10-4話
歩き続ける弓真に智琉と衆治は今日の出来事を聞き続けた。
智「弓真、あの磨琴さんの遺体はどうなるんだ?」
弓「さっきも言ったけどそれは業者の人が処理を請け負ってくれているよ。処理といってもちゃんとした法の下での行為だから心配はいらないよ」
智「分かっちゃいたが物騒だな」
智琉は改めて弓真の行っている仕事の本質に軽い畏怖を覚えた。
衆「弓真」
弓「どうしたの?神妙な顔をして」
衆「いつまでこの仕事を続けるつもりなんだ?」
弓「いつまでって、僕はずっと続けるつもりだよ。僕の命が終わるまで」
衆「お前のしている事は、本当に人の役に立つと思っているのか?」
弓真の回答に衆治は足を止め言った。
弓「…………どうしてそんな事言うんだい?」
智「そうだよ、急にどうしたんだよお前?」
衆「死に導く事をお前がどう思っているのかは俺に分かる訳じゃない。だが、その人達は本当に救われたと言えるのか?生きる事から背を向けるのが救いになると思っているのか?」
弓「……君は何が言いたいんだい?」
衆「死にたがる人に死を与える事が救いになるとは俺は思わない。生きる意味、目的を見出してその先に繋げる事が死を求める人にとって本当に必要なものだ」
衆治にそう言われ弓真は俯きしばらくの間沈黙した。
弓「…………君に分かるのかい?どうしようも無い壁にぶち当たり、それを打開する手段も無い事実に絶望し、死ぬ事以外の選択肢が無いと分かってしまった者の気持ちが君には分かるのか!?」
衆「俺だってのうのうと生きて来た訳じゃない。お前が今まで色んな経験して来た様に、俺もお前には分からない程の多くを経験して来た。それは誰だって同じだ」
芯を崩す事の無い衆治の姿勢に、弓真は自分でも理解し難い苛立ちがこみ上げて来た。
弓「衆治くん、君は今僕の全てを否定したんだよ。僕が遠ざけてきた真実を突き付けて」
弓真の目から僅かに涙が溢れたのが二人には見えた。
弓「僕だって本当は……」
そこまで言いかけた時、弓真は突然その場に倒れ込んでしまった。
衆「弓真!」
二人が駆け寄って見ると弓真は気を失っていた。
智「衆治!弓真の意識が無い!」
衆「分かってる!救急車を呼ぶからそのままにしてろ!」
しばらくして救急車がサイレンを鳴らしながら到着した。
病院に運ばれた弓真は適切な処置を受けベッドに寝かされた。弓真を診た医者は智琉と衆治に弓真の状態を知らせた。
医「患者の横田さんですが……」
智「えっと、横田って読みます」
医「失礼、横田さんなんですが、少し不可解なんです」
衆「どうゆう事です?」
医「特に大きな怪我やその跡も無ければ重い病気にかかってる訳でも無い。それなのに横田さんの身体は酷く衰弱しているんです」
衆「……その原因は一体?」
医「分かりません。多くの患者を診て来ましたが、こんな症状は初めてです。これはまるで寿命が訪れたかの様な、そんな状態です」
病院の一室のベッドの上で横になっている弓真の傍らに二人は座っていた。弓真は既に意識を取り戻している。
智「弓真、聞こえてるか?」
弓「……うん」
返事をした弓真の声は明らかに弱っているのが分かった。
智「先生が言うには、弓真の身体の状態は不可解らしいんだ。なあ弓真……」
弓真はゆっくりと自分の内に秘める真実を語り始めた。
弓「僕が自分のアンノウン、デッドリー・フレンドの存在と能力を知った時、深い絶望を感じたのは話したよね。……辛かったよ。それこそ自ら命を投げ出してしまいたいと思う程に。そしてその時、僕の目の前には生物の寿命を奪える存在がいた」
衆「まさかとは思っていたが、お前……」
弓「僕は自分に使ったんだ。デッドリー・フレンドの手を僕に触れさせて。思った通りデッドリー・フレンドの能力は持ち主である僕にも作用した。だけど僕は肝心な所で駄目なんだ。デッドリー・フレンドが寿命を奪い切る直前、とてつもない恐怖に襲われた。死ぬのが怖かった。咄嗟にデッドリー・フレンドの手を離してしまい僕は死に損なった。覚悟も無く衝動的に死を選んだ僕は死ぬのを受け入れる事が出来なかった。だからこそ、悩み抜いて死を決断した人にはせめて安らかな最期をあげたかった。自分の死と向き合える人は僕にとって尊敬に値するのだから」
弓真が語るのを二人は黙って聞いていた。弓真の目からは涙が溢れていた。
弓「だけど分かってた。どれだけ美談を装っても結局僕がしてきたのは殺人だ。衆治くんの言う通り、僕がすべきだったのは人を殺す事じゃない。人を生かす事だった。それなのに僕は……」
衆「違うだろ」
弓「……え?」
弓真の言葉を衆治の一言が遮った。
衆「お前がしてきたのは殺人じゃない。尊厳死だ。その二つは似通ってる様で全く違うと、お前が教えてくれたんだろ」
弓「それは……」
衆「お前に見送られた人は皆、人としての尊厳を保ったままこの世を去れた。少なくとも磨琴さんの顔はとても満足した表情をしていた。お前は立派に人が行くべき道を示していた事は充分に伝わったよ」
弓真は我に帰った様に目を見開いた。そしてまた弓真の目から涙が溢れ出してきた。しかし、その涙の意味が先程の涙とは違うのが側から見ている智琉にも分かった。
弓「ありがとう……ありがとう……。ほんの少しの間だったけど、最後に君達に出会えて良かった。僕は幸せだ……思い残す事は無い」
智「!」
衆「待て弓真!まだ……」
弓「……大丈夫。僕はもう……死ぬのは怖くない…………」
笑顔の表情のまま閉じた弓真の瞳が開く事は二度と無かった。
病院を出た二人は自分の体が少し重く感じた。
智「衆治、弓真の遺体はどうなるんだ?」
衆「身寄りの無い遺体は病院から役所や国の機関が引き取る。心配する事は無い」
智「……弓真が今まで見送った人達みたいに、弓真も安らかに渡れたのかな?」
衆「さあな。死んだ人間の事は死んだ人間にしか分からん。だが俺達は生きてる。いつまでも考え込まずに前に進む、それが死んだ者が生きる者に対する願いだと俺は思っている」
智「ああ、俺もそう思う」
二人の心は少しだけ晴れやかになった気がした。
衆「よし、じゃあ今日の晩飯でも食いに行くか」
智「よく考えりゃ俺達今日はあの焼き鳥しか食ってないよな」
衆「そうだな。じゃあ晩飯は屋台じゃなく居酒屋の焼き鳥にするか?」
智「焼き鳥以外の選択肢は無いのか?」
二人が進む先の街並みは生きる人間が作る光で満ちていた。
続く




