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14-4話




衆治は音波の攻撃を回避しながらシザーハンズでエグジット・スピードへの反撃を行っており、その攻撃は数撃通っていた。

篤「ちぃっ!」

篤史が繰り出す攻撃はことごとく衆治には命中せずにいた。篤史が痛みに怯んだ時、衆治のシザーハンズがエグジット・スピードの背後を完全に捉えた。

衆 (これで終わらせる)

シザーハンズがハサミを振りかざしたその時、頭を引き裂くかの様な凄まじい不協和音が衆治の耳に鳴り響いた。

衆「ぐぃっ!?」

衆治の異変により動きが止まったシザーハンズに篤史はエグジット・スピードの蹴りを喰らわせた。蹴り飛ばされたシザーハンズから伝わる痛みよりも、突然鳴り響いた雑音の残響に衆治は頭を押さえていた。

篤「やっとそれらしい表情になったな」

衆「……今の音はお前が?」

篤「エグジット・スピードは音を操れる。音に関してなら何でも出来る。触れるだけで崩壊を招く音波にも変えて飛ばせる。けどなあ、単純なのは音波に変えるんじゃなく音そのものを響かせんのが一番簡単だ。それが一番恐ろしい」

衆「何が言いたい?」

篤史の言わんとする事が衆治にはまだ理解出来なかった。

篤「お前は知ってるか?人間がどの音階のどんな音を聞けば一発でトチ狂うのかをよお?」

衆「何!?」

篤「俺は知ってる。高く、鋭く、重い不協和音。そんな超絶危険な雑音ノイズを簡単に作り出せるのが俺のエグジット・スピードだ。その音を聞いて正気を保てた奴は今まで一人もいねーんだなこれが」

衆「じゃあさっき俺の頭に響いたのは……」

篤「ありゃまだ低レベルの雑音ノイズだ。脳みそを引き裂かれる様な痛みだったろ?だがまだ気が狂うって程のもんじゃない。俺がこれからお前に撃つのはエグジット・スピードの出せる最大の雑音ノイズ、つまりは精神を一瞬でぐちゃぐちゃにする程の特大不協和音がお前を襲うって訳だ」

衆「……そりゃまずいな」

それを聞いて衆治はこれから起こされる攻撃に対し身構えた。

篤「あらかじめ言っておくがこの攻撃を避ける事に関しては絶対的に不可能だ。さっきまでの攻撃は音を複雑な音波に変えていたから撃てる範囲も限られてた。だが今度は違う。精神をぶっ壊すとは言えその実体は単なる音だ、ただの音なら撃てる範囲は限られねえ。音は発生した場所から放射状に広がる。つまりどこへも逃げ場は無くなっちまうだよなあ」

衆「……ああ、酷く厄介だ」

篤「耳栓なんて手段も諦めろよ。ほんのちょびっとの隙間からでも音は入り込める。お前が助かる道はもう残されてねえぞ」

篤史自身この戦法で相手を倒せなかった経験は無かった事からこのやり方に絶対の信頼を置いていた。篤史は衆治の顔が恐怖と絶望の表情で満ちると確信していた。しかし、篤史の目に映る衆治の顔からは冷静かつ強固な意志が見て取れた。

篤「けっ、不愉快な顔だ」

衆「失礼な事言ってくれる」

篤「まあ良い、そんな顔出来んのも今の内だ。すぐに脳みそぶっ壊して、ちったあマシなつらにメイクしてやるよ。鏡でも用意しとけ」

衆「なんだ、ありきたりじゃない台詞も吐けるんだな。ちょっと驚いたぞ」

衆治はシザーハンズを自分の前に呼び戻すと、ハサミを構え攻撃の姿勢をとって見せた。

篤「へっ、やる気充分ってか」

その次の瞬間、シザーハンズが勢いよく飛び出しエグジット・スピード目掛けて猛スピードで突撃していった。

篤 (自慢の素早さを活かして攻撃を喰らう前に勝負を決めようって腹か。だが!)

篤史は慌てず、臆する事無くエグジット・スピードの三つのスピーカーから最大出力の雑音ノイズを辺り一帯に鳴り響かせた。

篤 (音速より速く動けるアンノウンなんて存在しねえ!)

その瞬間、衆治はシザーハンズの能力を発動させ体感時間を遅らせた。しかし、幾ら見える時間の流れを遅くしても音の速度は並外れていた。雑音ノイズは避ける隙など一切与えずに衆治を飲み込んでしまうと、衆治の耳や脳に轟く様に鳴り響いた。

篤「そら見せてみろよ!てめえのぶっ壊れ顔をよお!」

篤史はこれまで見てきた様な脳が壊された人間の顔を拝もうと衆治に向けて叫んだ。が、篤史は言葉を失った。篤史が見た衆治の表情は先程と変わらず、その目はしっかりと篤史に焦点が合わさっていた。

篤「は!?」

その表情が衆治の意識が正気を保てているのを意味する事に篤史は一瞬理解が遅れた。シザーハンズの斬り掛かりをエグジット・スピードはもろに喰らってしまった。

篤「ぐふぉ!」

エグジット・スピードからダメージが伝わった篤史はその場に倒れ込んだ。

篤「はあ……はあ……」

衆「それがお前の言うぶっ壊れ顔ってやつか?鏡が無くて残念だったな」

篤「な……なんで、なんともねえんだ……?」

息を切らして倒れながら篤史は衆治を見上げた。

衆「晴斗からシザーハンズの能力くらいは聞いてるだろ?それが答えだ」

篤「……ふざけんな。どんだけ……時間を遅らせて見ても……それだけで避けれる訳が……」

衆「避けたなんて言ってない。お前の攻撃は間違いなく俺に命中した」

篤「じゃあ……なんで……」

衆「お前のアンノウンが出した音は聴いた者の精神を狂わせるんだろ。だがそれは通常の世界にいる人間に対しての話だ」

篤「……?」

衆「俺のシザーハンズの能力で見せる世界は時間を遅くさせるが、スローになるのは視界だけじゃない。この耳に入ってくる音も通常よりも遅くなるんだ」

篤「それって……!?」

衆「お前のアンノウンが作り出した雑音ノイズも時間の歩みの遅い世界を見る俺には効かない。音の速度が遅れる、つまり人間の脳を壊す程の音程からは大きく外れる。俺のこの耳に届いたのは多少耳障りなだけの只の音だ」

事の真実に篤史は冷静さを保てなくなっていた。

篤「……クソが…………クソがよおぉ!」

篤史は渾身の力でエグジット・スピードを衆治の背後から襲い掛からせた。しかし、衆治は振り返る事も無くエグジット・スピードの攻撃が繰り出される前にシザーハンズの強力な一撃を与えた。その攻撃でエグジット・スピードは真っ二つに切断され、その瞬間篤史の呼吸も停止した。エグジット・スピードの死により精神で繋がる篤史の命も尽きたのだった。

衆「お前の音を止めるくらいなら俺にも出来る」

篤史の死を確認すると衆治は辺りを見渡し出口を探した。すぐに近くの非常ドアを見つけると、そこを開け上に続く階段を上っていった。

衆「さて、智琉の奴はどうしてるか。どうせ俺を待ってなんていないだろうな」

衆治は智琉の行動を見透かしているかの様に独り言を呟きながら上へと急いだ。




続く


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