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18-4話




その老人は部下らしきスーツの男からマイクを受け取ると立ち上がり喋り始めた。

玄「ここにおる者の中では私と会うのは初めてという者が大多数だろうからこう言おう。初めまして諸君、私がこの革新機関を創設した和歌草玄僧だ」

玄僧の声は老人の持つか細さはあるものの、芯の強い感情も伺えた。

玄「私がこの機関を創設した理由は一重ひとえにこの世界の秩序を保つ事である」

衆 (秩序……か)

玄「諸君も知っているであろう未知の厄災。あれによって刻まれた傷はあまりにも深すぎる。だが気を落としてばかりではいられない。アンノウンの力を正しく振るえぬ者がいる以上、第二、第三の厄災が引き起こされるのも時間の問題だ。そうあってはならない為に私は諸君らメディエイターを全国から召集させた」

玄僧は両腕を広げ、下の者達を指す様に示した。

玄「諸君らの力を高め団結させる事で強力な力を生み、その力でもって悪しき者を抑圧し、力無き者には手を差し伸べる。それがこの機関に私がかける夢だ。私の理想の実現も近くなった今、諸君らに改めて惜しみない感謝を送ろう」

密 (高い所から見下しといてよく言う)

玄「これからも諸君の目覚しい進歩に期待し出来うる限りの助力をしてゆく。頑張ってくれたまえ」

そう言い終わると玄僧はマイクを返すと後ろのカーテンの奥へと下がって行った。

密「これで終わりか?」

末「ええ、本当にごめんなさいね」

水「大丈夫、思ってたより長い話じゃなかったし」

衆「お陰で眠気も大分覚めました」

密「本気で言ってんのか?俺は即二度寝したい気分だ」

末「八時まではそれぞれの自由よ。好きな様に過ごしてね」

広間から出て行くメディエイター達を階上のバルコニーから眺めながら玄僧は呟く様に隣の男に言った。

玄「メイソン、私の今言った言葉の全ては決して偽りなどではない。悪しきは勿論、悪となり得る分子を根絶させる程の大義を成す。その為に私はどんな手段も犠牲もいとわない覚悟でおる。この意味が分かるな?」

メイ「………………はい」

玄僧の隣に立つメイソンは複雑な表情と共に応えを返した。




それから衆治達は革新機関によって多くの経験をほどこされた。メディエイターとしての力の持続のさせ方や力の抑え方、更には機関内のほぼ全員との一対一の模擬戦など行使された試みは多岐に渡った。

また、衆治達の様に年齢の幼い者には勉学などの教養も与えられた。一般的な知識は勿論、アンノウンやメディエイターに関する情報も教えられた。大凡は知っていたが衆治も知らないメディエイターの情報もその中にはあった。メディエイターの素質を持つ者は産まれた時点で決まっておりその性質が変化する事は無い。つまり素質の無い者が後天的にメディエイターになる可能性は全く無いという事だ。

革新機関での指導や訓練は十一歳の衆治にとって苦しく思う事も少なくなかった。その度に心壱や弥結のいる孤児院を思い恋しさが湧き出るが、末由子の優しさや仲間達の事を考え、募る気持ちを押し殺していた。




