19-2話
衆「あれは……?」
玄「彼の名は麻紘。この機関に属するメディエイターであり、今はダウトオーナーでもある」
水「嘘!?」
玄「我々の崇高な実験の為に彼には頑張って貰った。言い忘れていたがダウトオーナーを開花させるには特別に調合した薬を投与する事によって可能となる。さっきの映像の者には勿論、麻紘にもその薬を打たせて貰った」
そう言いながら玄僧はポケットから小さな瓶を取り出して見せた。中には妙な薬液が入っていた。
密「へー、ちょっと見してくれ」
密緋はその瓶を受け取りまじまじと見つめた。ガラス越しの麻紘はカードからアンノウンを出現させると、映像の男の時よりも巨大で強固な目の前の岩をアンノウンで殴り掛からせた。すると殴られた岩はいとも簡単に吹き飛ばされ、映像の時とは比べ様も無い程に塵と化した。が、その瞬間麻紘はぐったりとその場に倒れアンノウンも自動的にカードへと戻った。麻紘は研究員達に抱えられ部屋を出て行った。
玄「この様にメディエイターとダウトオーナーの力を掛け合わせる事に我々は成功した。見て貰った様に持ち主の性質はダウトオーナーに大きく傾向するが、アンノウンの力の向上は圧倒的だ。回復能力の兆しは残念ながら見受けられなかったがアンノウンの強靭さも上がっている事が確認された。これを利用すれば革新機関は万能の力を得るに相違ない」
目の前の出来事に収拾がつかず、言葉が出ず皆が静まり返る雰囲気を密緋の声が掻っ切った。
密「玄僧さん、大事な事を聞いてねーぞ。そのダウトオーナーってのに俺達がなれってか?自分らの寿命縮めてまで更に力を求めろと?」
密緋は威勢を放ち投げ掛けるがその問いに玄僧は静かに答えた。
玄「実の所、この機関に在籍するメディエイターの全員にダウトオーナーへの処置を私は検討している。だが、君達三人にはそれは行わない。君達にはダウトオーナーとなった者達を束ねる司令となって貰いたい」
衆「えっ!?」
三人は言葉の意味が即座に理解出来なかった。
玄「ダウトオーナーは身体と比例して精神も徐々に衰えてゆく。そんな判断の覚束なくなった彼等を君達の様な未来ある若者が率先し統率するのだ。一人一人が持つ力の使い方を君達が示すのだ」
衆「それって、他のみんなは……只の駒って意味ですか?」
玄「それに近いものはあるだろうな。だが心配は要らない。ダウトオーナーの精神は脆く絡繰るのは容易だ。仮に彼等の内の誰かが命を落とす事になっても人員は豊富だ」
その言葉に衆治は今まで感じた事の無い怒りが湧き上がり声を荒げそうになった。
衆「あんたは…………、あんたは!!」
それを止めたのは衆治の肩に手を添えた密緋の手であった。
密「成る程、そりゃよく出来た話だ。素晴らしいですよ玄僧さん」
玄「そうだろう?理解を持ってくれて嬉しく思うよ」
密緋は満面の笑みを浮かべつつ衆治の耳元で囁いた。
密「んな所で暴れたって何にもなんねーよ。今は抑えてろ」
密緋に言われ衆治は湧き出る感情を必死で堪えた。
玄「ここまで話したがこれはまだ計画の段階でしかない。これから完成までに善処していくつもりだ。期待していてくれ」
密「分かりました。じゃ、俺達はこれで失礼致しまーす」
そう言いながら密緋は衆治の背中を押しながら部屋を出て行き、水檻と末由子も続く様に部屋を後にした。残ったメイソンは玄僧に異議を申し立てた。
メイ「総帥、私はこんな事は聞かされていません。何故彼等にあの様な事を強いるのです?これではまるで…………」
玄「まるで、何だ?」
メイソンに向けられた玄僧の目はこの上ない鋭さを帯びていた。
玄「お前が言いたい事の検討はつく。これではメアリー計画と同じ、とでも言いたいのだろ?」
メイ「…………」
玄「メイソン、お前には分かるか?維鉉を、息子を亡くした悲しみが癒えない辛さが。息子の命を奪ったアンノウンという存在への憎しみが拭えない苦しさが」
メイソンは俯きながら口を噤む事しか出来なかった。
玄「分かってくれと宣うつもりは無い。ただほんの少し、私の気持ちを汲んでさえくれれば後は何も望まぬ……。メイソン、お前にだけは教えておこう。メディエイターの力の源が何なのかを」
衆治達に向けられた優しさの面影も無い冷めた玄僧の表情にメイソンは唇を噛み締めた。
部屋を出て廊下を歩く衆治達の歩みは軽快なものではなかった。
衆「……さっきは悪かった、密緋」
密「気持ちは分かんなくもないが、もちっと辛抱付けろよ」
末「ごめんなさい。お義父さんがあんな計画を企ててたなんて……」
密「末由子さんは何も知らなかったんだろ?なら何も悪くねーよ」
末「でも……」
水「密緋の言う通り。末由子さんはいい人だよ」
末「……ありがとね、みんな」
密「しっかしこんな薬で人を絡繰ろうなんてなあ」
