9-4話
智「夜隙ぃ!」
智琉はいてもたってもいられずレッド・ドラゴンを呼び出し、夜隙にエネルギー弾を放った。しかし、それら全てはゴーストの手に触れられた瞬間に凍り跡形も無く砕けていった。
夜「お前のアンノウンの攻撃はそこそこの熱を持っている。触れて凍らせば無力なもんだな」
衆治もシザーハンズを呼び出しはしたが、智琉の苦戦を見て手を出せずにいた。
衆 (レッド・ドラゴンの遠距離攻撃もシザーハンズでの接近戦も奴にとっては熱を奪えば有利に働く。やはり奴を倒すには刻乃のシアター・ナイトメアが……)
夜「お前達の攻撃は終わりか?じゃ、今度は俺のターンだな」
夜隙の操るゴーストが大きく手を広げると、その手の平の上に氷の塊が作られていった。
智「何!?」
夜「ゴーストが触れた物は何でも凍てつかせる。大気中にあるちょっとの水分も集めて凍らせば充分なモンが作れんだよ」
ゴーストが手の平を頭上にかざすと氷はみるみる内に大きくなっていった。夜隙はその巨大な氷を衆治目掛けて投げさせた。
衆「のわっ!?」
衆治はそれを既の所で躱したが、ゴーストはもう片方の手でも氷塊を作っており、続けてその氷も衆治に放った。
夜「甘え!」
向かって来る氷塊を衆治はシザーハンズを盾にして防ぐが、氷との接触の衝撃に衆治はシザーハンズ諸共後方に押し飛ばされた。
衆「ぐはっ!」
智「大丈夫か衆治?」
衆「まだなんとか」
夜「頑張るねえ。いっそ諦めちまった方が楽なんじゃないか?」
夜隙は呆れた顔をしながら再びゴーストで氷塊を作り始めた。
衆「チッ」
手を打たねばと焦る衆治の耳に智琉の声が聞こえた。
智「衆治、あれをなんとか利用出来ないか?」
衆「あれって?」
智「あいつが今作り出してる氷だ。ゴーストの能力は触れた物の熱を奪うんだろ?だったらあの手から作られた氷にはもう既に熱はない筈だ。それならゴーストの手でも防御出来ないんじゃないか?」
衆「発想は悪くはないだろうが、じゃああれをどう利用するんだ?そもそもあれを真正面から受け止めろってか?」
智「なあ衆治、俺達がさっきまで旅館で苦戦しまくってた相手を覚えてるか?」
衆「旅館……。あのパズルの事か?」
智「あれは凄いよな。ピースの数も形も同じなのに全く違う形になれるんだからな」
智琉の言葉を聞いた衆治は何かを察したかの様な表情を浮かべた。
衆「そんな言い方じゃ俺以外には伝わらないぞ」
それと同時に夜隙も次の攻撃の準備が整っていた。
夜「これを喰らって死なない事を祈っときな」
ゴーストが氷塊を撃ち出した瞬間、衆治のシザーハンズが迫り来る氷塊に向かって走り出した。
夜 (死に急ぎ?いや、何だ?)
衆治はシザーハンズの能力で時間を遅らせると、氷塊の形をよく観察し、そしてシザーハンズのハサミでその氷塊をバラバラに叩き斬った。
衆「智琉!」
智琉の操るレッド・ドラゴンが口からエネルギーを吐くと即座にシザーハンズが斬り刻んだ氷に飛んでいき、粘着性のある性質に変え氷の欠片を繋ぎ合わせて鋭利な槍へと形を再構築させた。
智 (あのパズルから得たヒント。バラバラに分解して別の形に作り変える戦法)
レッド・ドラゴンが構築した氷の槍を衆治はシザーハンズで夜隙目掛けて力強く蹴り飛ばした。
夜「何!?」
思いもよらぬ反撃に夜隙はつい咄嗟にゴーストの手を盾に広げてしまった。
夜 (しまった!)
