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20-4話




密緋は透明化し見えないムカデを撃ち出し続け、それを衆治も巧みにシザーハンズで弾き返していった。目に映らないムカデを相手に幾重にも打ち返し対抗出来るのは密緋との戦闘を重ね続けてきた衆治の経験によるものが大きかった。

衆 (空気中の塵の僅かな流れを読み、あいつの今までの攻撃パターンと照らし合わせれば見えなくとも太刀打ちは出来る)

繰り出す攻撃の一つ一つに的確に合わせ喰らい付いてくる衆治に密緋も持てる力を余さなかった。

密 (こっちの攻撃を読み取るすべは神がかりだな。だが、例え見えていようとも奴が潰れかけなのは変わらない。徐々にではあるがシザーハンズの動きも鈍くなってきている)

ムカデ人間の攻撃をシザーハンズが弾く度に回廊には鈍い音が響き渡った。

密 (透明化したムカデの姿は俺の目にも映らねえが大体の位置と状態は伝わって来る。今の攻撃で左の牙が叩き斬られたな。頭部付近の甲殻にも相当のヒビも入ってる。これ以上は限界だな)

密緋は連撃を止めムカデを引き戻すとシザーハンズに狙いを定めムカデを構えた。

密 (これで決める。今のあいつなら片方の牙だけで充分に仕留められる)

意を決して放たれたムカデはシザーハンズに向かって猛スピードで力強く飛ぶ様に伸びていった。衆治はその攻撃に備えシザーハンズで迎撃の構えを取った。

密 (受けてみろ。今のシザーハンズにこいつを弾けるならなあ!)

ムカデの攻撃をシザーハンズはハサミをぶつけ弾いた。しかしそれは今までの様に弾き返すのではなく、ハサミを盾にしてムカデの動きを緩めそのまま別方向に軌道をずらす様に受け流す形であった。

密「!?」

ムカデの攻撃をいなしたシザーハンズは即座にムカデ人間本体に向け勢いよく駆け出した。

密 (そういう事か、あいつも仕留めに来たな。ムカデ人間本体への特攻の為にムカデの攻撃を弾き飛ばして距離を稼いだって訳か。だが……)

弾かれたムカデは本体に迫るシザーハンズを防げない程に遠くに飛ばされていたが、密緋にはまだ余裕があった。

密 (ムカデ人間本体に絡みつくムカデの尾の方にだって甲殻の鎧は付いている。頭方向程攻撃に特化しちゃいないが、シザーハンズの一撃を防ぎ切るくらい造作もねえ)

本体を纏うムカデの尾を左腕に集中させたムカデ人間で密緋はシザーハンズの迎撃に打って出た。しかし、シザーハンズは直前で高くジャンプし、左腕を突き出して来るムカデ人間の頭上を飛び越えてその先の密緋に向かって来た。

密 (まさか!?衆治の狙いはムカデ人間本体じゃなくはなからこの俺!?)

ハサミを構え一瞬でシザーハンズは密緋の目の前まで襲い掛かるが、それでも密緋の余裕は崩れなかった。

密 (俺を仕留められると思ってんのか?シザーハンズの間合いくらい昔から頭に叩き込んでる。それこそ避けるのに何の苦も無え!)

シザーハンズは振り上げたハサミを力一杯密緋に振り下ろした。が、ハサミの間合いを熟知している密緋は軽く後方に仰け反りその攻撃を躱した。今の一連の流れの間に密緋は既にムカデの頭部をシザーハンズまで迫らせていた。

密 (背中がガラ空きだ。そのまま…………!?)

それに気付いた時、密緋は理解出来なかった。自身の胸部から腹部にかけて裂かれた深い斬り傷が。斬られたであろう傷から噴き出す血の意味が。

密「なっ……!?」

密緋は背中から後方へと倒れた。襲い来る痛みに悶えながら、尚も迫るシザーハンズを密緋はなんとかムカデの攻撃を仕掛け突き離そうとした。その攻撃にシザーハンズは瞬時に衆治の前にその身を戻した。