密緋の手には玄僧が見せた薬の瓶が握られていた。
衆「盗んだのか?」
密「借りパクってやつだ」
水「でもいいの?あの計画の事OKしちゃって?」
密「いつした?俺はただ素晴らしいとしか讃美してねーぞ」
水「あれ?そうだっけ?でもみんな密緋が協力するって風に受け取ってたけど?」
密「当たり障りの無い事言ってりゃそれっぽく聞こえんだよ」
ふと衆治達は目の前の人影に気が付いた。フラフラな体を壁に凭れ掛かりながら歩くその姿を衆治達は一瞬で理解した。それが麻紘である事を。
密「おい、あれって……」
その時、麻紘は足がもつれその場に倒れ込んでしまった。
密「おい!」
四人は倒れた麻紘に近付き声を掛けた。
衆「大丈夫ですか?」
麻「ありがと、済まないね……」
間近で見る麻紘の顔はすっかり疲れ果てて窶れていた。
密「なあ、あんたダウトオーナーなんだろ?」
麻「どうしてそれを?」
水「私達はさっき貴方の力を見たの。あの隣の部屋で」
麻「そういう事だったのか。ダウトオーナーの存在はここじゃ極秘扱いだから驚いたよ」
麻紘は安心するとその場に腰を下ろした。
水「本当に大丈夫なの?」
麻「……実を言うと、かなり厳しいかな。自分で選んだ道とは言えもう限界みたいだ。僕の命ももう長くない」
末「そんな事言わないで。まだ大丈夫よ」
麻「ありがとうございます。でも分かるんです。僕のアンノウンはそういう能力だから」
そう言うと麻紘はカードを具現化し先程見せたアンノウンを呼び出した。
麻「これが僕のアンノウン、"バタフライ・エフェクト"だ。能力を簡潔に言うと"未来を見通せる"かな」
衆「未来を見通すって、それって未来予知!?」
麻「いや、そこまで大層なものじゃない。未来と言っても見えるのは霞がかった様なぼやけたものしか無いからあまりはっきりとはしないんだよ」
密「本当か?試しに俺の未来を見てくれよ」
麻「良いよ、手を出して」
密緋の差し出した手に麻紘はバタフライ・エフェクトの手を合わせ少しの間目を閉じた後、一回衆治の方を見て言った。
麻「君達二人はとても仲が良いみたいだね」
密「ああ確かに。こいつにゃ色々教えてやったりもしたしなあ」
麻「だけど残念な事に、君達二人はあまり良い別れ方をしないみたいだ。互いが全く違う意見を持って対峙する姿が微かに見える」
衆「え!」
密「そうなのか?」
麻「あくまで未来だよ。行動次第ではきっと変えられる筈だ」
水「じゃあ何もしないと二人はこのまま破局しちゃうって事?」
衆「言い方」
麻紘はバタフライ・エフェクトを戻すとゆっくり立ち上がり再び歩き出そうとした。が、その姿は衆治にとって痛々しいものがあった。
衆「麻紘さん、どうしてダウトオーナーに?」
麻「……力を得る事で心にある穴が塞がると僕は信じてた。けどそれは、あまりにも愚かしい希望だった。手に入れた力は強さとは程遠い。強くあろうとする程に己の弱さを露呈するなんてね……」
衆「…………」
麻「君達のこれからの長い人生の為に言っておく。見える未来は多くても、掴める未来は一つだけなんだよ」
憂いを孕んだ目をした麻紘は前を向いて歩いて行った。その背中を衆治は自身の目に焼き付けた。
衆「…………末由子さん」
末「何?」
衆「貴方のお義父さんの計画を、俺は受け入れられません」
末「衆治くん……」
密「よく言った衆治。俺も同じだし、水檻もそうだろ?」
水「当然。私も二人とおんなじ気持ち」
それぞれの意思を合わせる三人の姿に末由子はとても心強い何かを感じた。
末「分かったわ。私も貴方達に協力する」
衆「え!良いんですか!?」
末「手は多い方が良いだろうし、それに初めて会った日に言った筈よ。私は貴方達の味方だって」
いつもにも増して優しく微笑む末由子の笑顔に衆治達は決意した。
衆「和歌草玄僧の計画を阻止する。俺達で」
続く
《人物紹介》
茅辺 麻紘
身長175cm 30歳(過去)
嫌いなもの:香りの強い花
《UC紹介》
バタフライ・エフェクト 身長1.9m
持ち主:茅辺 麻紘
能力:触れる事でその人間に待ち受ける未来を見られるが、見える未来の映像ははっきりとは見られる訳ではない。その先に起こる未来の出来事を変えられるのかどうかも定かではないが持ち主である麻紘は変えられるものだと信じている。
《アンノウン知識紹介》
ダウトオーナー:メディエイターと同様に普通の者よりもアンノウンの扱いに長けた存在。外見の変化としては瞳の色が濁った灰色に変色する。メディエイターの力が先天的なものなのに対しダウトオーナーは特殊な薬を投与するだけで実質アンノウンを持つ者ならば誰でもなれてしまう。但しダウトオーナーは力を使うたびに寿命が削られ身体的、精神的に極度の疲弊が現れる他、ダウトオーナーのアンノウンからは回復能力が失われてしまう。




