13-1話
夕暮れ間際のワンテーブルホームは実に穏やかな時間が流れていた。裏庭では子供達が遊び、ダイニングでは心壱が茶を啜りながら本を読み耽っていた。
心「もうこんな時間か。そろそろ夕飯の支度をしないと」
心壱が立ち上がったその時、玄関の方から地響きの様な凄まじい音が響いて来た。
心「な、何だ!?」
急いで玄関に向かいドアを開けた心壱が見たのは、大きな赤いドラゴン、血を吐き気絶している衆治とそれを抱える智琉の姿だった。
心「衆治くん!智琉くん!」
智「……心壱……さん……」
顔中汗だくの智琉は心壱の姿を確認した途端、バタリと倒れ込んでしまった。同時にレッド・ドラゴンは自然に智琉のカードの中に収まった。
心「大丈夫かい智琉くん!?」
心壱は倒れた智琉のもとに駆け寄った。
智「心壱さん……衆治を……」
弥「心壱さん…………!」
心壱の後ろには音に驚き駆けつけた弥結と子供達が不安そうな目でこちらを見ていた。
弥「衆治どうしたんですか!?その怪我は!?」
心「…………弥結くん、すまないがみんなを中に連れて行ってくれないか?」
不安で心が一杯の弥結だったが、心壱を信頼し子供達を家の中へ導いた。
弥「みんな、今は中に入ってようね」
三人だけになった玄関前で心壱は二人の状態をよく観察した。
心「何があったのかは後で聞く。今はまず君達の危機を救う」
心壱は自分の手にカードを具現化するとアンノウンを呼び出した。
心「UC"ブラック・スワン"」
心壱のカードからとても大きな全身真っ黒の黒鳥が現れた。心壱はブラック・スワンから羽を二本取ると、内一本を衆治の肩に刺した。
心「とりあえず後は安静にさせておく事だ」
智「何をしたんですか?」
心「僕のアンノウン、ブラック・スワンの能力は羽を刺す事で刺した対象の力を活性化させられるというものだ。このくらいの大怪我も衆治くん自身の回復力の活性で急速に治るんだよ。ほら智琉くん、これは君の分。見たところ君も相当疲弊してるみたいだから」
智琉は心壱から羽を受け取るとそれを自分の肩に突き刺した。すると智琉は自分の体力がどんどん回復していくのが実感出来た。
智「凄い、あっと言う間に元気になりました」
智琉は突き刺した肩の羽を引き抜いた。
心「もういいのかい?」
智「はい。これ以上は逆にヤバい感じがしたんで」
心「そうかい。ブラック・スワンの能力もあるんだろうが、やっぱり若いんだね」
智琉の元気に関心した心壱は未だ気を失ったままの衆治を抱きかかえた。
心「それじゃあ衆治くんを中に入れよう。智琉くん、ドアを開けてくれるかな?」
智「分かりました」
智琉と心壱は屋内の一室のベッドに衆治を寝かせた。
ダイニングテーブルで茶を飲みながら智琉は自分達が今日体験した事を心壱に話した。晴斗との戦闘、貭耶の追撃から達八の手助けなど今日一日に起きた出来事の全てを。
心「成る程、僕じゃ想像もつかないくらい大変な目にあったんだね。ここでゆっくり体を休めてくれ」
智「本当にありがとうございます」
心「その達八という人ももうすぐここに来るかもしれないんだね?」
智「あいつを倒せていればの話ですけど、多分大丈夫です。必ず来ます」
心「うん、そうだね。それにしてもその晴斗という人物はなかなか厄介だね。アンノウンの能力もだけど全てのアンノウンを統括なんて非現実的な野望、危険としか言い様がない。でも、衆治くんはその彼と一ヶ月半くらい前に出会ったんだよね?」
智「はい。少なくとも衆治はそう言っていました」
心「という事は衆治くんが最初の家出から帰ってきた時とは関係ないのか…………。あ、いけない!夕飯の事すっかり忘れてた。急いで支度しないと」
智「あ、僕も手伝います。爺ちゃんと暮らしてた時、結構やってましたから」
心「そう?それじゃあお願いするよ」
智琉と心壱は晩御飯の準備に取り掛かった。
ダイニングのテーブルには二人が作ったカレーの鍋が用意されていた。
心「智琉くんのおかげで思ってたよりも早く作れたよ。ありがとう」
智「いえいえ、お役に立てて良かったです」
テーブルには子供達が食事の準備を整えていた。しかし、弥結の姿だけは見当たらなかった。
智「心壱さん、弥結がいませんけど……」
心「恐らく衆治くんの所じゃないかな。すまないが智琉くん、ちょっと行って弥結くんを呼んで来てもらえるかな?」
智「分かりました。行ってきます」
智琉は衆治を寝かせたベッドのある部屋に向かった。智琉がそのドアを開けるとベッドで眠る衆治の傍らに弥結が座っていた。
弥「あ、智琉さん」
弥結は智琉の方を振り返った。
智「晩御飯の準備が出来たからって心壱さんが」
弥「分かりました。すぐ行きます」
そう言いながらも弥結はまた衆治を見つめていた。その目は衆治に対する心配が見て取れた。
智「……ごめん」
弥「え?」
弥結は不思議そうな顔を智琉に向けた。
弥「どうして智琉さんが謝るんですか?」
智「俺は弥結と約束したのに、衆治の事を守るって。なのに結局、俺は約束を守れなくて……」
弥「智琉さんは約束通り衆治を守ってくれましたよ。あなたがいなかったら衆治はここに戻って来る事だって出来なかった筈です。だから私は智琉さんに感謝すれども、恨む様な事は何もありません」
智「……ありがとう」
弥「むしろ私は自分が嫌になります。衆治や智琉さんに対して何も力になれない自分の事が」
智「弥結……」
弥「私じゃ衆治の助けにはなれない。私なんかじゃ衆治を守れない。それが悔しくて……辛いんです」
弥結の目からは涙が溢れていた。そんな弥結に何も言ってやれない自分自身が智琉はひどく嫌になった。
続く
《UC紹介》
ブラック・スワン 体長2.7m
持ち主:涼原 心壱
能力:羽を取り出し突き刺す事で突き刺した対象が持つ力の働きを飛躍的に向上させられる。羽は刺した本数に比例し力の強化が増幅させられる。
《お知らせ》
ここまで「異形魅了のアンノウン」を読んでいただきありがとうございます。次話から少しの間、投稿ペースを増やし一週間に二話投稿していきます。これからも応援の程よろしくお願いします。




