21-3話
カードを握り締める燈葉の手は言い様の無い感情に支配されていた。
「よくも……、よくもそんな事が言えるわね。貴方の心の中に晴斗を思いやる気持ちなんて無いのに、貴方が語る言葉の胸中に晴斗の身を案じる感情なんて存在しないのに……」
智「……そうかもな。けど、だからこそ言える言葉だってある。晴斗の身なんか気にかけないからこそあいつの意志に背く様な考えだって持てる。それが出来ないからお前は晴斗の下した決意を否定も肯定も出来ないでいるんじゃないのか?」
燈「…………知った様な口ぶりを……」
智琉を見下し睨みつける燈葉の目は嫌忌が満ち満ちていた。
燈「もうこれ以上、私達を苦しめないで」
その言葉と共に燈葉は地面にしがみ付く智琉の手を力一杯蹴り上げた。
智「がっ……!」
燈葉に蹴られた智琉の手は地面を離れ、同時に智琉の体は深い暗闇の底へと落ちて行こうとした。その時、E・F・Tによって押さえ付けられていたレッド・ドラゴンが這う地面が突如として崩れ出した。
燈「!」
地面の崩壊によりE・F・Tの手が離れたレッド・ドラゴンは身動きを取り戻しその場から離脱した。予想外の出来事に燈葉は崩れゆく瓦礫をE・F・Tに触れさせ、最低限の瓦礫が残る様に能力で崩壊する力を押し留め自身の落下を防ぐ為の足場を形成するので精一杯だった。
燈「どういう事?刻印がある限り自然に崩れ始める筈なんて……」
智「その決め付けこそがお前の隙だ」
その声の方向を燈葉が向くと宙に羽ばたくレッド・ドラゴンの背に乗り得意げな表情を見せる智琉の姿があった。
燈「私の隙?何を言っているの?」
智「確かにお前のアンノウンが付けた紋章の効果は強い。それは今のお前が立っている足場を見ればよく分かる。けどお前は言ってたよな、刻印された場所は必要以上の崩壊は引き起こされないと。それはつまり、ほんの少しなら意図的に壊せるって事だろ?」
燈「確かにそうかもしれない。でもこんな、ここまでの規模の崩壊が起こせる筈が無い」
智「いや起こせる。割と簡単だ。ただ闇雲に壊そうとしたって途方も無い時間がかかるだけだ。けど、ある一点をほんの僅か破壊するだけでお前のアンノウンが固めたこの周囲は即座に崩れ去る」
智琉の口から聞かされる言葉を繋ぎ合わせた燈葉の洞察は確信に届いた。
燈「まさか、紋章を……?」
智「上手くいくかは分からなかった。E・F・Tの能力で守られた地面にはレッド・ドラゴンの力でも崩せるのは一欠片程度だ。その一欠片分、俺はお前が刻んだ紋章を削り取ったんだ。そしてそれは見事に成功した」
レッド・ドラゴンがE・F・Tに押さえ付けられる寸前、智琉はその近くの目に見える紋章をレッド・ドラゴンで破壊していたのだった。E・F・Tの紋章が刻印された部分は崩壊する力がその場に押し込められる為、幾ら破壊を試みようとも表面が僅かに削がれる程度にしか効果は現れない。しかし、智琉はその紋章が刻まれた部分を抉り取る様にして地面から紋章を切り離し、それによって効果が失われた地面の一部は自然崩壊を引き起こしレッド・ドラゴンの離脱に成功したのであった。
智「お前は俺の油断を誘う為、敢えていくつかの紋章を見える様にした。だが結果としてそれが俺の活路を見出す手助けなったんだ。これはお前の失策だ」
燈「…………言ってくれるわね。そんな事わざわざ言って貰わなくても分かるわよ」
燈葉はゆっくりと足場を登り安全な地面に足を掛けると固めていた足場を崩壊させた。それと同時にE・F・Tが指を鳴らし今まで見えていた紋章も見えなくさせた。