月日は流れ衆治達も大分機関に慣れてきた頃のある日、末由子は外の庭園のベンチで閑談する衆治、密緋、水檻の三人の姿を目にしそれに話し掛けた。

末「どうしたの貴方達、こんな所で?」

密「別にどうも」

末「そんな事ないでしょ」

末由子は滑稽な回答に微笑んだ。

水「ちょっとこの先の事を考えてたの」

末「この先って?」

衆「所謂いわゆる将来の事です」

末「将来?」

水「私達はこの先ずっとこの機関で一緒に暮らすのかなあって思って。どうなの末由子さん?」

末「それは勿論貴方達の自由よ。ここに居たくない人を無理に引き止めはしないし、家族の所に帰りたいって思うのならその選択を選ぶのも正解の一つよ」

密「そういう事なら俺と衆治はどこもアテなんて無いな。なんせ家族なんかいないんだからなあ」

末由子は少し申し訳無さそうな表情を浮かべた。

末「ええ、貴方達二人の事情は知っているわ。衆治くんは厄災で、密緋くんはそれ以前から家族がいないのよね。さぞ辛かったでしょう?」

密「んなもん一々気にしてたら今頃こうして呑気にお喋りなんか出来ねーよ」

衆「……水檻には家族がいるのか?」

水「家族って言うか、お兄が二人いるよ」

衆「お兄?」

末「そうよね、確か水檻ちゃんはお兄さんが二人いたんだったわよね」

水「うん。だから大きくなったらまたお兄達に会いに行って、それでみんなで一緒に暮らす。これが今の私の目標」

密「おー素晴らしいねー」

密緋は軽く拍手をしながら言った。

密「末由子さんは……、確か旦那さんが死んじゃって他にはあのじーさん以外の家族って……」

末「私……?いるわよ、娘が一人」

衆「え、娘がいたの!?」

突然の告白に衆治達は目を丸くした。

末「そうよ、私の大切な一人娘」

水「娘さんってどんな子なの?」

末「歳は水檻ちゃんと同じくらい。誰かの役に立つのが大好きでとっても頑張り屋さん。でも少し頑張り過ぎちゃう所があってそこがちょっとした不安でもあるかな」

水「優しい子なんだね」

末「そう、私が思ってるよりもあの子はずっと我慢している筈なの」

そこから口を開く末由子の表情は陰りが見えた。

末「あの子が生まれてから間も無く夫がこの世を去ってしまって、そして今もあの子の事を放ったらかしにしている。輝宝学園っていう全寮制の学校に通わせきりで殆ど会いにも行けてない」

水「それってこの機関にいるせいで……」

水檻の言葉に末由子は上手く答える事が出来なかった。

水「…………大丈夫、きっとその子は末由子さんの事を好きでいる筈だよ」

末「え?」

水「どんなに離れてても大切に思う気持ちは必ず伝わる、それが家族っていうものだよ。だから末由子さんも落ち込んだりなんてしないで」

末由子は思わず目に涙を浮かべ水檻を優しく抱きしめながら感謝を述べた。

末「そうね、ありがとう水檻ちゃん」

衆・密「…………」

二人の柔和な会話に衆治と密緋は静かに黙っていた。

水「どしたの?」

衆「なんて言うか……」

密「家族の話で盛り上がるなんて俺達には無縁の事だからなぁ」

末「あら、貴方達もきっと出来るわよ。大きくなって結婚して家庭を持ったらね」

衆・密「………………無理だろ、こいつには」

衆治と密緋は互いの顔を眺め同時に言葉を放った。その光景に水檻も末由子も大声を出して笑い、それにつられて二人も笑い出した。衆治は心の片隅にこんな感情が芽生えた。こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのにと。




革新機関の施設内の一室。そこにいる研究員達は自らの発見に驚愕し喜びを隠し切れずにいた。

「とうとう漕ぎ着けたぞ」

「まだまだ不明な点はあるが、これを彼らに適応すれば……」

「この機関は大きな躍進を遂げられる」

歓喜する研究員達の視線はガラス越しに見える隣の部屋に立つ数名の人間に向けられていた。皆一様に濁った灰色の瞳をした人間達に。




続く



《人物紹介》

和歌草わかくさ 玄僧げんぞう

身長163cm 66歳(過去)

嫌いなもの:赤身魚


《世界観紹介》

革新機関:日本一の財閥、和歌草グループの総帥である和歌草玄僧が立ち上げた機関。アンノウンを持つ者の中でも特に扱いに長けた存在であるメディエイターを集めその力を研究し世の中の為に活かすという名目で設立された。


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