8-1話
智「広いなあ!」
衆「だろ」
智琉と衆治は広大に広がる湖が見える場所に来ていた。
智「いや、本当に広いな」
衆「そりゃあこの湖は日本で一番大きい湖だからな。日本一は伊達じゃないって事だな」
智「まるで海みたいだ。海より広く見える」
衆「それは言い過ぎだ」
その湖の大きさに智琉は夢中になっていた。
智「なあ衆治、この湖の水ってしょっぱくはないんだよな?」
衆「だから海じゃねーよ」
智「じゃあこの水って飲めたりするのか?」
衆「ああ。てか近畿の人間が飲む水はほぼ全部この湖の水だぞ」
智「そうなのか!?」
思いも寄らない事実に智琉は驚愕した。
智「てことはこの湖って……」
衆「この辺り一帯の人達の貯水槽みたいなものだな」
智「へぇー、重要な湖なんだな」
衆「そのせいか、湖周辺の人達は他の近畿の人間と口喧嘩した場合にこの湖の事を盾にするらしいぞ。"湖の水止めるぞ!"ってな」
智「それを言う人にそんな権限あるのか?」
衆「ある訳ねーだろ」
智琉と衆治は湖のほとりを歩きながら他愛も無い会話を続けていた。しかし、智琉の心には未だ引っ掛かりが残っていた。その事を智琉は衆治に問い掛けた。
智「衆治、連中の事は警戒しなくていいのか?」
衆「連中って晴斗達の事か?」
智「ああ」
衆「別に警戒してない訳じゃないが、あいつらもそんなに大人数じゃないからな。この前みたいに刺客を向けるにしてもすぐには来ないんじゃないか?」
智「そうかな?」
衆「ほんの少しだけだが俺もあいつらと一緒にいたからな。奴らの動きの傾向は大まかに予想出来る」
智「そういやそうだったな」
智琉は自分の中にあった疑問を更に問い掛けた。
智「なあ衆治、晴斗ってどんな奴なんだ?」
衆「どんな奴ってか。まあなんて言うか、野心の強い男だな。歳は俺と似たぐらいだが、あの歳であんな強い野心とか野望を持ってる奴は会った事が無い。過去によっぽどな事があったとしか思えないくらいにはな」
智「野望ってどんな?まさか世界征服とか?」
衆「まあ、ある意味近いかもな」
智「え!?」
冗談半分で言った智琉はまさかの回答に戸惑った。
衆「あいつがやろうとしているのは、アンノウンの統括だ」
智「統括って、どうゆう事だ?」
衆「そのままの意味だ。この世界に今アンノウンを扱える者が何人いるのか正確な数字は分からないが、その全てのアンノウンを支配しまとめ上げる気でいるんだ、あいつは」
智「統括したアンノウンであいつは一体何を?」
衆「それは分からん。アンノウンの力で文字通り世界を征服するか、あるいは英雄もどきでも気取るのか」
智「……何かすげー突拍子も無い話を聞いてる気がするんだが、全てのアンノウンを支配するなんて事出来るのか?」
智琉の質問に衆治は僅かな時間、口を噤んでしまった。
衆「……あいつにどんな手段があってそんな事を企んでいるのかは分からない。が、俺は無理だと思う。全てのアンノウンを支配するなんて事」
智「!」
衆治のその言い方と表情がさっきよりも少しだけ険しくなっているのを智琉は感じた。
衆「人間一人が支配出来るのはUC一枚分だけだ。それ以上の力を求めるのは傲慢でしかない。そんな事を目論めば破滅するのは確実だ」
智琉にとって今の衆治は何かがおかしく感じた。
智「なんで衆治はそう思うんだ?」
衆「そうってのは?」
智「全てのアンノウンを支配する事が危険だとか、悪い事だとか……」
今まで智琉の方を向いて衆治は、急に智琉に背を向けてしまった。
衆「……俺も色々見てきたんだよ。見て学んだ、それだけだ」
智琉はその言葉に心壱との話を思い出した。あの孤児院を出て行ってからの一年間の衆治の出来事がこの衆治の考えに直結している事を智琉は確信した。
智「衆治、お前は……」
衆「静かに智琉。そっちに隠れろ」
智琉の言葉を遮る様に、衆治は智琉と共に木の陰に身を隠した。
智「どうしたんだ?」
衆「あれ」
衆治が指を差した先には一人の女の子が立っていた。見た目からして智琉達と同い年くらいであろう少女が湖の方を向いて空を見上げていた。
智「あの子がどうかしたのか?」
衆「あの女が見てる方向を見てみろ」
言われるがまま智琉は少女見てる空を見上げた。するとそこには、見慣れない異様な形をした物体が湖の上空を飛んでいた。
智「衆治、あれって!」
衆「間違いない。アンノウンだ」
ふっくらとした体にプロペラの付いた下半身、長く伸びた腕の様なものが横広く垂れ下がり、やじろべえの様な見た目をしたアンノウンが飛来する様子をその少女は見ていた。
智「あの子もあのアンノウンを見てるのか。自分の知らない存在に驚いて目が離せないって状況か」
衆「お前はそう思うか?」
智「え?」
次の瞬間、上空を飛んでいたアンノウンが猛スピードでその少女の所まで向かって来た。アンノウンは少女の目の前で止まったが、少女は一切驚く様子を見せなかった。
衆「やっぱりな」
するとそのアンノウンは少女が手にしていたカードにその姿を戻していった。
智「まさか!」
衆「あれはあの女のアンノウンだ」
二人は目の前の状況を整理した。
智「あの子は何だ?ひょっとして晴斗の仲間とか?」
衆「俺が晴斗達の所にいた時はあいつらの中にあんな奴はいなかった。が、今はどうか分からん」
智「晴斗と関係が無いとしても、安心は出来ないよな」
衆「そこんとこ確かめる必要あるな」
衆治達は木の陰から出てその少女に近寄った。
?「!」
少女は衆治達に気付くと警戒する表情を見せた。
?「あんた達何?一体誰?」
衆 (支離滅裂な質問からして晴斗の差し金じゃないみたいだが……)
こちらを睨んでくる少女の警戒心を解くため、衆治は慎重に言葉を選んだ。
衆「いや、別に怪しいもんじゃねーよ」
?「その台詞が如何にも怪しいんだけど」
衆「まあ……確かに」
?「見てたの今の?」
衆「見てたって?」
少女は軽くため息をして困った顔をした。
?「見てたんでしょ。だったら悪い事は言わないから忘れなさい。何も知らない人に教えられる程単純じゃないから」
衆 (アンノウンの事を言ってるのか。だったら仕掛けてみるか)
?「ほら、さっさと……」
衆「大丈夫だ。俺達に面倒な説明はしなくていいぞ」
そう言うと衆治は自分のカードを具現化させて見せた。それを見るなり少女は一歩退き警戒をより厳重にした。
衆 (不味ったか?)
三人の間に不穏な空気が流れた。
続く




