8-4話
夜。旅館の中の大浴場からあがった衆治は浴衣に着替え自分達の部屋へ向かいながら考え事をしていた。刻乃も含めた三人での作戦会議では結局良い案は浮かばなかった。
衆(つまりは策無しの真っ向勝負の可能性が高いって訳だな。ま、そっちの方が俺は面白いと思うがな。)
衆治は自販機で炭酸飲料を買い、部屋の前まで着いた。
衆「智琉とも奴の攻略について話しておきたい所だが、戦いに備えるという意味じゃもう寝るのが得策だな」
衆治は部屋の戸を開け中に入り智琉を呼んだ。
衆「智琉、起きてるか。もうそろそろ寝た方が……」
智琉を呼んだ衆治の目には、窓際の椅子に座り難しい顔をしながら机を睨む智琉の姿が映った。
衆「何をしてんだ?」
智「ああ衆治。これなんだけど……」
衆「ん?」
智琉は旅館にあった四つの歪な形をした木製のパズルと向き合っていた。
衆「お前こんなもんやってたのか」
智「衆治知ってるのかこれ?」
衆「大体の旅館には置いてあるやつだろ。それにしてもよくそんなもんに熱中出来るな」
智「何だよその言い方。じゃあ衆治は出来るんだろうなあこれ?」
智琉はお手本のTの字を指差して言った。
衆「それくらい簡単だろ。まずこれをこうして、次にこれがこうなって……で、これが……こうで………………あれ?」
智「衆治」
衆「待て!何も言うな。これをこうするとここがこうなって……そして…………んん?」
智「なあ、衆治」
衆「ん?何だ?」
智「もしかするとこれはこうなるんじゃないか?」
衆「………………あー!成る程!で、これをこうすれば完成か。出来た!」
智「衆治も熱中してんじゃねーか」
衆「うるせー。で、次はどれ行く?」
智「これとか面白そうじゃね?」
衆「よし、次こそは俺一人で完成させるぞ」
智「俺にもちょっとはやらせてくれよ」
深夜二時。待ち合わせに指定していた場所で待っていた刻乃の前に現れた二人は、瞼が重く大きなあくびをしたりと明らかに眠たそうな状態だった。
刻「あんた達、ちゃんと休んだの?」
衆「いや、厳密に言えば一睡もしてない……」
刻「はぁ?何やってたの?」
衆「なかなかな強敵達と出くわしてな……」
刻「どういう意味?」
智「心配すんな、全員倒したから……」
刻「……あっそう」
刻乃はあまり深く聞かずにさっさと歩き始め、智琉と衆治もそれについて行った。
湖まで辿り着いた時、衆治は刻乃に問い掛けた。
衆「刻乃、確認だがお前のアンノウンは夜隙との戦いでは使わないのか?」
刻「念の為に既に湖の上空を飛ばせてるけど、シアター・ナイトメアの能力を使うタイミングは無いと思うわ」
衆「万が一の事もある。いつでも発動出来る様にはしといてくれ」
刻「あんた分かってんの?シアター・ナイトメアの能力は敵味方無作為に及ぶのよ。あんたのアンノウンも例外じゃないんだから」
衆「分かってる」
衆治の毅然とした態度に刻乃は少し疑問を抱いた。
衆 (もしシアター・ナイトメアの能力が刻乃の言う通りだとしても、俺ならあるいは……)
智「なあ刻乃、気になってたんだけど刻乃のは無いのか?」
唐突に智琉が質問を投げてきた。
刻「私のって何が?」
そう言われると智琉は刻乃から貰った木彫りの人形を取り出して見せた。
智「刻乃は昼間これを俺達にくれたが、刻乃の名前を込めた人形は無いのか?」
刻「まあ無くはないけど……」
刻乃は渋々気味に人形を一つ取り出した。
智「じゃあそれを俺に渡してくれ」
刻「べ、別にいいわよ。私のなんか持たなくても……」
人形を渡すのを渋る刻乃に、智琉は自分が持っていた衆治の人形を刻乃に差し出した。
智「俺が刻乃の人形を持つ。だから刻乃は衆治の人形を持っていてくれ。これでみんな平等だ」
思いもかけない言葉に刻乃は戸惑いながら衆治の方を向いた。
衆「良いと思うぞそれで。俺の安否確認は頼んだぞ」
刻乃は智琉の方に顔を戻すと自分の人形を渡し、智琉から衆治の人形を受け取った。その時、刻乃の顔に思わず笑みがこぼれた。
刻「ええ、任せなさい」
刻乃の心を妙に温かい気持ちが包んだが、刻乃はそれが少し心地良かった。
衆「それにしても結局まともな作戦は浮かばなかったな」
智「衆治だって人の事言えないだろ」
衆「だからせめてお前とだけでも旅館にいた時に話し合っておきたかったんだけどな」
智「時間が無くなったのはどっちかって言うと衆治が原因だろ。衆治がアレに熱中しなかったら出来たんじゃないか?」
衆「アレはちょっと予想外だったな。けど俺だってああいう事もある、完璧じゃない。俺のそういう部分には目を瞑ってくれ」
衆治の言葉通り智琉は両目を瞑った。
衆「ついでに耳も塞いでくれ」
智琉は両手で両耳を塞いだ。
衆「あと鼻と口も塞いでくれ」
智「いや鼻と口塞いだら息出来ないだろ!死んじまうわ!」
衆「耳塞げって言っただろ!聞こえてんじゃねーか!」
刻 (何なのこいつら?)
刻乃は二人の会話が馬鹿馬鹿しくも、どこか面白かった。その時、刻乃は視界の端に不審な人影が見えた。
刻「二人共静かに!身を隠して」
智琉と衆治は言われるがままに隠れると、刻乃に事態の確認をした。
衆「来たのか?」
刻「ええ、あそこ」
刻乃の指差した方向には一人の男が佇んでおり、二人もその姿を確認した。
智「あいつが夜隙……」
続く
《UC紹介》
シアター・ナイトメア 身長1.6m
持ち主:川縫 刻乃
能力:他のアンノウンの能力を抑制する能力を持つ。浮遊時に下方向に形成されるドーム内にいるアンノウンは敵味方を問わず時間経過により能力の効果が著しく弱体化する。




