治は言い知れない罪悪感が心に沈澱した。革新機関が崩壊する要因を招いた自身の存在がどうしようも無く苦く感じた。

衆「機関の崩壊が無ければあんたもこんな場所に縛られる必要も無かったのか?」

雪「さて、どうだろうか。革新機関の設立と崩壊、マスターピースの増長。それもこれも全ての元凶は未知の厄災に他ならない。どの道、俺は俺自身の正しいと信じる行いに準ずるだけだ。お前さんもそうなんじゃないのか?」

曇る衆治の心とは裏腹に雪久の言葉は晴れやかさを取り戻していた。その言葉に衆治も自分を取り戻した。

衆「そうかもしれない。今は一刻も早く智琉を目覚めさせて晴斗とのケリを付ける事が優先だ」

雪「晴斗……」

衆治の口から発せられた名に雪久は言葉を詰まらせた。

衆「晴斗の名に心当たりがあるのか?」

雪「……いや、聞かない名だね」

雪久のその反応に衆治は微かな違和感を感じた。




続く



《人物紹介》

深陰みかげ 雪久ゆきひさ

身長174cm 19歳

嫌いなもの:冷静スープ


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