17-4話
衆治は自らに纏わり付く過去を断ち切る為、渾身の力をシザーハンズに込めて斬り付けた。しかし、振り下ろされたハサミはムカデ人間の二匹のムカデの強固な甲殻と牙によって受け止められ、行く手を阻まれてしまった。
密「本気で俺に敵うと思ってるのか?本気でよお?」
ムカデ人間はシザーハンズを振り払い、勢いよく弾き飛ばした。
密「お前が強くいられる要因は二つある。一つはお前自身のアンノウン戦における戦術の高さ。そしてもう一つがメディエイターとしての資質だ。この二つが合わされば大抵の奴には引けを取る事は無い。だが……」
講釈を述べる密緋の目は、衆治と同じく黄金色の煌めきを見せていた。
密「メディエイターの力は同じメディエイターの力でもって相殺出来る。革新機関に集められたメディエイターの中には俺達よりも遥かに優れた連中もザラにいたろ。その中じゃお前の特別性も薄れた筈だ」
衆治の額を一滴の冷や汗が流れ落ちた。
密「となれば後はお前の強みは洗練された戦術だけって事になるが、それすらも俺に勝る要因にはなり得ない。何故だか分かるよな?お前にアンノウンの戦い方を教えてやったのはこの俺だからなあ」
衆「…………」
密「戦い方だけじゃない。金の得方や交渉の話術、一人で生きていける術を全部教えてやった。今のお前があるのは俺の教えがあったからだろお!」
メディエイターの力を解放した密緋のムカデ人間は先程よりも数段攻撃性が増しているのは明らかであった。
密「断言して言う。お前が俺に敵う道理なんかねえぞ」
密緋の言葉に衆治は歯を食いしばった。
燈葉を拘束していたエネルギーの槍が自分の意思に関係無く消滅した事に智琉は目を疑った。
智「……何を、したんだ?」
燈「戻しただけよ。エネルギーをそのアンノウンに」
智「……戻した?」
智琉は未だその言葉の意味が理解出来なかった。
燈「E・F・Tの能力は触れた物をそれが本来あるべき場所に押し戻すというもの。私を捕らえていた槍でさえもエネルギーに戻しその龍に回帰させられる」
智「何だよ、それ?」
燈「貴方がどれだけ躍起になって私に喰らい付こうとも、E・F・Tが触れるだけで貴方のアンノウンが放つエネルギーの攻撃は意味を失う。言った筈よ、貴方が私の前に立つ資格は無いと」
時を追うごとに強さを増す燈葉の気迫に智琉は内心少したじろぐが、それを表に出さないよう必死に押し殺した。
智「……そうか、お前はレッド・ドラゴンの能力を甘く見てるんだな。けど……」
智琉はレッド・ドラゴンの口を開くと大量のエネルギーをその口に溜め込み放出する構えを見せた。
智「俺も言った筈だ。あまり相手を下に見るなと」
決意を固めた智琉の台詞は燈葉がため息をつく理由を充分に果たした。
燈「見逃す機会をあげたのにまだそんな選択を選ぶだなんて。身を以て実感しないと分からない訳ね」
燈葉はカードを構えるとレッド・ドラゴンに向けてE・F・Tを突撃させた。智琉はレッド・ドラゴンの口から大量のエネルギーを放出すると無数のエネルギー弾へと分裂させE・F・Tへ集中砲火を浴びせるが、E・F・Tの翳す手に触れそれらは悉く霧の様に掻き消されていった。だがそれは智琉にとって想定の範疇であった。
智 (確かにあいつの言う通り、あのアンノウンに対してレッド・ドラゴンのエネルギーの攻撃は有効打にはならないかもしれない。けど、それにはあの手で飛んで来るエネルギーに触れる必要がある。つまりは奴のアンノウンの行動を制限するのにレッド・ドラゴンの能力は最適だって事。それが出来ればあいつを倒すのも充分に可能だ)
無数に襲い掛かるエネルギー弾を前に防戦一方のE・F・Tに智琉はレッド・ドラゴンの翼を広げ猛烈な勢いで突撃させた。
智 (エネルギーを使わずレッド・ドラゴンでの直接攻撃を与えればそれを防ぐ手段は無い。この一撃で終わる!)
