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10-3話




弓真について来た智琉と衆治はどこにでもありそうなごく普通の一軒家の前に立っていた。

衆「この家の住人が弓真の客か?」

弓「そういう事」

智「どこから見ても普通の人が住んでそうな家だけど」

弓「死を願う理由は人それぞれさ。お金さえ払ってくれれば身分は関係無い。僕は誰にでも平等に満足のいく最期を過ごしてもらいたいだけだよ」

弓真はチャイムを押し住人を呼んだ。するとチャイムのスピーカーから男の声が聞こえた。

?「はい」

弓「こんにちは。ご依頼を頂きました、尊厳死執行屋の者です」

?「お待ちしてました、どうぞ中へ。鍵は開いてます」

弓真は歩き出しその家の中へ入ろうとした。それを後ろから見て動かない二人を振り返ると、弓真は驚いた顔をして言った。

弓「何してるんだい?早く入ろう」

智「え?良いのか?」

弓「構わないよ。アンノウンの存在を理解している君達なら僕も心配は無い」

衆「……そうか。ならそうさせて貰おう」

弓真に導かれる様に二人も家の敷地内へと足を踏み入れた。玄関を開けたが人の姿は見られなかった。

衆「出迎えも無しか?」

弓「そういう人は多いよ、気にしてない」

家に上がり廊下の突き当たりの部屋の前に立ち、ゆっくりと戸を開けた。その部屋はリビングであり、一人の男がテーブルに腰掛けていた。

弓「初めまして。柏羽かしわば 磨琴まことさんですね?」

磨「はい、そうです。どうぞ座って下さい」

磨琴は自分の座る椅子からテーブルを挟んで向かいの椅子に手を向け、その椅子に弓真は腰掛けた。椅子は二つしか無かった為、智琉と衆治は弓真の後ろに立つ事にした。磨琴は二人を見はしたが特に気には止めていない様子でいた。

磨「よく来てくれました。横田よこたさんでしたっけ?」

弓「いえ、横田おうたと読みます」

弓真は名刺を取り出し磨琴に渡した。

磨「これはすみません、失礼しました。横田おうたさんですね」

笑顔を取り繕ってはいるが磨琴の顔は既に生気せいきがほとんど無いに等しかった。死を覚悟しているというよりは死ぬ事を望んでいる様な顔をしていた。

弓「では手続きを始めていきたいと思いますので本人確認が出来る物と印鑑を提示して下さい。」

そこからしばらくの間は難解なやり取りが行われた。形式張った言葉と様々な書類の受け渡しなど、その様はさながら役所の風景であった。が、二人の間で交わされているやり取りの内容は尊厳死というこの世でも類を見ないものである。

智「衆治、この光景って物凄く普通じゃないよな?」

衆「十五になるまで携帯を持たずにいた奴が普通を語るな」

一通りの手続きが済み弓真はテーブルの上に広げた書類達を鞄にしまっていった。

弓「ところで柏羽さん、宜しければ貴方が尊厳死を選んだ理由などはお聞き出来ますか?」

磨「理由……ですか?」

弓「これは私が尊厳死を行う上で必要な情報という訳ではありません。ですので理由の説明を拒まれても一切問題はありません。ですが、見ず知らずとはいえ誰かに自分の抱えている事を話すのはこの世を去る上で一つ悔いを残さずに済みます。如何いかがでしょう?」

穏やかな口調で提案された弓真の言葉に磨琴はしばらく考え込んだ後、口を開いた。

磨「……私には四つ離れた兄がいるんです。兄と言っても義理の兄弟ですけど。親の再婚で一緒になったので血は繋がっていないんですよ。正直、兄との関係はあまり良くはありません。活発で人気者の兄にとって内気で人見知りな私が弟というのがとても不満だった様で、昔から過度な嫌がらせはしょっちゅうでした。そして最近、兄は私の知らない所で私に多額の死亡保険をかけたみたいなのです」

衝撃の告白に智琉と衆治は驚愕したが、弓真は黙ったまま磨琴の話を聞き続けた。

磨「そらから私の身の周りにはあらゆる危険が蔓延はびこる様になったのです。兄の知り合いの中には人殺しさえどうとも思わない連中も僅かにいるみたいなので……。だから私は自分から進んで死を選んだんです。自殺、もしくは貴方の様な方に頼んで最期を迎えれば保険も下りず、兄にも保険金は入りません。それが私の様な人間に出来る唯一の対抗手段なんです」

智「そんな事……」

思わず磨琴に言い寄りそうになった智琉を弓真は手を出して遮った。

弓「苦渋な決断をなされたんですね。安心して下さい、貴方の最期は我々が責任を持って見守らせていただきます。話して頂きありがとうございました」

弓真の言葉に磨琴は目を閉じその場で深く礼をした。

弓「では柏羽さん、準備が整いましたら事前に言いました通りに」

磨「はい、分かりました」

磨琴は席を立ち部屋を出て行き、三人もそれに続いた。

智「弓真、さっきはどうして……?」

弓「死を覚悟するのはとても勇気がいる。その決断を鈍らせる様な事はして欲しくなかっただけさ」

磨琴の向かった部屋は和室であり、中には布団が敷かれていた。

磨「この様に既に用意は出来ています」

弓「分かりました。ではそこに横になって寝て下さい」

弓真に言われた通りに磨琴は布団に入り毛布を被って寝る体勢をとった。

弓「目を閉じて心を落ち着かせて下さい。何も考えず穏やかな気持ちのまま」

目を瞑り続ける磨琴の顔はそのまま寝入ってしまいそうな程に穏やかな表情をしていた。磨琴に語りかけながら弓真はカードを具現化しアンノウンを出現させた。

弓「UCアンノウンカード"デッドリー・フレンド"」

弓真のカードから深緑のローブに身を包んだアンノウンが姿を現した。弓真はデッドリー・フレンドの手を磨琴の額に当てがった。特に大きな変化がある訳では無く、触れられている磨琴の体がほんの少しだけ徐々にしぼんでいく様に見えた。十数秒間触れ続けた後、弓真はデッドリー・フレンドの手を額から離させるとカードに戻し両手を合わせ合掌した。磨琴は息を引き取ったのだった。それを見て智琉と衆治も合掌し目を瞑った。弓真は携帯を取り出しどこかへと電話をかけた。

弓「もしもし、私です。こちらは済みましたので後をよろしくお願いします。…………はい、その場所です。では」

通話を切ると弓真は二人の方を向いた。

弓「以上で僕の仕事は終わりだ。遺体の処理や後片付けは専門の業者がおこなってくれる。僕達は帰るとしよう」

色々な事に二人はすぐには言葉が出てこなかった。

衆「……ああ」

家から出た智琉と衆治はさっきまで自分達がいた家を振り返った。もうその家には生きてる者は誰もいない事が二人には少し不気味に感じた。




続く



《人物紹介》

柏羽かしわば 磨琴まこと

身長175cm 36歳

嫌いなもの:ナッツ類


UCアンノウンカード紹介》

デッドリー・フレンド 身長1.9m

持ち主:横田 弓真

能力:触れた生物の寿命を奪う。奪える寿命の長さは触れている時間に比例し、触れ続ける事で完全に奪い切れる。寿命を奪う事しか出来ず、寿命を貯める、与えるなどの他の使い方は不可能である。


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