9-1話
智琉達からそう遠くない沿岸に、高身長の大人の男の姿が見えた。それ以外に人影は見当たらなかった。
刻「あいつが夜隙よ」
衆「奴がか。さてどうするか」
夜隙を前に三人は攻めあぐねていた。
智「あいつのアンノウンに近づくのは危険なんだよな。俺のレッド・ドラゴンなら離れた位置から攻撃出来るぞ」
衆「そうだな。だが奴が普通の不意打ちを仕掛けて喰らってくれるかは分からない。俺と刻乃が奴の気を引くから智琉は隠れて注意散漫になった奴に攻撃を当ててくれ」
智「分かった」
衆治と刻乃は物陰から夜隙に近づき智琉はその場に留まった。夜隙に近づいた二人は一旦身を隠して気を伺った。
衆 (タイミングを慎重に計らないと……)
刻「夜隙!」
そんな衆治の考えとは裏腹に刻乃は夜隙に対し堂々と姿を現し声をあげた。
夜「んお、お前かあ。こんな所で会うなんて奇遇……って訳でもねー様だが?」
衆治も物陰から出て来て刻乃の肩を掴んだ。
衆「おい、何考えてんだ?」
刻「ごめんなさい。でも、どうしても我慢出来なくて……」
その言葉に衆治はそれ以上刻乃を責める気が起きなかった。
夜「えっと、お前何て名前だっけ?聞いてもピンとこねーと思うけど」
刻「刻乃よ」
夜「……やっぱピンとこねーわ。で、そっちの男は彼氏か?いや、そんな感じでもねーな。とりあえずはお前の味方みたいだが」
衆「その通りだ。俺はお前を倒す為に刻乃に協力してるだけだ」
夜「協力?その女に協力!それはそれはねぇ」
二人の実情を知った夜隙は急に笑い出した。
刻「何がおかしいの?」
夜「お前が誰かと協力してるってだけで充分面白いだろ」
刻「?」
夜「お前の名前は知らなかったがお前自身の事はよく覚えてる。戦った相手の奴は全員覚えてるからな。あの村で戦った時の奴だなお前は。お前のアンノウンもよく覚えてるぞ。名は何てったっけかな?アンノウンの名前は耳にした筈なんだけどな、やっぱ名前を覚えんのは苦手だ。アレだよ、あのやじろべえみたいなやつ」
刻「それであってるけど、そんなに面白い?」
夜「あのやじろべえの能力も覚えてるぞ。自分の下方向にいるアンノウン全ての能力を弱めるんだよなあ。はっきり言ってお前のアンノウン、仲間を持てるアンノウンじゃねーよな?あぁ?」
刻「……うるさい」
夜「自分一人だけじゃ使い勝手が悪く、誰かと組めばより使い辛くなる能力のくせに持ち主は誰かとつるみたがる。その結果、大切な仲間を危険に追いやり最悪の結果を招く。あん時もそーだったろ、えーっと……お前の名前何だっけ?」
刻乃の憤慨しそうな気配を察し、衆治は刻乃の前に立ち夜隙を睨んだ。
衆「あんまりその不愉快な口を開くな。言いたい事があるならこいつで聞いてやる」
衆治はカードを手に具現化し戦闘の構えを見せた。
夜「そうかい、そいつは嬉しい。ま、気長に頼むぞ」
夜隙もまた、具現化したカードを自分の手に持った。二人は互いに自身のアンノウンを出現させた。
衆「UC"シザーハンズ"」
夜「UC"ゴースト&ダークネス"」
衆治と刻乃の前に現れたのは、灰色の体に二本の腕があり下半身に足は無く、三つの黒い目玉が体の表面を蠢きながらこちらを見てくる幽霊型のアンノウンだった。
夜「お前もこいつと同じ幽霊になってみるかあ?」
夜隙の操るゴーストがシザーハンズに向かって襲い掛かって来た。シザーハンズは掴み掛かって来るゴーストの腕を避けると、続けて触れようと伸ばされた腕も振り払い後方に避難した。
夜「俺のアンノウンの能力がどんなものかお前知ってんな?いや、そいつの仲間だってんならそりゃ聞いてる筈だもんな」
衆「お前のアンノウンの能力は割れてる。その手に触れなけりゃ何も怖くない」
夜「言ってくれんねえ。その言葉、後悔させてやるよ」
衆「だといいな」
衆治はシザーハンズを夜隙に向けて突撃させた。夜隙はゴーストで迎撃の構えを見せた。
夜「能力がバレてんだったら隠す必要もねえ。確実に触れてやる」
夜隙はゴーストの両腕を広げ向かって来るシザーハンズの行く手を塞ぎ、その手で掴み掛かって来た。しかし、シザーハンズの動きはゴーストの触れようとする手を紙一重で躱していき、いとも簡単にゴーストを通り越し夜隙へと向かって行った。
夜「な、何だよ今の!?」
シザーハンズの能力で動きがスローに見える衆治にとってゴーストの手を躱すのは容易な事だった。向かって来るシザーハンズから逃げる為、夜隙は反対側の湖の方へと足を伸ばした。
衆 (そっちに逃げれば水に足を取られお前の動きは鈍くなる。そうなったお前を仕留めるのは簡単だ)
逃げる夜隙の背中にシザーハンズがハサミを構えた時、その背後からゴーストが手を伸ばしながら襲い掛かって来た。しかしこれも衆治にとっては何の苦もなく避けれるものだった。衆治は迫り来るゴーストの手が触れない様シザーハンズの体を翻らせた。
衆 (いくら襲い掛かってこようとも、その手に触れなければ問題ない)
再びゴーストの攻撃が来る事を予想し衆治はシザーハンズで追撃を浴びせようとした。だがゴーストはシザーハンズに向かわず、そのまま夜隙の進む方向のにある湖の水面を手の平で叩いた。するとゴーストが叩いた部分から道の様に水面が凍り伸びていき、その上を夜隙は立って歩いたのだった。
衆「馬鹿な、あんな……」
刻「ゴーストの能力で水面の熱を奪って凍らせたのよ」
衆「だからってあんな一瞬で……」
面食らってる衆治に対し夜隙は湖上の氷の上に立ちながら言った。
夜「驚いてるみたいだが俺も驚いてる。あそこまでゴーストに触れられないでいた奴は初めてだからな。恐らくはそのアンノウンの能力が関係してんだろうが。そんなにまでして俺の邪魔をしたいか?」
衆「じゃあ何故お前はこの湖で暴れようとする?」
衆治の質問に夜隙は目を閉じて答えた。
夜「夢でな声がすんだよ」
衆「声?」
夜「夢の中でな、この場所での盛大な破壊を見せられんだよ。そりゃ綺麗でな。それをやってみせろなんて声が聞こえてくるんだよ。じゃあやる以外の選択肢なんか無いだろ?」
笑顔で問いかける夜隙に衆治は呆れる様な顏をした。
衆「頭の可笑しな奴にこれ以上の言葉は勿体ない。こいつでカタをつける」
夜「そりゃあ良い。そのアンノウンにもお前自身にも少し興味が湧いた、名前は何てんだ?いや、やっぱいいや。どうせ覚えらんないだろうし」
夜隙は衆治を見ながらニタニタと笑っていた。
続く
《人物紹介》
爽沼 夜隙
身長180m 24歳
嫌いなもの:香りのきつい香水