レッド・ドラゴンは右手を開げ鋭い爪を立てると、E・F・Tの喉元を引き裂く様に腕を振りかざした。
燈「本当に残念よ」
が、燈葉はレッド・ドラゴンの突撃に一切驚きを見せなかった。燈葉は向かって来るレッド・ドラゴンの右腕に対しE・F・Tの手を翳し受け止める形を取った。レッド・ドラゴンの爪がE・F・Tの手の平に触れた瞬間、レッド・ドラゴンの突撃の勢いは完全に失われ動きが一瞬停止した。
智「何!?」
その一瞬を見逃さず燈葉はE・F・Tをレッド・ドラゴンの懐に入り込ませると、その手でレッド・ドラゴンの胸部に触れさせた。その瞬間、触れた部分を中心に異様な光が辺りに発せられ、E・F・Tは後方に大きく飛び下がり燈葉の元まで戻っていった。
智「何なんだ今のは!?」
智琉もレッド・ドラゴンを自身の近くに呼び戻した。智琉には今起きた現象の数々が自身の理解を超えていた。
燈「貴方程度の人間の考えくらい見当はつくわ」
智「は?」
燈「エネルギーでの攻撃が意味を成さないのなら、それを使わず直接攻撃を仕掛ければいいと。違うかしら?」
智「……仮にエネルギーの攻撃が通用しなくてもお前のアンノウンの動きなら制限出来る。現に今もエネルギー弾を防ぐ為に攻撃に転じる事が出来なかった。違うか?」
燈「そうね。でも、もうそれも出来ないわね」
智「何がだ?悠長に語ってられるのも……」
再びレッド・ドラゴンからエネルギーを放出しようとした時、智琉は現実を疑った。いつもなら即座に出せる筈のエネルギーが全く出せなかったのだ。レッド・ドラゴンの口からエネルギーが放出される気配が全く無かった。
智「…………何……が?」
思わずレッド・ドラゴンの方を振り向いた智琉はレッド・ドラゴンの胸部の違和感に気付いた。E・F・Tの手に触れられたであろうその場所には、E・F・Tのお面と同じ紋章が刻印されていた。
智「何だよ……これ?」
燈「E・F・Tの能力は触れた物を押し戻すだけじゃない。強制的に閉じ込める事が本来の力。その刻印が残っている限り、貴方のアンノウンが能力を行使するのは永遠に不可能よ」
智「それって……まさか……!」
智琉は再びエネルギーを出そうするが無意味に終わり実感した。自身のエネルギーを操作するレッド・ドラゴンの能力が完全に封じられた事に。
燈「完全なる絶望を与えて屈服させる。それが私の戦い方」
智琉は自分の置かれた状況に打ち震えた。
牙を構え攻撃の態勢を取るムカデ人間に衆治の表情は気を抜く事を許されなかった。
密「難しい顔してんなあ。何を考えてる?」
衆「…………分からない」
密「あぁ?」
衆「俺の取った決断がお前をそんな考え方にしたのなら、俺の選択は間違っていたのか?そもそもから、俺が今まで辿って来た道のりは本当に正しかったのか?それが分からなくなってくる……」
密「それ今考える事か?もし仮に分からなくてもそれで良いじゃねえか、あの人がよく言ってただろ。分からない事を無理に理解する必要は無い。ってな」
衆「!」
その言葉に衆治は左手で頭を抱えた。衆治の頭の中を再び呼び起こしたくない忌まわしい記憶が飛び交った。凶気の桜からダウトオーナーのワードを聞いた時と同様の光景がフラッシュバックした。
衆 (俺があの場所にいた事は、本当に正しかったのか?)
衆治の心の自信はは今までに無い程に揺らいでいた。
続く