密「ば……馬鹿な、シザーハンズの攻撃は……確かに躱した……。それなのに……!?」

その時密緋は妙な感覚に襲われた。霞む視界、思う様に動かない体、頭が揺れるかの様な自身の状況に密緋は困惑を隠し切れなかった。

密「何だ!?一体……何が……!?」

衆「喰らったんだよお前は。シザーハンズの攻撃を」

密「んな訳あるか……。俺は確実に……避けた筈だ。喰らったなんて……そんな事が……」

衆「確かにお前は俺のシザーハンズの事を熟知している。そんなお前に攻撃を当てるのは不可能に近かった。だがお前は肝心な事が分かっていなかった。お前自身を、お前のアンノウンを」

言葉の意図が読み取れない密緋に衆治はシザーハンズの右手のハサミを差し出して見せた。シザーハンズはハサミの先で何かを挟んでいた。

密「………………まさか」

密緋は漸く理解した。ハサミの先にある薄っすらと見える物体、それはシザーハンズが叩き斬ったムカデの牙だった。ムカデから斬り離された後も透明化し続ける鋭利な牙を衆治はハサミの間に挟みシザーハンズの間合いを伸ばしていたのだ。透明で見えなくなったリーチの伸びたシザーハンズの一撃を密緋は喰らっていたのだった。

密「そうか……そりゃ合点がいく。俺のこの体の不調も……ムカデの毒が原因か……。こんな毒喰らっても……それでも戦い続ける様な奴らと……やり合ってきたんだな……俺……」

密緋は血が滲み出る傷を押さえながらゆっくりと立ち上がった。互いの姿をその目に映す二人は共に満身創痍を迎えていた。神経毒の効果で満足に立っていられない筈の足に気力を振り絞りながら二人の考える事は同じであった。次の一撃でどちらかが命を落とすと。

密「衆治、お前に再会したら……聞きたかった質問を今思い出した……」

衆「何だ?」

密「お前……水檻も殺したのか?」

衆「いや……、あいつだけは逃した。あいつを殺す事は出来なかった」

密「……そうか。なんとなく……そんな気はしてたんだけどな…………」

二人の間に流れた一瞬の静寂を先に破ったのは密緋だった。密緋の死力を尽くして撃ち放ったムカデに呼応するかの様に衆治もシザーハンズを特攻させた。突撃して来るムカデを衆治は先程同様ハサミを盾にして受け流し、真っ直ぐムカデ人間本体に突進していった。しかし、密緋は既に本体が無防備になるのを覚悟でムカデを本体から切り離していた。頭部の攻撃を受け流したシザーハンズに向けてムカデの尾の先端が突き刺す様に迫っていた。

衆「チッ!」

突き刺さる寸前でシザーハンズは左腕で尾を掴むと細く脆い尾を叩く様に斬り落とした。しかしその時、弾かれていたムカデの頭部がシザーハンズの背後から強襲しシザーハンズの左腕を根元から引き千切った。

衆「うぐっっ!」

宙を舞う左腕に密緋は勝利への希望を見た。それが敗因となった。その光景に一瞬、ほんの一瞬ムカデの動きが遅れた。それは誤差と呼ぶには余りにも乏しい僅かな遅延であったが、それが衆治に活路を見出させた。その緩みの隙を突きハサミでムカデを地に叩き伏せたシザーハンズが目指すものはムカデ人間本体のみであった。

密「!?」

全てを出し尽くした密緋のムカデ人間にシザーハンズの一振りを防ぐすべは残されていなかった。立ち尽くす事しか出来ないムカデ人間はシザーハンズの一撃を浴び、そのダメージに持ち主の密緋は言葉一つ発さずに倒れた。同時にシザーハンズの左腕も地面に落下した。

衆「……はあ、なんとかなったか……」

絶え絶えな息を堪え衆治は密緋の元へと歩み寄った。戦いを終えた二人の瞳は普段の黒い色に戻っていた。

密「……が……あ……」

密緋は僅かに息はしていたがそれも長くはないのは目に見えた。

密「……衆治、俺達……どこで間違えたんだろうなぁ…………分かんねえよ……」

衆「……分からない事を無理に理解する必要は無い。だろ?」

密「……ふっ、今思うと……随分無責任な言葉……だな……」

衆「だがその言葉に救われた人も居た筈だ」

密「……そう……かも……な……」

その言葉を最後に密緋は静かに息絶えた。密緋の顔はとても穏やかなものであった。シザーハンズをカードに戻した衆治は密緋の骸に背を向けた。

衆「俺はこうして生きてる。俺の決断は間違ってなかったんだよな、麻紘」

城の上階を目指し衆治は歩みを進めた。




続く


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