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10-2話




衆治はその財布を開きパッと中を見た。財布のカード入れに入っている免許証に"横田 弓真"という名前が書いていた。

衆「おーいそこの人、財布落としましたよ」

衆治は財布の持ち主の男に呼び掛けた。その声に男は振り返ると、自分のポケットを確認し財布が無い事に気が付いた様子だった。

弓「すみません、うっかりして。どうも」

男は謝りながら衆治に駆け寄って来た。

衆「はいよ、横田よこたさん」

衆治はその男に財布を手渡したが、その時の男の顔は気まずそうな表情をしていた。

弓「あーえっと、僕の苗字は横田おうたって読むんです」

智「え?横田おうた横田よこたって書いて?」

弓「……うん」

衆「そりゃ読めねーわ」

弓「だね。無理にそう呼ばなくてもいいよ。僕の名前は横田おうた 弓真きゅうま。一応こういうものだ」

そう言って弓真は懐から名刺を二枚取り出し二人にそれぞれ渡した。名刺には"尊厳死執行屋"という肩書きと共に弓真の名前が書いてあった。

智「尊厳死……執行屋……?」

衆「随分と仰々しい肩書きだな」

弓「やっぱりそう思うかい?」

智「尊厳死執行屋って何するんだ?」

衆「大凡おおよその見当はつくが、恐らくは人を死なせるのが役割だろうな」

智「死なせるって、それはつまり殺し屋って事か?」

弓「それは違う。殺し屋は誰かに頼まれて別の誰かを殺す事が仕事だ。僕の場合は死を望む人に安らかな人生の幕引きを提供するのが仕事だ」

衆「要は安楽死を請け負う仕事って訳か」

弓「まあ、そう思って貰っていいと思うよ」

弓真の話の実態に智琉は少々疑問を覚えた。

智「それは仕事として大丈夫なのか?」

弓「必要な所からの許可は全て得てるさ。全国の自治体や警察、裏社会に通じる要人など色々」

衆「なかなか抜け道を通っている様に聞こえるのは俺の気のせいか?」

弓「やましい事はしてないつもりだよ」

話を聞いている内に二人はだんだん弓真に興味を持つ様になっていった。

智「安楽死をさせるみたいな事言ってたけど、それをするのに特別な機械とか装置とかがあるのか?」

智琉はサッと弓真の全体を見回したが、弓真の持ち物と言えばあまり厚さの無いビジネスバッグだけであり、特段目を引くものは見当たらなかった。

弓「ああ、そういう機械の類は僕は必要としないんだよ」

智「必要としないって、それじゃどうやって仕事をするんだ?」

弓「んー、なんて言ったらいいか、上手く説明出来る気がしなくてね。アンノウンって言っても分からないよね」

弓真の口から出たアンノウンの単語に二人は驚くよりも納得が勝った。寧ろアンノウンの一言で頭の中の疑問が払拭される自分に智琉は驚いていた。

智「あーいや、うん。分かる分かる、全然通じる。なあ衆治」

智琉に目で促されたのを感じ取った衆治は何も言わずに弓真に自分のカードを具現化して見せた。

弓「あ……、そういう事か。なら説明は単純だ。僕のアンノウンの能力が僕の仕事の要だよ」

衆治達の正体に驚きつつも弓真はどこか自分と同じというシンパシーを感じた。

衆「人を死に追いやる能力か。一体どんなアンノウンなんだ?」

弓「説明するのは構わないがちょっと時間が押していてね。移動しながらで構わないかい?」




揺れる電車の中。乗客もまばらで空いている車内で三人は座席に座り話の続きをしていた。

弓「そもそも僕がこんな事を仕事にしているのは僕が持ってしまったアンノウンが原因だと断言出来る」

衆「原因って。今の仕事を後悔してるみたいな言い方だな」

弓「後悔はしてない。けど、これで良かったのかという疑問なら残ってはいる。自分の選んだ道が正しかったのかという疑念ならね」

智「尊厳死って書いてあったけど、まず尊厳死って具体的にはどういうものなんだ?」

弓「尊厳死というのは死を望む人が自身の人としての尊厳を保持したままこの世を去る事、もしくはそれを望む事を言うんだよ」

智「ただ死ぬのとは違うのか?」

弓「大違いさ。死というのはその人にとって自分らしくいられる最後の時だからね。とても重要な事なんだよ」

智「……聞いといてアレだがよく分かんないな」

弓「それが普通だよ。僕みたいなのが変わってるだけさ」

弓真はどこか遠くを見る様にそう言った。それが衆治には引っかかった。

衆「弓真、お前は今僕みたいなのと言ったが、お前もあるのか?尊厳死を求める人と同じ気持ちになった経験が?」

弓「……なかなか鋭いね。僕も一度人生に絶望した時があったんだよ。自分のアンノウンの存在に気付いた時に」

智「弓真のアンノウンってどんなのなんだ?」

弓「名前はデッドリー・フレンド。僕が十歳くらいの頃に偶然手にしたカードがそのアンノウンって訳。その能力は、触れた生き物の寿命を奪う能力だよ」

智「寿命って……!」

弓真の口から出た一言に二人はゾッとした。特に衆治の方は異様なまでに顔をしかめた。

智「奪うって触れるだけでか?」

弓「そう。対象に触れ続けるとその生物の寿命を急速に奪っていく。そしてそのまま命を奪う事も出来る」

衆「……そんな能力ならどんな相手と戦っても負けないだろ。どうして絶望なんかするんだ?」

弓「僕は戦いなんか望んでいない。誰かを傷付けたいなんて思わない。そんな人間にとってデッドリー・フレンドの能力は絶望する理由には充分過ぎるんだよ」

衆「……確かに、言われてみればそうかもな。悪かった」

自分の軽率な発言を恥じ衆治は弓真に謝罪した。

衆「よりにもよって自分と同調したアンノウンの能力が自分の性格に合わないとそりゃ嫌にもなるわな。だが、言い換えればそんな危険なアンノウンの持ち主が弓真みたい人間なら安全とも言えるな」

弓「ありがとう。大丈夫、僕もこの能力を誰かの役に立てる様に努力しているよ」

智「それが尊厳死執行屋か」

弓「その通り」

弓真の顔に笑顔が戻り二人はとりあえず安心した。

智「にしても弓真、もう一個聞いていいか?」

弓「何だい?」

智「その尊厳死執行屋っていう……職業名?って弓真が考えたのか?」

弓「あーいや、これはまあ僕が考えた訳じゃないんだけど……」

智「?」

弓「この仕事を始める為に色んな所から許可を貰ったのは言ったよね。勿論アンノウンを使う以上、保安局にも許可を貰いに行ったんだよ。許可を得る事自体は想像よりもあっさり済んだんだけどね」

衆「だけど……」

弓「たまたまそこにいた局員の女の人とこの事について話したんだ。そしたらその女の人が僕の仕事に名前を付けてくれたんだ。それが尊厳死執行屋って訳」

弓真の話に智琉と衆治は顔を見合わせた。

智「……どう思う衆治?」

衆「随分とネーミングセンスの崩壊した女性だな」

弓「僕も最初は少しどうかと思ったけど今はとても気に入ってるよ。この肩書き」

弓真の表情には嘘偽りが無いのがよく見て取れた。




続く



《人物紹介》

横田おうた 弓真きゅうま

身長169cm 19歳

嫌いなもの:いわし雲


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