20-3話
密「孤独が嫌だ?誰かを失いたくなかった?それが俺の行動の根源とでも言いたいのかあ?くだらねえ、くだらな過ぎてあくびも出ねえ」
衆治の言葉を密緋は頑なに受け入れようとはしなかった。
密「俺がそんなに弱い人間に見えるか?そうまでして自分を優位に見せたいか?だったら分からせてやるよ。俺とお前の力の差、格の違いをなあ!」
不機嫌な怒りを撒く密緋を察し、衆治は何も言わずにシザーハンズを構えた。
密「何度も言ったがお前が俺に勝つ道理なんて無い。それは意地や強がりで言ってんじゃない。確固たる理由があっての言葉だ」
衆「まだ何かあるのか?」
密「その通り。俺はお前のシザーハンズの事を知り尽くしている。だがお前はムカデ人間に関して認知していない事が二つある」
衆「何!?」
密緋の口から出た言葉は衆治を驚愕させた。
密「と言っても、んな大層なもんじゃねえ。とっておきの奥の手なんて到底言えない陳腐な事だ。だがお前なら理解出来る筈だ。今の俺とお前の間でその陳腐の違いがデカく作用する事くらい」
衆「…………」
密緋の表情からその言葉がハッタリではない事を悟った衆治は警戒を強めた。密緋は二匹のムカデを透明化している為、その動きを捉える事に注意した。
密「衆治、今のお前は警戒しているつもりでも心のどこかで余裕を持ってる筈だ」
衆「一体何を根拠に……?」
密「今までの俺との戦いでお前はムカデ人間の攻撃の射程をその頭に刻んでる筈だ。その距離ならムカデを最大まで伸ばしても届かないと無意識に認識している。その認識から生まれる余裕がお前の精巧な目を曇らせてんだよ」
その時、衆治はシザーハンズの身動きが全く取れないでいる事に気が付いた。
衆「!?」
密「驚いたか?攻撃を受けている事が信じられないか?」
微動だに出来ずに傷付いていくシザーハンズの状態が明らかとなっていった。シザーハンズの体に締め付ける様に巻き付いている一匹のムカデが徐々にその姿を露わにした。
衆「なっ……!?」
密「お前は錯覚していた、二匹のムカデはムカデ人間本体から切り離せないと。だろ?」
衆「まさか……!」
密「ムカデは二匹とも本体から切り離した状態での操作も可能だ。俺の視界の範囲内ならムカデ人間の攻撃射程に制限なんて無いんだよ」
鋭く尖った脚と牙を立てながらゆっくりとシザーハンズを締め上げるムカデを振り払う様に衆治はシザーハンズの腕を広げようとしたが一切動かなかった。
密「獲物を捕らえたムカデの締め上げる力は桁違いだ。火事場のクソ力を使ったってお前にそいつは破れやしねーよ」
解ける気配は無く、更にムカデは強くシザーハンズの体を締め付けていった。
衆「ぐっ……」
密「骨も軋んできただろ?このままそいつを締め潰しゃ最悪お前も死ぬ事になるが。それとももう片方のムカデに首を刎ねられる方がマシか?」
衆「……あんまり調子に乗るなよ。どれだけ離れた場所に攻撃が届いた所で所詮はお前のムカデだ。対処のしようは心得てんだよ」
そう言うと衆治はシザーハンズに絡みつくムカデの体の一部にハサミを立てた。まともに身動きが取れなくともほんの少し手を伸ばすだけで届く関節部分の甲殻の隙間にそのままハサミの刃先を突き立てた。その瞬間、ムカデは反射的に仰け反り一瞬だけ締め付けを僅かに緩めた。その一瞬の隙を見逃さず衆治はシザーハンズの腕を力一杯広げてムカデの胴体を掴むと、今度は関節部に深々とハサミを突き立て真っ二つに斬り裂いた。勢いよく体液を吹き出しながら地に伏しもがき暴れるムカデの上半身の首元をシザーハンズは踏みつけ、固定された頭部にハサミを突き刺した。刺された瞬間暴れ狂うムカデであったが、その動きは急速に衰えていき、やがて動かなくなった。
衆「はあ…………はあ……」
密緋の戦力を大きく削ったとはいえ、衆治が負った傷も決して少なくなかった。
密「一匹始末したとは言え未だもう一匹。加えてさっきの攻撃で相当な量の毒も回った。状況はお前の劣勢に傾いてるぞ」
衆「!?」
衆治は驚きを隠せなかった。それもその筈、二匹いる内の一匹のムカデの息を完全に止めたにも関わらず、持ち主の密緋は汗一つかかず涼しい顔をしていたからだ。
衆「……何故だ?あれだけのダメージを受けてどうしてお前は……?」
密「これがもう一つのお前が知らない秘密、ムカデ人間が使役する二匹のムカデが負ったダメージは俺の元には来ない」
衆「…………何だって?」
言葉を飲み込めない衆治に密緋はムカデ人間を指差して言った。
密「俺のアンノウンは隣にいるこの本体の人型であって二匹のムカデは所謂付属品だ。ただの武器。お前のシザーハンズだってハサミが欠けたりしただけじゃお前自身にダメージは返って来ないだろ?」
負傷と体力の消耗を引き換えに果たした衆治の行いは密緋にとって取るに足らない想定内の事であった。
密「まあ、あのムカデも二匹いたからこそ一匹はさっきみたいに切り離して使えたんだけどなあ。残り一匹となった以上、本体を丸腰にしない為にもムカデを切り離すリスクは負えない。というより、わざわざ負う必要が無いだけだけどな。今のお前には」
衆「……調子に乗るな」
衆治は傷付いたシザーハンズを立て直そうとするが、思う様に力が入らず密緋に構えるハサミもどこか弱々しかった。密緋の言う通り今の攻撃で受けた毒の影響は衆治のメディエイターの力を持ってしても打ち消せるレベルを大幅に超えていた。
密「ここまでやった事は俺が褒めてやるよ。どうせお前は俺からの称賛なんか受け取りゃしねえだろうが」
ムカデ人間の本体から伸びゆらゆらと靡きながら攻撃の機会を伺う透明化されたムカデを密緋はシザーハンズに向け放った。
密「じゃあな、親友」
立ち尽くすのみのシザーハンズを密緋は簡単に狩れるものと踏んでいた。しかし、その攻撃をシザーハンズはハサミで弾くと、的確にムカデの頭部に反撃を喰らわせた。
密「!?」
即座に密緋はムカデを引き戻した。あまりの事に密緋は狐につままれた感覚に陥った。
密「まさか、見えてんのか?」
衆「見えてるかどうかで言えばその自信は無い。だが、お前のアンノウンが繰り出す攻撃であるならどこまでも喰らい付いてやる。その自信だけなら充分にある」
最早限界に到達しそうな体を衆治はただ気力のみを糧に奮い立たせていた。
密「そうだった、そうだったなあ確か。最悪の状況に追い込まれた時程、自分でも意図しない実力を発揮する。そういう奴だったよお前は」
二人の勝負は更なる熾烈を極めていった。
続く
《UC紹介》
ムカデ人間 身長2m
持ち主:雉室 密緋
能力:二匹の巨体なムカデを自在に操る。二匹のムカデの牙には神経毒が含まれており人間、アンノウンを問わず効果が作用する。ムカデは持ち主の意思でその姿を自由に透明化でき、本体の人型からの切り離しも可能である。又、ムカデが負った傷などはムカデ人間のダメージとして換算されない。




