9-3話
智琉達三人は夜隙から距離を取る為、水辺を迂回していた。
衆「大丈夫か、智琉?」
智「平気だ、案外軽傷みたいだし。にしてもわざわざ逃げなくても……」
刻「あのままやり合っても勝ち目は薄いわ。戦略的撤退ってやつよ」
智「また戦いの最中に逃げるのか……」
衆「え?」
智「いや、何でもない」
刻乃は足を休めず歩き続けており、その後ろを智琉と衆治が付いて行く形で進んでいた。
衆「刻乃、聴きたい事が二つあるんだが」
刻「何かしら?」
衆「一つ目だが、俺達は今どこに向かってるんだ?」
刻「あそこよ。あの橋に向かってるの」
刻乃の指差した先には湖の間隔が狭くなっている部分の両岸を繋ぐ橋が見えた。
智「橋まであるのか、この湖!」
刻「そうよ」
衆「何故あの場所に向かう?」
刻「あの橋からなら湖の全体は無理だけど、それでもかなりの範囲は見渡せるわ。あそこを陣取るのはこの状況においては重要よ」
衆「だがそれは奴にも勘づかれる可能性もあるぞ」
刻「だからこれは賭けよ。乗ってくれる?」
智琉と衆治は一瞬目を見合わせた後、刻乃の方を向いて首を縦に振った。
刻「ありがと。で、もう一つの質問は?」
衆「ああ、さっきの奴の言ってた事なんだが」
刻乃は夜隙の喋っていた事を思い出そうとしていた。
刻「あいつが何か言ってたかしら?」
衆「お前のアンノウンの事。というよりはお前のアンノウンと戦った時の事を少し仄めかしていたが」
衆治の言葉に刻乃の顔は一瞬で曇った。あまり踏み込んではいけないのを察したが、それでも衆治はあえて問い続けた。
衆「あいつとの戦いで何が起きたんだ?それを教えてほしい」
刻乃は歩きながらも黙りこくっていたが、暫くして漸く口を開いた。
刻「私の村には私以外にも二人、アンノウンを持つ人がいたのは話したわね?」
衆「ああ聞いた」
智「確か夜隙との戦いで死んだって話だったよな?」
刻「そう。二人だけじゃなく大勢の村の人達があいつのアンノウンに殺された。そしてそんな結果を生み出したのは私のせいなの」
衆「どういう意味だ?」
刻「強力な力を持ったゴースト&ダークネスに対して私達が取った戦法は、シアター・ナイトメアを使う事だった」
智「それって刻乃のアンノウンだよな?」
衆「能力は確か、アンノウンの能力の抑制だったか?」
刻「そうよ。シアター・ナイトメアが展開したドームの中で、徐々に能力が弱まっていくゴーストを二人のアンノウンで倒すって作戦だったんだけど……」
衆「待てよ、お前のアンノウンの能力って……」
刻「ええ、シアター・ナイトメアの能力は敵も味方も選ばない無差別型。二人のアンノウンにも能力は影響したわ。結果として力関係は何も変わらず戦いの規模が縮小しただけだった。それでも、それを維持するだけでも意味はあったのに、私は……」
刻乃は決して止めなかった歩みを止めてしまった。体を震わせ唇を噛み締めていた。
智「刻乃?」
刻「私は解除したの。自身の能力が充分に発揮出来ない二人の姿を見て、何も考えずにシアター・ナイトメアの能力を解除してしまったの。最悪のタイミングで」
衆「最悪の?」
刻「私が能力を解いたその瞬間、ゴーストはダークネスに姿を変えたのよ。そして即座にダークネスは能力を発動したわ」
智「それって……」
刻「私が解除しなければダークネスの爆発の被害はごく僅かで済んだ筈なのに。私の勝手な行動が守りたかった村を壊滅に追い込んだのよ」
智琉と衆治は漸く理解した、刻乃が自らのアンノウンの力を使おうとしない理由を。自身のアンノウンの操作ミスで大切なものを失った。そのトラウマと罪悪感から刻乃は能力を使うのを恐れていたのだった。
衆「よく分かった。お前も俺達とはまた違った形で苦労したんだな」
衆治は止まっている刻乃を先導する様に前を歩いて行った。それを追いかける様に智琉と刻乃も足を動かした。
衆「だがな、お前がいなかったら被害は更に深刻になっていたかもしれない。いや、なってただろうな。お前の存在があるから、俺達は今こうして夜隙を倒そうとしている。それだけでも随分な功績だぞ」
刻「……何それ?いまいちピンと来ないわね……。でもありがと」
刻乃の顔にも少し笑顔が戻って来た。そんな事を話してる内に三人は目的の橋にまで辿り着いた。橋を渡りながら三人は夜隙への対策を話していた。
智「レッド・ドラゴンのエネルギーの熱さえも奪われるんじゃ攻め方もかなり限られてくるぞ」
