21-2話
智「それで俺を倒し切れると思うなら幾らでも試してみろ」
カードを構え燈葉に向けてレッド・ドラゴンを勢いよく放った智琉の心にはまだ余裕が残されていた。それは燈葉が仕掛けた罠を理解した時からであった。
智 (どんな攻撃をして来るか予想が付かなかったが、崩れる瓦礫が攻撃手段なら大した事は無い。壁からは距離を置いたし、崩れる地面も宙を飛ぶレッド・ドラゴンには脅威にはならない)
その上、智琉は紋章が刻まれている付近の地面には決して近付くまいとした。これで自らが燈葉の張った罠に掛からないという確信が智琉の自信に繋がっていた。
燈「幾ら同じ事を繰り返したって……」
襲い来るレッド・ドラゴンに燈葉はE・F・Tの手を広げ構えた。しかしレッド・ドラゴンは構えられた手に触れる直前、手から逃れる様にE・F・Tの頭上に上昇した。
燈「!」
智 (さっきの蹴りから見てもあいつのアンノウンにシザーハンズ並のパワーは無い。あの手に触れさえしなければ、かち合いではレッド・ドラゴンの方が勝る)
智琉はレッド・ドラゴンを急降下させるとE・F・Tの眼前の地面を抉る様に引っ掻き、削れた破片をE・F・Tに浴びせかけた。燈葉はE・F・Tの拳で破片の一つ一つを叩き払うが、その隙を突き智琉はレッド・ドラゴンをその勢いのまま突撃させた。燈葉は咄嗟に防御するも間に合わずE・F・Tはレッド・ドラゴンの攻撃を喰らった。尚も智琉は砕けた瓦礫の破片をレッド・ドラゴンで掴むと再度攻撃に身を転じさせた。
智 (二つの攻撃を絡めていけばあのアンノウンの手も封じ込められる。レッド・ドラゴンの重い一撃を喰らわせ続ければいずれ……)
その時、智琉の足元の地面が急に脆くなったかと思うと途端に崩れ始めていった。それは智琉にとって余りにも唐突な出来事であった。
智「……!?」
真っ逆さまに崩れ落ちて行く瓦礫の中を智琉は必死にしがみ付き、崩れ残った部分にぶら下がる様にして踏み止まった。
智「馬鹿な、紋章のある場所はちゃんと避けてた筈なのに……」
燈「つくづく考え方が一歩欠落してるのね、貴方」
智琉が声のした方を見上げると、崩れかけの地面に掴まる智琉の手元の側で智琉を見下ろす様に佇む燈葉の姿があった。
智「何だと?」
燈「私が何の考えも無く、ただ単に自身のアンノウンの能力とその目印を貴方に明かしたとでも思ってるの?」
智「…………まさか、まだ罠を……?」
燈「当然でしょ。E・F・Tの刻印は目に見えなくも出来る。紋章のいくつかを貴方に見せれば貴方は目に見える紋章の場所にしか注意を払わない。そうとは知らない貴方が特定の場所に足を踏み入れた時、見えない紋章を消すだけで貴方は私の張った罠にはまる。そしてそれが今こういう結果として現れたの」
智「くっ……」
智琉は再びレッド・ドラゴンを呼び寄せこの状況からの脱出を試みた。が、智琉の思惑とは裏腹にレッド・ドラゴンは智琉の元に姿を現さなかった。
智「…………どうして……?」
燈「無駄よ。貴方の龍はE・F・Tが押さえ付けているわ。貴方を助けには来れない」
智「押さえ付ける?お前のアンノウンにそれだけの力なんか……」
燈「力なんて必要無い。貴方のアンノウンの動きを止める程度の事に」
そう語る燈葉の背後には地面に突っ伏すレッド・ドラゴンとその上に乗り両手で押さえ付けているE・F・Tの姿があった。レッド・ドラゴンは地に手を突き身を起こそうとするも、その力さえもE・F・Tの持つ能力によって体の内に押し戻されている為、レッド・ドラゴンは今の状態から全く身動きが取れなかった。
智「くそ……」
レッド・ドラゴンの異変を感じ取った智琉はカードを握る方の腕も伸ばし地面に手を掛けよじ登ろうとした。
燈「いい加減に目障りな行動を起こさないでくれる?そのまま奈落に落ちていく事が私や晴斗、貴方にとっても最適なのが分かるでしょ」
そう言うと燈葉は地面を掴む智琉の左手を踏みつけた。
智「ぎいぃ!」
苦痛の声を上げるも智琉は決して手を離そうとはしなかった。その表情に燈葉の心には苛立ちが込み上げてきた。
燈「……どうしてそこまでするの?そんなにまでして晴斗の邪魔をし続ける事が大切なの?誰かの掲げる夢を打ち砕く事がそんなにも楽しいの?貴方のその馬鹿げた直向きさが私には分からないわ」
智「…………やっとだな」
燈「え?」
智「やっとお前の人間らしい所が見えたな」
燈葉を見上げる智琉の顔は笑っていた。それは嘲笑ではなく、燈葉に見られた人間らしさに対する関心であった。
燈「何を言って……?」
智「今の言葉からお前がどれだけ晴斗の事を大切に思ってるかが伝わってきた。何を犠牲にしてでも成し遂げてみせるっていう執念にも似たものを今のお前から感じたよ」
燈「……そんな事…………」
予期しなかった智琉の言葉に燈葉は否定の言葉も肯定の言葉も浮かんでは来なかった。
智「それだけの事を俺に言えるんなら言える筈だ。お前が言うんだ。晴斗がやろうとしてる事をお前が言って止めるんだ」
燈「…………は?」
燈葉の思考は一瞬停止した。直後、燈葉は失笑混じりに口を開いた。
燈「……なにそれ?私をおちょくってるの?」
智「いや、寧ろ信頼してると思ってくれていい。お前の言葉になら晴斗だって耳を貸すだろ」
燈「そんな提案をそんな実直に宣えるだなんて……。今貴方とこうして対峙している私が貴方の要望を聞き入れると、よもや本気で思っていないわよね?」
智「じゃあどうして今お前は俺と戦っているんだ?」
燈「…………どういう意味よ?」
燈「そこまで晴斗の力を信じているのなら何であいつをこの場から逃がしてまで代わりに戦うんだ?」
燈葉の表情からは余裕や落ち着きと言ったものが少しずつ消え失せていった。
智「全てのアンノウンの統括なんて真似をもし実現出来たとして、その先あいつが何をするのかは分からない。でもお前は分かっている。その上で心配しているんだろ?誰でもない晴斗自身の事を。手にした力で野望を遂げようとする晴斗を不安に思ってるんだろ?それはお前の反応を見て確信した。俺には分からないがお前には分かる筈だ、晴斗が目指す目的は晴斗自身をも危険に晒す事が!」
燈「…………」
智「あいつに力を使わせない為に、使って欲しく無いから俺と対峙してるんじゃないのか?だったらお前が言えばいい、こんな計画は諦める事を。違うか?」
燈「黙って……」
智「晴斗を守りたいなら、本当に晴斗の力になりたいのなら伝えるんだ!このまま進み続けたら自分が本当に救われて欲しい人は救われない事を!お前自身の言葉で……!」
燈「黙りなさい!」
大声を荒げる燈葉の目からは微かな動揺が見て取れた。
燈「……私にそんな言葉を投げ掛けて、何を企んでるの?」
智「言葉で相手の心を変えたいなら相手の信念にのし掛かる程の言葉を突き付ける。お前から教わった事だ」
この短時間で二人の精神の格差は格段に狭まっていた。
続く




