11-4話
メディエイターとしての力を解放した衆治のシザーハンズはラストエンペラーとの力量の差を一気に突き放した。
晴「メディエイターの力は確かに強力だ。だが、それで俺に敵うなどとは、それこそ傲慢だ」
衆「どの口からそんな言葉が出る?」
衆治はシザーハンズでラストエンペラーに対し怒涛の攻撃を繰り出した。シザーハンズの猛攻をラストエンペラーは防ぎはするが、先程に比べてかなり劣勢を強いられていた。
晴 (……守りに徹するのは性に合わん)
晴斗はラストエンペラーの操る死体を操作し、衆治に直接攻撃を仕掛けた。しかし、死体が衆治に襲い掛かろうとした瞬間、レッド・ドラゴンの放つエネルギーが死体を吹き飛ばし衆治の身を守っていた。
智「死体は全部俺が対処する。だから衆治はあいつをぶっ倒してやれ!」
衆「ああ、頼もしいねえ」
衆治はカードを握りしめ、ラストエンペラーに対する攻撃のスピードを強めた。その速さは最早晴斗がその目に捉えるのも不可能な程であった。スピードで翻弄したシザーハンズは一瞬の隙を突いてラストエンペラーに斬りかかった。晴斗は間一髪回避行動は取れたが避けきる事が出来ず、ラストエンペラーの右手の小指を斬り落とす事に成功した。
智「やった!」
衆「まだダメージとしちゃ軽傷だ、迂闊には喜べない。が、また一歩あいつを追い詰めたのも事実だ」
二人の顔から思わず笑みが溢れた。その様子に晴斗は非常に静かな目を向けていた。
晴「そうだ、一歩追い詰めた訳だ。俺がお前をな」
衆「は?」
晴「俺のアンノウンに手傷を与えた事でお前はまた己の力を過信する。メディエイターという自身の才能に」
衆「……何が言いたいんだ?」
晴「今に分かる」
晴斗の言葉に苛立つ衆治はシザーハンズの攻撃を再び繰り返した。衆治の周りにはラストエンペラーの操る死体が絶えず襲って来るが、智琉のレッド・ドラゴンが強固な守りで近付けさせないでいた。
衆 (晴斗が何を言おうが関係ない。あんな事を宣うのも奴が追い詰められてる証拠だ。奴にはもう打てる手段なんか……)
衆治がそう確信したその時、衆治の足下の地面が大きくそそり立った。それは紛れも無い死体の一つであった。
智「なっ……!?」
衆「何だ!?」
突然現れた死体に衆治は驚愕した。
晴「死体をただ操るだけではない。表面に屍肉を貼り付け別の姿形に擬態もさせられる」
晴斗は衆治の立っていた地面に腐蝕した肉を纏わせ地面に擬態させた死体を智琉に気付かれぬ様に潜ませていたのだ。その死体が今衆治に襲い掛かろうとしていた。
智「衆治!」
衆「たかが死体の一体程度……!」
衆治は襲い来る死体の腕を掴み動きを止めた。その瞬間、突如黒い物体が死体の腹から勢い良く飛び出すと衆治の腹部に深く突き刺さった。
衆「ぐはっ!?」
智「衆治!?」
衆治の腹に突き刺さったのはカラスであった。体は腐敗し目が爛れたカラスが嘴から刺さっていた。尋常な外見ではないカラスは衆治の腹の傷を広げるかの様に嘴が刺さった状態でバタバタと暴れていた。それは衆治に激しい苦痛を与えるのに充分であった。
衆「ぐっ…………これも、お前の……」
晴「ラストエンペラーが操作出来る骸は人間だけではない。形が保たれてさえいればどんな動物の死骸も意のままだ」
血反吐を吐きながら衆治は力一杯そのカラスをはたき落とした。叩かれたカラスの体は腐敗していたせいか簡単に崩れバラバラになり、地面に落ちて動かなくなった。
晴「メディエイターの利点はアンノウンの力を飛躍的に向上させる事が出来る。が、メディエイター自身は何も変わる事は無い。どれ程アンノウンが驚異的な力を引き出そうが、持ち主である本人を弄してしまえばメディエイターであっても恐れる事は無い」