刻「やっぱり搦め手みたいなのを使った方がいいかしら?」
衆「必要にもなるだろうが、確実なのは隙を作る事だろうな。そういう意味じゃ刻乃の捻くれた嫌味は抜群の効果を生むんじゃないか?」
刻「あんたって人へのフォローがいちいち下手よね」
衆「さっきも言ったが俺だって完璧じゃない。そこんとこ理解した上で鼻と口を塞いでくれ」
刻「それ私にも言うの?てゆーか目を瞑るだけで充分でしょ?」
衆「うるさい、鼻と口を塞げ」
静まり返る真夜中の橋に二人の声はよく響いた。
智「にしても結構冷えるな。湖の上だからか?」
刻「変ね。こんな時間だからってここまで冷える事は無い筈だけど」
あまりの寒さに刻乃は自分の体をさすった。次の瞬間、橋の表面が三人のいる中央付近から徐々に凍りだしてきた事に三人は気付いた。
刻「ね、ねぇあれ!」
衆「まさか!?」
三人の目の前にゴーストが橋の裏側から這い出てきた。ゴーストは橋の凍りついた部分に更に触れ続けた。すると橋はゴーストが触れている部分からヒビが入り崩れ始めた。
衆「まずい、逃げろ!」
三人は大急ぎで駆け出したが、凍りつきによる崩壊のスピードの方が速かった。三人の走る地面も急速に凍りそして脆く崩れ去っていった。
智・衆・刻「!!」
三人は崩壊する橋諸共、湖に落ちていった。
衆「ぷはっ、おい!大丈夫か二人共!?」
刻「ええ!」
智「なんとか!」
互いの無事に三人は一安心した。
夜「夜のダイビングは楽しかったか?」
崩れ残った橋からバイクに跨がる夜隙が下を見下ろし叫んだ。
智「あいつ、なんて無茶苦茶を」
三人の有り様を眺めながら夜隙はニタニタとほくそ笑んでいた。
夜 (このあたりが丁度良いかな。良いもん見せてやるよ)
衆治達は自分達が浮かぶ湖の周囲を警戒した。
衆「二人共注意しろ!この状況でゴーストに凍りづけにされたら終わりだぞ」
刻「ええ、さっきから見渡してるわよ。でもどこにも……」
智「し、衆治、あれなんだ?」
智琉が指差した五十メートル程先には水の上に浮かぶ黒い物体がいた。黒い体に頭部に獣の様な耳、尻に細い尻尾が付いた人の形をしていた。それを見るなり刻乃の顔色が青ざめていった。
智「どうしたんだ刻乃?」
刻「……ダ、ダークネス……」
衆「ダークネスって、まさかあれが!?」
夜隙は不敵に笑いながら指を鳴らした。
夜「どかん♪」
その瞬間、ダークネスを中心に巨大な爆発が湖に轟いた。爆発の勢いにより湖の水が津波の様に周囲に広がり、その水の壁は三人にも襲い掛かって来た。
衆「は、鼻と口を塞げ!!」
衝撃に備え呼吸を止めた三人を、波はいとも簡単に押し飛ばし突き進んでいった。
夜「さーて、仕上げといくか」
波の勢いで岸に打ち上げられた智琉は目を覚まし立ち上がり、周囲を見回した。
智「おーい、衆治、刻乃」
すると岸づたいに歩いて来る衆治の姿が目に映った。
衆「こっちだ智琉」
智「良かった、無事だったか」
衆「まあな。刻乃はどこだ?」
智「まだ見てない。急いで探さないと……」
その時、智琉は違和感を感じポケットに手を入れた。
衆「どうした?」
ポケットから取り出された智琉の手には粉々に砕かれた刻乃の人形があった。
衆「なっ……!」
悪い予感がした二人が急いで刻乃の行方を探そうとした時、二人の背後から声が聞こえた。
夜「そんなに慌てて、探し物か?」
振り返ると夜隙が佇んでおり、その傍らには刻乃が倒れていた。
智「刻乃!」
夜「おっと動くなよ。この嬢ちゃんの事が心配ならな」
夜隙は刻乃の体にゴーストが手を添えるのを見せて脅した。
衆「卑怯な真似を」
夜「卑怯に甘んじんのも時には必要なんだよ。こんな風にな」
その瞬間、夜隙はゴーストに刻乃の足首を一瞬だけ触らせた。ゴーストに触れられた部分は僅かではあるが音を立てて凍り付いた。
刻「きゃああっ……あ……」
刻乃は蹲りながら足を抑えていた。
夜「このままなら精々凍傷で済むだろうが、これ以上こいつで触れ続けるとどうなるかな?」
続く
《UC紹介》
ゴースト&ダークネス 身長1.6m
持ち主:爽沼 夜隙
能力:二種類の形態に交互に変化する事で有する能力も変わってくる。ゴースト状態の時は手で触れた物体の熱を急速に奪いその物体を凍りつかせてしまう。奪った熱は体内に蓄積され一定以上にまで溜まるとダークネスに形態変化する。ダークネス状態になると溜め込んだ熱を破壊の力に変換して放出させる形で大爆発を起こす。爆発後は再びゴースト状態に姿を戻す。




