16-2話
衆「このシザーハンズも、お前の様に意思があるのか?」
桜⦅その存在がアンノウンである以上、意思を持たない者はいない。が、人間に自由を支配されているその風態では何も出来ないのが現実だ⦆
桜の一方的な言葉に衆治は次第に怒りに似た感情が込み上げてきた。
衆「じゃあ何か?お前にはシザーハンズの気持ちが理解出来るってのか?」
桜⦅言った筈だ、我等の存在はお前達人間と等しいと。数多いるアンノウンもそれぞれの物事への捉え方がある以上、お前に使役されるアンノウンの心情が今どの様なものなのかは私の預かり知る所ではない。しかし、その程度は私の悲願にとっては詮無き事。今この場で重要な事はお前の命を終わらせ、一人でも多くの同胞を救済する事だ⦆
衆「はっきり言ったな、俺を殺すと。ならやってみろ、言うは易しってやつだぞ」
衆治はシザーハンズを凶気の桜に向けて突然させた。シザーハンズがハサミを構え桜に斬り掛かろうとした時、地面を引き裂き現れ出た岩石がハサミを食い止めた。
衆「何だ!?」
桜⦅今度は容易には斬れないぞ。一度見れば攻撃の強弱程度は掴める⦆
衆「さっきの攻撃といい今の防御といい、岩を操るのが能力か?」
桜⦅操るのとは少し違う。この岩は私が作り出した物だ⦆
衆「作り出した……!?」
桜⦅岩を作り出せる存在は何か?それを言葉を用いて語るなら母なる自然だ。自然という存在が岩のみならずこの世界のあらゆる物質を生み出している⦆
そう語る桜の周囲の地面から砂や石などが浮き上がり桜の前で一点に集まると一気に圧縮し、高温の熱を帯び眩く光り輝いた。その光景に衆治は目を離せなかった。
桜⦅自然は自らの力のみで万物を作り、数多の歴史、文明の礎を完成させた。それがこの星だ。神などという曖昧な存在ではない。自然が森羅万象の源を構築したのだ⦆
光り輝くそれに更に土が加わり水が生まれ、緩やかに回りながら球状の形を整えていった。その姿はまさに小さな地球そのものであった。
桜⦅そして自然のみが持つ力の一端を自在に行使する。それが私、凶気の桜の力だ⦆
衆治は気付いていなかった。持ち主のいない言葉を語るアンノウンが見せる創造の力に僅かに体が震えている事に衆治は気付けずにいた。
衆「お前は……この世の自然を操れるって言うのか?」
その次の瞬間、衆治の目の前で煌めく小さな地球にヒビが入ったかと思うと、一瞬にして粉々に破裂し散開した。
桜⦅実に人間らしい傲慢な推察だ。私自身もまた大いなる自然の恩恵を賜る一存在であり、私の能力はその真似事に過ぎない。だが、お前一人を殺めるのには充分だ。母なる自然によって黄泉に葬られる事がお前という生命が持つ唯一の道理だ⦆
桜は自身を中心に空気の流れを周回させると、やがてそれは小規模の竜巻となり飛び交う石やガラスの破片が衆治に襲い掛かった。吹き荒ぶ強風を衆治はシザーハンズを盾にして攻撃を防いでいた。
衆「何が母なる自然の力だ。じゃあそこの機械の説明はどうつける?」
衆治が指差した先には桜の根元のそばで稼働している何かしらの機械があった。機械からはチューブの様な物が桜が咲く地面に伸びていた。土を通じて凶気の桜に養分を送っている様に見て取れた。
衆「自然の恩恵とか言っときながら、ちゃっかり機械の力にも頼ってんじゃないか。一体どっちが滑稽だ?」
桜⦅これは私の欲する所では無い。あの人間達が計らった代物だ⦆
衆「それは晴人達の事か?」
桜⦅連中が私の能力の足しにと講じた物だが、この様な下賤な物品を用いずとも私には差し障りの無い事だ⦆
衆「お前は何故晴人に味方する?」
桜⦅何?⦆
衆「お前はアンノウンを支配から解放するのが目的だと言っていたが、晴人の企みは全てのアンノウンの支配、お前の目指すものとは真逆のものだ。なのにどうして奴等に助力する?」
衆治の問いに凶気の桜はしばし黙り込んだ。と同時に吹き荒れてた竜巻も突然停止した。しかしすぐにまた衆治の耳に桜の声が聞こえてきた。
桜⦅かつての友好な日々、些かの不安も無い有りふれた平穏。それらを取り戻そうとした時もあった。だがそれでは叶わない。我等の真の幸福は人間という存在が介しては作り得ない。それを説いてくれた者がいた。その者に報いる為なら選択を厭わない。私はあの時、彼にそう誓ったのだ⦆
衆「彼……?彼ってのは晴人とは別の奴か?一体誰の事だ?」
桜⦅人間相手にこの身を賭す程の誓いなどしよう筈が無い。言っただろう、我が同胞の為に私は戦うと⦆
衆治はその言葉に一つの答えを導き出した。
衆「アンノウンか?お前とは別の、意思を持ったアンノウンの事なのか?」
桜⦅アンノウンはみな例外無く自身の意思を持ち合わせている。その中でも彼は知と才に秀で、そして私の身の内を焦がす程の大望を語ってくれた。彼こそがアンノウン全ての救世主となるのだ⦆
衆「……御大層な事言ってるが、そいつの言葉を真に受けて痛い目見るなんて考えないのか?」
桜⦅人間に彼の作らんとする世界は理解しえる筈も無い。彼は大望の実現の為に必要な事を全て示してくれた。人間如きには分からんだろう、必要な特異点やそこに行き着くまでの工程。支配からの解放に不可欠な存在、ダウトオーナーを⦆
桜が語った言葉の最後の一言に衆治の瞳孔は開き切り、全身の毛が逆立つ感覚が駆け巡った。
衆「…………何で……お前からダウトオーナーなんて言葉が出てくるんだ?」
その問いには桜からも驚きが溢れた。
桜⦅何だと!何故お前がダウトオーナーの事を……⦆
衆「聞いてんのはこっちだ!!」
衆治は思わず左手で頭を押さえた。衆治の頭の中では灰色の壁や様々な人の顔や声などの記憶が激しくフラッシュバックしていった。その記憶に衆治は息を切らしながら呻いていた。
衆「………………もういい。お前の話は今の俺には殆ど理解出来ないが、それでいい。分からない事を無理に理解する必要なんて無いんだからなあ」
俯いてた顔を上げた衆治の瞳はいつかの如く黄金色に煌めいていた。
桜⦅ほう、メディエイターだったのか。面白いな、お前の存在も我等の求める力か、或いは……⦆
衆「お前が話す言葉はどれもこれも聞いてて腹わたが煮えくり返る。今すぐに伐採してやらぁ!」
桜⦅根拠も無く息巻くとは如何にも人間だな。言うは易しというものではなかったかな?⦆
凶気の桜を睨み付ける衆治の目は怒りとも哀しみとも取れない複雑な心情が浮き出ていた。
続く
《UC紹介》
凶気の桜 全長4.5m(地面から)
持ち主:無し
能力:自然現象のほぼ全てを再現し操れる。自然が起こす天候や気候、更には長い年月をかけて作られる岩石、鉱物なども圧倒的な速度で生成出来る。