燈「こうしても今の私が完全に有利に立てたとは思わない。未だに私にとって気の休まらない状況が続いている事は確か。だけど、迷いなんて微塵も無い。例えこの身を犠牲にしてでも貴方と言う存在を完全に根絶させる。そうしないと私は自分の存在が許せなくなる」
カードを構えE・F・Tを佇ませる燈葉の言葉は燈葉自身の確固たる信念がこもっていた。
智「そうまで言うなら俺もここで決める。相応の覚悟を持ってお前との戦いを生き延びる。言ったよな、活路を見出したって」
翼を広げ雄々しく羽ばたくレッド・ドラゴンに乗り、智琉も又、燈葉同様にカードを強く構えた。互いに睨み合う両者は今の状況を慎重に整理した。
燈 (彼はもうあのドラゴンから降りて地に足を着けるつもりは無い様ね。そしてあのドラゴンも宙に羽ばたき続ける以上、私が周囲に張った罠も彼には意味を成さない。だとしても、向こうも闇雲に攻めて来る事は出来ない筈……)
智 (幾らレッド・ドラゴンでの突撃を繰り返してもあの手に触れられちゃ意味が無い。だが紋章が見えなくなった以上、レッド・ドラゴンでケリを付けるしか方法は残されていない。やはり……)
智琉は自身を乗せたままレッド・ドラゴン上空まで昇らせると、一気に急降下し始めた。
燈 (考え無しの特攻……?いや、違う!)
智琉を乗せたレッド・ドラゴンは燈葉ではなくその付近の地面へと突撃した。その衝撃は辺り一面に大量の粉塵を巻き上げる程に強大なものだった。
燈 (目くらまし!あの突撃はこの為のもの!?確かに攻撃が来る方向が分からなければ即座に反応するのも至難。だけどこの程度なら……)
燈葉はE・F・Tの両手を広げ辺りを大きく一掻きさせた。するとみるみる内に立ち込めていた粉塵が治り始めていった。
燈 (塵や砂の舞い散る力をその一粒一粒に押し留めればそれらは簡単に地に戻る。柔な目くらましなんて私には効かない)
粉塵が晴れ視界を取り戻した燈葉は自身に迫るレッド・ドラゴンの突撃を確認するとE・F・Tの手をその方向に翳した。
智「!」
まさかの事態に智琉は即座にレッド・ドラゴンを突撃から回避の行動を取らせた。レッド・ドラゴンはE・F・Tの手に翼を掠めるもギリギリの所で躱すと再び上空へと昇った。
燈「また同じ手段を取るつもり?」
レッド・ドラゴンは急降下で地面に突撃すると再度周囲に粉塵を巻き上げた。
燈「通用しない戦法を押し通すなんて、余程自信でもあるの?ならそれすら出来なくさせてあげるわ」
燈葉のE・F・Tが再び両手を広げ辺りを大きく掻き始めた。しかしその挙動は先程とは少し様子が違っていた。
燈 (貴方が自身の身を隠す為にこの粉塵を利用しているのなら、私はこれらを貴方の捕縛の為に利用する)
次の瞬間、立ち込める粉塵の中から凄まじい勢いでレッド・ドラゴンが燈葉の背後から突撃して来た。その直後、周囲を舞っていた粉塵は一斉にレッド・ドラゴンに向かって纏わり付くと、そのままレッド・ドラゴンを地面に押し付けガッチリと固定してしまった。
燈「搔き消すだけというのも味気が無かったから、こういった使い方で捕らえさせて貰ったわ。ただ粉塵を鎮めるだけが方法じゃない。それらが持つ働きや力の流れを封じ込め一点に集中させれば決して動かない拘束具にも応用出来る。どう?指の一本でも動かせるかしら?」
自身が捕らえた獲物のもとに燈葉は振り向き歩み寄った。それを見て燈葉は唖然とした。その場にいるのはレッド・ドラゴンのみであり智琉の姿は無かった。
燈「……いない?そんな……まさか……」
驚きを隠せない燈葉の背後に、割れたガラスの破片を片手に単身襲い掛かる智琉の姿があった。
智 (これで……)
続く