晴斗はラストエンペラーで目の前に佇むシザーハンズに強力な拳を一撃放った。本来シザーハンズならばいとも容易く避けれる攻撃であったが、シザーハンズは一切微動だにしなかった。アンノウンは持ち主が精神を介して操作するものであり、今の衆治にはシザーハンズを動かせだけの精神的余裕が無かった為である。ラストエンペラーの拳を浴びたシザーハンズは遥か後方に吹き飛ばされた。そしてシザーハンズの負ったダメージが精神に伝わった衆治はその場に倒れ込んでしまった。シザーハンズは自然に衆治のカードに戻っていった。
智「衆治!」
駆け寄った智琉が見た衆治の姿は凄惨なものだった。腹に開いた傷から出血が止まらず口からは吐血、微かに息はしているが虚ろな目は焦点が合っていなかった。衆治の状態に智琉は言葉が出なかった。
晴「お前の敗北は自身の力を過信しのぼせ上がったが故だ」
智琉のもとに晴斗がゆっくりと歩み寄って来た。その目は最初と変わらず鋭く冷やかなものだった。
晴「そして、自分の身を自分以外の者に委ねた愚行がそれを決定づけた」
衆治を見下ろす晴斗を見る智琉の目は恐怖が渦巻いていた。晴斗から感じる気迫に押し殺されそうにいた。
晴「お前が先程俺に向けた目は良かった。だが今のお前はまるで駄目だ。その程度の覚悟など潰すに値しない」
晴斗は智琉達の周囲を囲う死体達を操り道を一筋開けた。
晴「衆治を置いてこの場から立ち去れ。これは逃げるチャンスを与えているのではない。ここから往ねという命令だ」
智「…………衆治を殺すのか?」
晴「そいつは俺にとって看過し得ない存在だ。脅威は根絶やしにする必要がある。安心しろ。殺した後の衆治の遺体を操ろうとは思わん。死してなお辱める様な真似はしない」
晴斗の出した申し出は智琉の頭を一瞬悩ませた。しかし、智琉の出す決断にその悩みは払拭された。
智「……お前が何を言おうと関係ない。お前が衆治を殺すって言うんなら、俺はどこまでもお前の敵だ!」
晴「…………もう少し良識ある回答を期待していたが……」
晴斗は片手をかざし勢いよく振り下ろした。と同時に死体が一斉に智琉達に襲い掛かって来た。飛びついた死体達は智琉達の姿が見えなくなる程に覆い被さり重なり合っていった。
晴「愚かしい」
その時、遺体の山の中からレッド・ドラゴンが猛烈な勢いで飛び出し、智琉と衆治を背に乗せ上空へと飛び上がった。その勢いに被さっていた死体達は四方へと散り散りに吹き飛ばされた。
晴「何!?」
上空へと回避した智琉は地上を確認した。晴斗とラストエンペラー、更に数十体の蠢く死体が蔓延っていた。
智「この状況じゃあいつに勝つなんてのは難しい。何より衆治をこのままにしとく訳にはいかない」
智琉は晴斗に背を向けこの場は逃げる事を決断した。レッド・ドラゴンは翼をはためかせ飛び去ろうとした。
晴「おめおめと逃がすものか」
晴斗はラストエンペラーで更に死骸となったカラスを三羽動かしレッド・ドラゴンへと放った。三羽のカラスは勢い良く飛んでいったが、アンノウンであるレッド・ドラゴンには大したダメージは与えられず、レッド・ドラゴンのエネルギー弾で全て撃ち落とされてしまった。
晴「……やはりアンノウン相手に操作する死体では不足か」
晴斗は智琉の逃亡を許してしまった。
晴「智琉、か。面白くは感じるが、あれも衆治同様、俺にとっての脅威になり得るか」
晴斗は携帯を取り出し誰かへと電話をかけた。
晴「……貭耶か、俺だ。例の二人の事だが…………そうだ。…………必要無い、排除してくれ。念の為、適当な奴を連れて行け。手負いの獣程よく抗うものだ」
晴斗は電話を切り携帯をポケットにしまった。
晴「道草が過ぎた。ここに来た本来の目的を果たさねばな」
続く
《UC紹介》
ラストエンペラー 身長3.2m
持ち主:階崎 晴斗
能力:死体を生きているかの様に動かす事が出来る。人間以外の動物の死骸でも操作可能。死体の表面の屍肉を弄って別の見た目に擬態もさせられる。操れる死体の数に制限は無いが体数を増やす程に操作精度は低下する。一、二体だけであれば素早く動かす事も可能である。




