22-1話
智琉と衆治の二人が晴斗達のいるドリームエンターパークへ出発してから二日、ワンテーブルホームのダイニングでは心壱が書類の整理をしながら二人の帰りを心配して待っていた。
心「……はあ、やっぱり不安を抱えてると今一仕事が手につかないなあ」
一人で片付けていると弥結が部屋へと入って来た。
心「あ、弥結くん、他の子達はどうしてるかな?」
弥「みんな外で遊んでますよ」
そう答える弥結の言葉は心なしか余所余所しかった。
心「ひょっとしてまだ怒ってる?」
弥「何の事です?」
心「いや、衆治くん達の見送りに君を起こさなかった事を……」
弥「怒ってませんよ。別に怒る様な事も無いですし」
心 (やっぱり怒ってる。あまり根に持つ様な子じゃないんだけどなあ……)
弥「それに、見送りなんて必要ありませんよ」
心「?」
弥「そんな事しなくても、衆治は絶対帰って来ますから……」
その言葉から、なるべく表に出さない様にしてはいるが弥結も又、二人の身を心配している事が心壱には窺えた。その時、玄関から扉を叩く様な音が二人の耳に聞こえた。
心・弥「!」
二人が急いで玄関に向かい扉を開けると、そこには意識の無い智琉を肩に抱えた衆治の姿があった。二人共に傷だらけであった。
心「衆治くん!智琉くん!」
弥「……っ!?」
衆「……心……壱さん……」
心「兎に角入って!すぐに体を治さないと!」
二人を家の中へ入れると心壱はすぐさまブラック・スワンの羽を用意した。
羽を打ってもらった智琉と衆治の体は即座に傷を回復させていった。意識の無い智琉をソファに寝かせ心壱は衆治に募る疑問を尋ねた。
心「色々聞きたい事はあるけど、単刀直入に質問するよ。君達の目的だった晴斗という男は倒せたのかい?」
衆「いえ……、あと少しの所だったんですが奴は姿を消しました。ただあいつの仲間達はほぼ削ったんで残ってるのは晴斗一人だけの筈です」
心「そうか。なら君達はまだその晴斗を追う気でいるんだね?」
衆「はい、そのつもりではあるんですが……」
衆治は浮かない表情を浮かべながらソファに横になっている智琉に目を向けた。
弥「そういえば智琉さんはまだ起きないね」
心「ブラック・スワンの羽の効果で体力も完全に回復しているからすぐにでも目を覚ましてもいい筈なんだけどなあ」
衆「…………智琉はもう目を覚ましません」
心・弥「え?」
衆治の唐突な言葉は心壱と弥結を驚愕させた。
心「目覚めないって……、一体どうして……!?」
問いを投げ掛ける心壱に衆治は立ち上がって智琉の元まで行くと智琉の前髪を手で退け額を露わにさせた。
心「これは……?」
智琉の額には異様な形の模様が刻まれていた。それは燈葉のE・F・Tが付けていたお面の紋章と同じものであった。
衆「晴斗の仲間の一人に燈葉という女がいて、その女が持つアンノウン、E・F・Tの能力が今の智琉の体に働いているんです」
心「……能力というのは?」
衆「物質が持つ力や働きをその内部に押し戻して閉じ込めてしまう。そしてそれを永久的に外部に出させなくしてしまえるのがE・F・Tの能力です」
心「それで、その能力と今の智琉くんが目を覚まさない理由がどう関係してくるんだい?」
衆「燈葉は閉じ込めたんです、智琉の魂を」
弥「魂……?」
衆「前に一度この目で見た事があります。E・F・Tに掴まれた一人が完全に意識が無くなった光景を」
心「それが魂を……?」
衆「身体の奥深く、どんな声も光も届かない深淵に永久に閉じ込めてしまうと燈葉は言ってました」
心「じゃあ智琉くんは死んだ訳じゃないんだね?」
衆「死んではいません。ですが、二度と表に意識が出てこない以上、生きているとも言えません」
その会話に弥結は自身の疑問を呈した。
弥「魂だって言うなら私のアンノウンの天使の矢でなら……」
衆「多分無理だ。E・F・Tの束縛力は甚大だ。弥結のアンノウンの矢でも不可能だ」