ゴーストが触れた物は熱を一瞬で奪われそして砕け散る。その為、夜隙は今まであらゆる攻撃をゴーストの手を盾にする事で防御してきた。しかし氷で出来た槍はほとんど熱を持たず、ゴーストの能力は効果を発揮しなかった。槍はゴーストの手の平を突き刺さりそのまま胴体を貫通していった。
夜「がああああっ!」
ゴーストの負ったダメージにより夜隙は大きく叫びながらその場に倒れ込んだ。
智「なんとか上手くいったな」
衆「なかなかな付け焼き刃だったけどな」
智琉と衆治は互いに納得すると急いで刻乃のもとへ向かった。
智「刻乃!大丈夫か?」
刻「智琉……夜隙は……?」
衆「倒したぞ。安心しろ」
刻「そう、良かったわ」
刻乃は自分で身を起こし座り込んだ。
智「刻乃、足は大丈夫か?」
刻「まだちょっと痛むけど、そう少し休んだら普通に歩けると思うわ」
智「そうか。なら良かった」
衆「にしても智琉」
智「何だ?」
衆「わざわざ奴の攻撃を利用しなくてもお前のレッド・ドラゴンのエネルギーを氷の性質に変えた方が早かったんじゃないか?」
智「それが出来れば簡単なんだけどな。まだまだ修行が必要って事だな」
呑気に談笑する三人の耳に、ピキピキという音が聞こえてきた。と同時に異様な程の冷気が辺りを包み始めた。嫌な予感がする三人が振り向くと、地に伏すゴーストの周囲が凄まじい勢いでどんどん凍りついていった。攻撃を喰らい左手と胴体に大きな穴を開けながらも残った右手でゴーストは辺りの地面の熱を奪っていった。
夜「へへ、ただじゃやられねえ。お前ら三人とも道連れだ」
地面に倒れながら夜隙は嘲笑う様にカードを握りしめていた。
智「やばい、逃げるぞ!このままだと俺達まで氷漬けに……」
刻「違う。あいつの目的は私達を凍らせる事じゃない」
智「どういう意味だ?」
刻「あいつは周りの熱を急速にゴーストに蓄えてダークネスへと変化させる気よ。そして、この辺一帯を吹き飛ばすつもりなのよ」
智「そんな事すりゃ奴も……」
刻「だから道連れって言ったのよ。あいつはもう助かる事を考えていない」
智「ったく、どこまでしぶとい奴なんだ」
熱を蓄え続けるゴーストに手を出せずにいる刻乃に衆治が言った。
衆「刻乃、お前のシアター・ナイトメアは今どこにいる?」
刻「え?それなら私の真上にいる筈だけど」
衆「丁度いい。シアター・ナイトメアの能力でここにドームを作れ。奴のゴーストの能力が弱まれば俺のシザーハンズで叩く事が出来る」
刻「そんな無理よ。だってそんな事すればあんたのアンノウンの能力だって弱まるわ。私のアンノウンのせいで仲間が傷つくなんて二度と御免よ」
衆「それしか方法がないんだ!やるんだ刻乃、俺なら心配いらない」
衆治に強くいわれ決心した刻乃はシアター・ナイトメアの能力を発動させた。シアター・ナイトメアの長く垂れ下がった両腕が素早く回転すると、その放射状に形成された半透明のドームが衆治達を覆った。それと同時にゴーストが吸い取る熱の勢いも一気に衰えた。
夜「あのやじろべえの能力か。確かにゴーストの力は抑えられたが、それはお前達も同じ事だぞ」
口を開き続ける夜隙に対し衆治のシザーハンズは向かって行った。
刻「やっぱり無茶よ、こんな事……」
衆治の方を向いた刻乃は思わず言葉を失った。釣られて見た智琉も同様だった。衆治の瞳の色が黒ではなく黄金色に光っていたのだ。その光景はどこか尋常ではなかった。
智「な、何だよそれ!?」
刻「衆治、あんたまさか……」
ハサミを構えて来るシザーハンズに夜隙もゴーストの右手を構えた。
夜「お前のアンノウンの能力も弱まってる筈だ。避けるなんてのは不可能だ、確実に触れてひび割ってや……」
ゴーストがシザーハンズに触れようとする寸前、シザーハンズは一瞬姿を消した。次の瞬間、ゴーストの差し出した手が根元から切断されたかと思うとゴーストを通り越しシザーハンズは夜隙の前に立っていた。
夜「は?」
夜隙はシザーハンズの蹴りを腹に喰らい湖の方に吹き飛ばされた。シザーハンズは宙を舞う夜隙に飛び掛かり夜隙の体を真っ二つに斬り裂いた。二つに切断された夜隙の体はそのまま湖に落下し沈んでいった。シザーハンズはそのまま衆治の持つカードへと戻っていった。その時の衆治の瞳はいつも通りの黒色に戻っていた。
衆「これでもう誰の名前も覚える必要は無くなったな」
刻「衆治あんた……、メディエイターだったの?」
智「?」
刻乃の口から出た言葉は智琉にとって初耳の言葉だった。刻乃の質問に衆治は口を閉じたままであった。
刻「……だとしたらあまり詮索はしない方が良いわよね、忘れるわ」
衆「……悪いな」
二人の会話に智琉はどこか蚊帳の外な気がした。
夜が明け、辺りも明るくなってきていた。
衆「とりあえず夜隙は倒したし、これで一先ず解決だな」
刻「ええ、あんた達のお陰で仇を討つ事も出来たわ。本当にありがとう」
智「これからはどうするんだ?」
刻「そうね。とりあえず村に戻ろうかしらね」
智「え、村ってまだ残ってたのか?」
刻「消滅したなんて言ってないでしょ。手酷くやられたけど何とか残ってるし、私も復旧に手を貸さないとね。ああそうだ、これ」
刻乃の差し出した手には木の人形が乗っていた。
智「これは衆治のやつか?」
刻「そうよ。私が持ってるよりあんたが持つべきでしょ。だから、はい」
刻乃から人形を受け取ると智琉はそれを大事そうにポケットにしまった。
智「ああ、ありがたく貰っとくよ」
二人と顔を見合わせた後、刻乃は二人に背を向け歩き去って行った。
智「俺達はどうする?」
衆「そりゃあ旅館に戻って寝倒すつもりだ。まずこの寝不足を取っ払わないと何もやる気が起きない」
智「賛成」
旅館へと足を運ぶ二人の心は勝利の達成感に包まれているが、智琉だけは少し違った。
衆「何してる、早く戻るぞ」
智「ああ」
智琉の心にはもやもやした疑問が残っていた。
智 (メディエイターって何なんだ?)
続く




