20-1話
ムカデ人間の牙でカチカチと音を立てながら、密緋は衆治に苦言を呈した。
密「過去と向き合うってったか?メディエイター達を殺した罪と?そんな事して何になる?」
衆「!?」
密緋の言葉は衆治にとって予想外のものだった。
密「俺はな衆治、お前があのメディエイター達を死に追いやった事自体に憤っちゃいない。あのまま機関に残しておくのは勿論、全員無事に脱出出来たとしてもその先を真っ当に生きていけるかは疑問だ。そういう意味じゃお前の取った行動は革新機関のヤバさを世界に訴えるには最適解だったんじゃないか?」
衆「それはお前の勝手な憶測だ。あの時の俺の意思決定からあの結果が生まれたのは確かな事だ」
密「それでお前自身が苦しんでんだから世話無いわな」
衆「……何が言いたい?」
薄ら笑いを浮かべる密緋を衆治は睨み付けた。
密「あの時、お前がメディエイター達を滅ぼそうとした時、俺はお前を止めようとした。それはメディエイターを守る為じゃない。そんな事したってお前が報われないのが分かってたからだよ」
衆「…………」
密「メディエイター達の命を奪った所でお前の心か何かが救われない事は目に見えてたからなあ。案の定、お前は今になってその事を悔いている。やるだけ途方も無い無意味な後悔の真っ最中……」
衆「黙れ!」
冷静さを欠こうとする衆治はシザーハンズのハサミで地面を叩き斬った。凄まじい衝撃音と共に地面にヒビが広がった。
衆「俺がした事が間違いだったかどうかなんてのは分からないし、おそらくその答えは一生俺の前には現れてはくれない。それでいい。俺は許されようなんて思ってもなけりゃ今の自分を捨てるつもりも無い」
それは衆治にとって嘘偽りの無い信念であった。メディエイター達の命を奪ったあの日から衆治が自らに課せた誰も裁く事の無い原罪の様なものだった。しかし、それさえも密緋は侮蔑し嘲笑った。
密「お前の性格の捩れもそんな域に達したか。いや立派な事だとは思うが、どうしても俺の目には哀れな姿に映っちまうんだよなあ。答えが現れないと思ってるなら俺が言ってやる。お前がした事は何も間違っちゃいない。ただお前自身に自己の罪を背負い切るだけの度量が無かっただけと言うつまんねー話だ。身の程が分かっちゃいねえんだよお前はな」
衆「…………何つった?」
怒りが沸点に達しシザーハンズを構える衆治の先手を打つ様に密緋はムカデ人間の攻撃を鞭の様な動きで衆治の目の前を薙ぎ払った。その攻撃はシザーハンズの突撃を止め、同時に頭に血が上った衆治の心を平静に戻した。
密「ブチ切れんのは勝手だが冷静さを欠くのはお前自身の長所を打ち消してんぞ。なあ、そんなにまで自分を責めて何になるってんだ?」
衆「俺自身の気持ちの問題だ。お前には分からない」
密「分かりたくもねーよ。言ったよな、無意味だって。んな事続けたってお前の先に待つものが何かあんのか?お前が幾ら自分のした事と向き合った所で奪った命が戻る訳でもない。ならその重っ苦しい過去を切り離しちまえよ。所詮は他人だろ?」
密緋の発する一字一句が衆治にとっては酷く苦痛に感じた。
衆「密緋……お前はどうしてそんな……?」
密「可笑しな話だと思うだろ?あいつらを死に追いやったお前が悔やんで、止めようとした俺がそれを肯定してんだからなあ」
尚も笑顔を崩さない密緋に衆治は怒りと自己嫌悪の二つの感情が込み上げてきた。が、衆治の心境は先程の様な暴れ回りそうな怒りではなく、静かに敵を捕える様な穏やかでありそれでいて鋭く切れた刃の如き怒りであった。
衆「ほざけ」
シザーハンズは足を踏み出したかと思うと一瞬で密緋の前まで飛び掛かりハサミを振り上げた。
密「うおっと!」
シザーハンズの一太刀を密緋はムカデを重ね合わせ強固な甲殻で受け止めて見せた。
密「お前の人生は染みったれた後悔が纏わり付いてんだな。少しは後悔しない努力でもしてみろよ」
衆「人は誰だって後悔はする。後悔するから学ぶんだ、正しい人生の開き方を」
密「人生だあ?そんなもんに正しいとか間違いとかがあるのか?仮にあったとして、それを決める基準がどこにある?考えるだけ虚しいってもんだろお!」
密緋は受け止めていたシザーハンズを力強く弾き飛ばすとムカデ人間の追撃を加えた。衆治は飛ばされたシザーハンズの体勢を即座に立て直すとムカデ人間の連撃を次から次へと捌いていった。
密「お前の思う正しい事を続けたって、誰もお前を許すなんて事出来ねえんだよ!」
密緋の放つムカデが牙を広げ襲い掛かる。が、シザーハンズは向かって来たムカデの頭部を左手で掴むと右肘と左膝で挟み潰した。ムカデは頭部に大きなヒビが入り体液を吹き出しながらムカデ人間の元に体を収縮させた。
密「!」
衆「俺も言った筈だ、許されようなんて思ってないと。罪を償うのが叶わないなら、せめてそれを忘れないよう自分の心に留め続ける。それが今の俺に出来るせめてもの懺悔だ」
体はボロボロになりながらも衆治の目とシザーハンズの佇まいから感じられる闘志は衰えを見せなかった。真っ直ぐと自分を見据える衆治に密緋は最後の勧告を行った。
密「…………これが最後だ、俺達と来い。今ならギリ間に合わなくもないぞ」
衆「断る」
密「……ま、これで説得出来るんならあの時あんな事にはなっちゃいないんだろうけどな」
その答えを予想してたかの様に密緋の顔には納得と安心の表情が見て取れた。
続く