弥「……だったら、その額の紋章をどうにかして消す方法とかは……?」
衆「紋章の部分だけを抉り出せば効力も消えるだろうが、この刻印は相当深い。場所が場所なだけにその手段も取れないだろうな」
心「なら後は、その燈葉を倒すしか方法は無い訳か」
衆「それは無理です」
心「え、どうしてだい?」
衆「……燈葉はもう、この世にはいません」
心「ちょ、ちょっと待ってくれ!いないって……。でも今こうして智琉くんの体には……」
衆「燈葉は死ぬ間際、自分の持てる文字通りの全てを掛けて智琉の魂を封じたんです。その執念じみた力が死後の能力の永続を可能にしたんです」
心「まさかそんな……」
弥「出来るの、そんな事?」
衆「俺が今まで見てきた人間の中でも燈葉は恐ろしく強い精神と信念を持ってる奴だった。そんなあいつだからこそ……」
心「精神力が強い程にアンノウンもその力を増す性質上、起きても可笑しくはない現象ではあろうけども……」
弥「じゃあ……もう智琉さんはこのまま……」
衆「…………」
その場の空気が一気に静まり返った。ソファに横たわる智琉が二度と意識を取り戻さない、そんな事実に三人の口は語る言葉を見出せなかった。心壱が静かに呟くまでは。
心「…………もしかしたらだけど、手立てはあるかもしれない」
衆「!」
衆治は思わず立ち上がって目を見開いた。
衆「本当ですか心壱さん!?」
心「確証は無い。けど、この状況において彼に縋ってみるのは一つの手だ」
衆「彼?一体誰なんですか?」
少し考え込んだ後、心壱は語り始めた。
心「今から一年弱くらい前にこの家に一人の男がやって来た事があるんだ。見た目は若いんだけど物言いや立ち振る舞いは相当に大人びていた男でね。その男は僕にカードを具現化して見せて言ったんだ。"いつかこれに関して手の施しようが無い事態に直面した時、訪ねて来るといい"。そう言って去って行ったよ。これとは恐らくアンノウンに関しての事だと思う。その男なら智琉くんを目覚めさせる手立てを何か持っているかもしれない。勿論、確証は無いし可能性としても決して高くはないけど」
話を聞かされた衆治の頭には若干の疑心もあった。しかし、それ以上に衆治には無関係の人間の手を借りる事への抵抗が強く湧き出ていた。そしてその事を心壱は察した。
心「衆治くんは誰かを頼るというのは今も苦手かい?」
衆「え?」
心「君は昔から僕や周りの子達の助けを絶対に受けようとはしなかったね。誰かに弱みを見せない、弱い自分を悟らせない様に必死に固執していた。そんな君が初めて自分の友人として智琉くんをこの家に招待してくれた。それはきっと君が智琉くんに対して何か信頼出来るものを感じたんじゃないかな?」
衆「それは……」
心「今の君ならその彼を頼りにする事くらい簡単な筈さ。友人の命の為に」
心壱の言葉に背中を押された衆治は決断した。
衆「その男はどこにいるんですか?」
その反応に心壱は思わず微笑んだ。そして心壱は烈晶山と呼ばれる山の方向を指差した。
心「どんな時でもあの山にいる。そう言って彼は去っていったよ」
衆「ありがとうございます。早速向かいます」
心「教えておいてあれだけどあの山に登るのは大分危険だ。特に一人じゃ……」
弥「私も行く」
衆・心「え!?」
弥結の唐突な発言に二人は驚きを隠せなかった。
衆「お前、何言って……」
弥「ただ帰りを待つだけなんてもどかしいのは嫌だから。智琉さんの代わりに今度は私が衆治を助ける」
衆「いやしかし……」
弥「今回だけでいいから!」
衆「えっと…………、し、心壱さん」
心「悪いんだけど、今の彼女を止められる様な自信は僕には無くてね。ははは」
決断したら曲げない弥結と笑うしかない心壱に挟まれ衆治も腹を決めた。
衆「…………分かった。だが相当危険な事なのは覚悟しておいてくれ」
弥「うん!」
智琉を目覚めさせる為に衆治と弥結は一縷の希望に望みを掛けた。
続く




