12-4話
貭耶の周囲にはボーン・コレクターによってその場に固定された冷たい熱帯魚が数十匹停滞していた。それらは一切動ずにいるが、その付近は既に何十匹もの冷たい熱帯魚が爆発した場所だ。そして、達八にとっては爆発で散った魚を再生させ即座に近くの魚に触れるだけで貭耶に大きなダメージを与えられるところまで追い込んでいた。
達「後はこのままゆっくりとだが確実にお前に痛手を重ねていく。それで俺の復讐は終わる」
貭「そうか。こういう状況になってしまっては仕様がない」
先程とは一転し、貭耶は何かを決めたかの様に落ち着いていた。
達「何だ、諦めたのか?覚悟を決めたんなら俺もなるべく苦しまずにお前を……」
その時、達八は右足の脹脛に妙な違和感を覚えた。
達「何だ?」
気のせいかと思った達八の考えは即座に確信に変わった。達八の脹脛に今まで感じた事の無い激痛が走った。
達「がああっ!?いっ……!?」
次の瞬間、小刻みに震える達八の脹脛から大きな骨が突き破って出てきた。
達「ぐぎゃあああぁ!」
痛みに悶えながら倒れる達八を見る貭耶の目には憐れみがこもっていた。
貭「なるべく、なるべくは使わない様にしていた。なるべくな」
達「はあ……はあ……、あぁ?」
貭「アンノウンの中には体内に骨格を持たない個体もいる。が、持ち主である人間は違う。骨が無い人間なんて存在しない。どういう事かは分かるな?」
達「てめぇ……」
貭「ボーン・コレクターは骨を操れる。そこら辺に落ちてる、埋まってる骨も、アンノウンの体内の骨も、生きてる人間が持つ骨でさえもな」
貭耶は大きくため息をついた。
貭「だが出来ればこの手段を使うのは控えたかった。体内の骨を弄れば体の形を大きく崩す事になる。そうなった死体は晴斗のラストエンペラーで操るのは不可能になる。だから俺は生きたままの人間の骨を動かす事はしなかった。しかし今の状況ではお前を完全に始末するのが優先だ」
ボーン・コレクターが手を仰ぐと今度は左腕に違和感を感じ、そしてそれは瞬時に耐え難い激痛に変わった。
達「ぐっ、くそっ!」
達八は爆発で散った冷たい熱帯魚の再生を謀ったが思う様に上手くいかなかった。ボーン・コレクターの攻撃により酷く体を損壊した達八は、智琉達同様アンノウンの維持が困難な状態に陥っていた。
達 (やべえ……マジでやべえ……)
達八が再生に成功した魚は殆ど無く、それらを細かく操作するのは不可能であった。それどころかボーン・コレクターに固定されていた魚の大半も維持出来ずに自然にカードに戻っていっていた。
貭「外せ」
ボーン・コレクターが人差し指をピンと立てた瞬間、達八の左腕の骨が外れ皮膚を突き破った。
達「がああっ!あああぁ!」
達八は倒れながら骨の突き出た腕を押さえていた。そしてもう周囲には魚の影は一つ残らず消え去っていた。
貭「晴斗の為にも動かせそうな死体は残しておきたかったが、そんな理由で負けたんじゃあいつも気を悪くするだろう」
貭耶は骨が突き出た傷口から血を流し倒れる達八の側に歩み寄った。達八は小さく呻きながら微かに呼吸をしているだけであった。
貭「まあ、お前の死体を残しといても別にあれだけどな。にしても中々重傷だな。余計な首さえ突っ込んで来なけりゃまだマシだったろうに。そこんとこがチンピラなんだよなあ。…………ん、生きてるか?」
貭耶は達八の胸ぐらを掴んで持ち上げ自分の顔の前に達八の顔を持ってきて確かめた。達八は微かに息をしているだけだった。
