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6-1話




ワンテーブルホームを出発してから二日、智琉と衆治は見知らぬ町を歩いていた。

智「なあ衆治、俺達どこに向かってんだ?」

衆「別に今はどこに向かってるってのは無い。ただ歩いてるだけだから心配すんな」

智「じゃあ今は一体何の時間なんだよ?また保安局から手配されてる奴を捕まえて報酬を得るとか、そんな事はしないのか?」

衆「俺は戦闘狂じゃねーんだよ。誰か倒したらすぐまた誰かを倒すなんてのはしねーの」

智「なーんだ、意外だったな」

衆「お前は俺を何だと思ってんだ?」

衆治は右手の握り拳で智琉を軽く小突いた。智琉は衆治が右手に嵌めている穴あきグローブに目がいった。

智「衆治、そのグローブに描いてある模様って……」

衆「ん、これか?」

衆治の付けてるグローブの甲にはシザーハンズの右手のハサミと同じ形のハサミの模様と"Mutilate"という文字が刺繍されていた。

智「どこかに売ってたのか、それ?」

衆「いや、俺のオーダーメイドだ。かっこいいか?」

智「えっと……そうだな」

智琉は言葉を詰まらせながらそう答えた。歩きながら度々見える町の中にある看板や広告の"WAKAKUSA"の文字に智琉は興味を示した。

智「衆治と会った町でもよく見かけたけど、あの"わかくさ"ってのは一体……?」

衆「それも知らないのか?和歌草グループって言って日本中のほとんどの事業や公共機関を取り仕切る大企業の事だ。この国を代表する財閥、とも言われてるが」

智「そういや吉隆と戦ったあの建築現場にもその名前が大きく書いてたな。そういうあれだったのか、知らなかったな」

衆「幸せだな、お前は」

智「なんか馬鹿にしただろ?」

衆「いや、心からの感想だ……」

そう言いながら衆治は智琉から目線を外した。

衆「まあ一応一人いるんだけどな」

智「え、何が?」

衆「お前さっきまた誰か捕まえないのかって聞いたじゃないか。いるぞ。俺達の次の標的って言うか、ケリをつける相手ってのが」

衆治の言い方に智琉は若干の違和感を感じた。

智「ケリ?捕まえるのとは違うのか?」

衆「違う。保安局から手配されてる奴は捕まえて局に突き出せば終わりだ。だが俺が言っている奴は手配されていない奴だからな。捕まえるんじゃなく倒すんだ」

智「どういう事だ?そいつは一体?」

智琉の質問に衆治は淡々と話し出した。

衆「その男とは一ヶ月程前に出会った。そいつはある野望を抱いていて数人の仲間を率いていた。そして俺にも仲間の勧誘に来てな。だがそいつの野望ってのが俺にとっちゃ随分馬鹿げた話だったんだよ。だから断った。そしたら向こうの一人が逆上して襲い掛かって来たから返り討ちにして、それからそいつらとの敵対関係が始まった」

智「敵対って?」

衆「断ってからこの一ヶ月間に二回襲撃を受けた。そして二回とも俺が倒した。おそらくまたやって来ると思うぞ」

智「そいつの名は?」

衆「名前は……」

衆治が話の人物の名を言おうとした時、それを遮る様に声が衆治達に向けられた。

?「見つけたぞ、ターゲット」

声のする方を見ると二人の男がこちらに目線を向けていた。

?「衆治って奴はお前であってんだよな?」

片方の男が懐から写真を取り出し衆治の顔を見比べていた。

衆「そうだが、お前らは?」

封「名乗る様なもんでもない。ただの雇われ者だ。お前を抹殺しろだとよ」

衆「誰にだ?」

封「誰かを怒らせたり恨みを買ったりした覚えはないか?」

衆「…………晴斗(はると)か」

封「その通り」

刺客を送り込んだ正体に衆治は苦い顔をした。

智「晴斗って?」

衆「今話してただろ。階崎(かいざき)晴斗、俺をしつこく付け狙ってる奴らの元締めだ」

智「てことはあいつらは晴斗の仲間?」

衆「いや、雇われ者って言ってたから仲間って訳じゃないだろう。おそらく金さえ受け取れば何でもするっていう輩だ。そんな奴も珍しくなく」

衆治と話す智琉を見てもう一人の男が口を開いた。

達「なあ封駕(ふうが)、俺達のターゲットってあの衆治って奴だよな。じゃあよ、あいつと一緒にいる奴はどうすんだ?」

封「どうってか。さあどうしようか」

達「()るのか?」

封「その必要があるかは、あいつ次第だな」

封駕は智琉の事を指差して言った。

達「おい、衆治じゃない(ほう)!」

智「ん、俺か?」

衆「そりゃそうだろ」

達「俺の名前は達八(たつや)だ。お前は?」

智「智琉だ」

達「智琉か。俺達のターゲットはそこの衆治って奴だ。悪い事は言わねえ、こっから立ち去れ。そうすりゃお前には何もしねえからよ」

達八の忠告に重ねる様に衆治も智琉に言った。

衆「智琉、現時点でお前は晴斗達とは何の関係も無い。ここでお前が逃げても俺はお前を責めない。好きにしろ」

衆治の口から出た言葉は智琉にとって意外なものだった。智琉はほんの一瞬迷ったが、弥結との約束を思い出し衆治に答えた。

智「気遣いは有り難い。けど、俺はここに残る。俺に出来る限りの力でお前を守る、それが約束だ」

衆「そんな約束したっけか?」

智「こっちの話だ、気にしなくていい」

衆治は智琉の言葉に疑問を抱きつつも、その自信を頼もしく感じた。

達「封駕、どうやらあいつ残るみたいだぞ」

封「みたいだな」

達「てことはあいつもターゲットでいいんだよな?」

封「そうだ」

達「あいつも殺りゃあそれだけ金も出るんだよな?」

封「ああそうだ」

封駕に確認をとった達八は再び智琉に対して叫んだ。

達「おい!智琉って言ったな。たった今からお前も俺達のターゲットだ。充分覚悟しとけよ」

達八は智琉の目を睨んで笑いながらそう言った。

衆「どうやらお前も狙われる身になったみたいだな」

智「ああ。次の標的の話をしてたらこっちが標的(ターゲット)にされた訳だ」

衆「ミイラ取りがどうのってことわざあったっけな」

智琉と衆治はお互いに軽口を飛ばし合うが、二人の覚悟はとっくに出来ていた。




続く



《世界観紹介》

和歌草グループ:日本の経済を席巻する財閥であり、その影響力は多岐に渡る。和歌草わかくさ玄僧げんぞうという老人が総帥を務める。


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