貭「まだ生きてんのか。さっきまでのお喋りな口はどこ行った?すっかり黙りこくって、無駄口叩く気力も使い果したか?」
貭耶に対し、朦朧とする目で達八は睨んだ。
達「ああ……喋んねえ様にしてたよ…………うっかり喋って……触れない様にな」
達八はいきなり貭耶の顔の前で大きく口を開いた。すると達八の口から一匹の赤色の魚が飛び出して来た。突然の事に貭耶は呆気にとられてしまった。達八は瞬時に掴まれていた腕を振り払い、左足一本で全力で後方に飛び退けた。その瞬間、魚は貭耶に触れ大爆発を起こした。片足では即座に充分な距離を取る事が出来ず、達八は僅かに爆発に巻き込まれてしまった。しかし、幸いにも体の表面が少し焼けただけで一命は取り留めた。
達「何十匹も出しとくのは無理だったよ……けど、一匹だけなら問題ない。……触んねえ様に口ん中に隠しとくのは大変だったけどな」
爆煙が晴れた魚の爆心地には二本の足しか無く、膝下から上が跡形も無く吹き飛んでいた。達八は自分の勝利を確信した。
達「奴の身体は透明にしてやった……。仇は取ったぞ……褒めてくれよな、封駕」
右足と左腕の骨は飛び出し、所々皮膚は焼け爛れ、満身創痍ではあったが達八はとりあえず立ち上がった。
達「あいつは何て言ってたっけか。確か孤児院で待ってるみてーな事言ってたな。……この状態で行くのは骨が折れんな。……いや、もう折れてたわ」
達八は何気無く貭耶が吹き飛んだ場所を振り返った。そこには貭耶の二本の足とそれを眺める一人の男が立っていた。
?「ねえ、これ君がやったの?」
男は達八の方を向いて質問を投げかけた。
達「何がだよ?」
?「惚けなくていいよ。君が貭耶を殺したんでしょ?あ、貭耶っていうのは君で言う貭耶の事」
貭耶の名前が出た事で達八はその男が晴斗の仲間だと悟った。
達「てめぇまさか……」
景「僕の名前は景吾。まあ自己紹介なんて意味無いだろうけど。それにしても貭耶を倒すなんて凄いね。貭耶のアンノウン結構強い筈だけどなあ」
達八は貭耶を倒した赤い魚を再生させ自分の前に泳がせた。
景「面白いね君の魚。触れたら爆発するんだもんね。でも、僕の魚も中々だよ」
景吾はカードを具現化しアンノウンを出現させた。縫い目だらけのツギハギの体に鋭い歯を何本も口に揃えた魚のアンノウンが景吾の周りを泳いでいた。
景「ふらふらな今の君に何が出来るかなあ!」
景吾のアンノウンが猛スピードで達八に襲い掛かって来た。まともに動けない達八は赤い冷たい熱帯魚でガードを試みた。冷たい熱帯魚に対し景吾のアンノウンは口を大きく広げ迫って来た。
達 (喰らい付いてみろ。その瞬間てめぇのアンノウンは……)
達八の狙い通り景吾のアンノウンは赤い魚を口に含んだ。しかし、達八の想定とは裏腹に爆発は起こらなかった。
達「は?な……何で……」
景「君を守るもの、完全にいなくなっちゃったね」
丸腰の達八に景吾のアンノウンは容赦無く襲い掛かった。一瞬にして達八の顔面は半分以上が食い千切られ、達八は息絶えその場に倒れ込んだ。
景「さて、あの智琉って奴が言ってた孤児院はこの近くだったかな。貭耶も死んじゃったし。仕様が無い、僕一人で行くか」
景吾は智琉達が飛び立った方向に向かって歩みを進めた。
続く
《人物紹介》
錦部 景吾
身長163cm 14歳
嫌いなもの:ミニマリスト
《UC紹介》
ボーン・コレクター 身長2m
持ち主:須賀 貭耶
能力:骨を操る。身に纏う骨の装飾品を飛ばす他、生物の体内の骨までも自由に操作可能である。




