5-4話
翌日。全員で朝食をとった後、智琉は庭で薪割りをしていた。ここでお世話になった礼として何か役立てる事がしたいという考えのもとでの行動である。
心「いやあ悪いね、薪割りなんかやってもらっちゃって。多くはないけど必要なんだよね」
智「大丈夫ですよ。薪割りはしょっちゅうやってましたから」
心「頼もしいね。僕は少し出掛けてくるから残りの薪もお願いして良いかい?」
智「良いですよ。任せて下さい」
そう言うと心壱は孤児院の敷地外に出て行った。心壱の姿を見届けると智琉は再び斧を振り上げ薪を割っていった。
智 (そういや衆治の奴どこ行ったんだろう?朝飯の後から見なくなったけど)
?「あの……」
突然、智琉の背後から声がした。振り返るとそこには弥結が立っていた。
智「えっと、弥結さん……だっけ。どうした?」
弥「その……名前……」
智「あ、そうか。まだ自己紹介してなかったっけ。俺の名前は智琉だよ」
弥「智琉さん……ですね。あと……私の名前は……呼び捨てで……大丈夫です。そっちの方が……慣れてます」
智「そう?じゃあ……弥結」
弥「……はい」
智 (少しは打ち解けてくれたと見て良いのかな?)
智琉は弥結との間の壁が少し無くなった事を願った。
弥「あの、智琉さん」
智「ん、何?」
弥「衆治の事、守ってあげて下さい」
智「え?」
突然の弥結の言葉に智琉は整理が追いつかなかった。
智「急にどうしたんだ?」
弥「衆治は、危ない目によく会うと思うんです。衆治が持ってる、その、不思議な力……。アンノウンって、言った様な……」
智「アンノウンを知ってるのか?」
弥「小さい時によく、私だけにって、見せてくれました。みんなには秘密だって。でも衆治は、アンノウンは危険なものだって、言ってました。あの厄災が起こったのも、アンノウンが原因だって。でも、そんな危険な中に、衆治はいつも、飛び込んで行ってるみたいで」
智「弥結はアンノウンを持ってるのか?」
弥「いいえ、私は持ってません。私には何も出来ません。だから智琉さん、あなたにお願いします。あなたも、衆治と同じ力を、持ってるんですよね」
智「一応そうなんだけど。守ってくれと言われても俺は衆治に比べて経験も浅いし、守るより守ってもらう事の方が多いかもしれないけど」
弱気な事を言う智琉の目に弥結の懇願する様な表情が刺さった。
智「……まあ、俺に出来る事なら精一杯やるよ。だから心配しないで」
弥「ありがとうございます」
智琉の返事に弥結は満面の笑みを浮かべた。
智「弥結ってさ、ひょっとして衆治の事……」
弥「何ですか?」
智「……ううん、何でもない(聞くまでも無いか)」
弥結は不思議そうに首を傾げた。
智「そういや衆治ってどこにいるか知ってる?」
弥「多分、お墓に行ってると思います」
智「お墓?」
弥「ここよりももう少し、奥に行くとあるんです。災害で死んでしまった、私達の家族や、それ以外の人達を悼んで作られた墓碑が。案内しますか?」
智「いや、今日の所はいいかな」
弥「分かりました。じゃあ私は、子供達の面倒を見てきます」
智「うん、分かった」
弥結が家に戻ると智琉は再び作業を再開した。
孤児院から少し離れた小高い丘に大きな木が一本生えていた。その木から離れた向かいにその墓碑はあった。墓には新鮮な花が置かれており、その前に衆治が座っていた。衆治は泣くでもなく語るでもなく、ただじっとその墓を見つめていた。
心「居ると思ったよ」
衆治が振り向くと心壱がこちらに歩み寄って来ていた。
心「君は帰って来るといつもここに来てくれるね」
衆「これは俺の償いです」
心「どういう事だい?」
衆「俺が孤児院を出て行った時、この墓に誓ったんです。未知の厄災の原因を突き止め俺がこの手で罰を与えると。俺にはそれが出来ると思ってたんです。でも違いました。いろんな奴と会い、いろんな奴と戦っていく内に気づいたんです。自分の無力さや愚かさを。現実を知っていく度に自分には出来ない事の多さを知って。そして気付いたらこの墓に誓った事はとっくに諦めてました。今俺に出来るのは、この墓の前での謝罪、それだけなんです」
心壱は衆治の話しを黙って最後まで聞いた。
心「衆治くん、君が出て行こうとした時、僕は怒ったよね。それはね、君が心配だからだよ。君だけじゃない、あの孤児院で育ったみんなの事が大切だ。何故なら君達はみんな僕の家族だからだ。家族が傷付いたりいなくなったりしてしまう悲しみはもう繰り返したくない。その願いは死んだ人達も同じ筈だよ。みんなも君が危ない目にあって欲しくない。だから、誰も君を責めてなんていないよ」
心壱の真っ直ぐな笑顔から出たその言葉は衆治の心を慰めるのに充分だった。
衆「ありがとうございます。大分気が楽になりました」
心「なら良かった。そろそろ戻ろうか」
衆「そうですね」
二人は振り返り、墓碑を後にした。
夕暮れ時。日が沈み掛けの空の下、衆治と心壱は孤児院に着いた。二人が帰って来た時、家の中は騒がしかった。二人の子供が大喧嘩を繰り広げ、弥結がその間に入って仲裁をしていた。その周りを他の子供達と智琉が手をこまねいて見ていた。
心「どうしたの一体?」
弥「心壱さん、この子達がおもちゃの取り合いで喧嘩して、それでこんな……」
パニック寸前の弥結に対して、心壱は冷静にその状況を分析した。そして弥結の代わりに心壱がその子達の間に入って行った。
心「君達、喧嘩はそのくらいにして。今から僕が面白いものを見せてあげるから」
そう言うと心壱は胸ポケットからカードを一枚取り出した。
智 (あれってもしかして……)
心壱はそのカードからアンノウンを出現させた。
心「UC"スマイリー"」
ピエロの様な風貌にニッコリと笑った笑顔の仮面を付けた小人が四人、子供達の前に現れた。スマイリー達は陽気に踊り走り回ったりと愉快にはしゃぎ始めた。その光景に子供達の視線は釘付けになり、いつの間にか喧嘩は無くなっていた。
心「僕の手元にあるカードの中じゃこれが結構面白いんだよね」
弥「心壱さんて、アンノウンを持ってたんですか?」
心「えっ!何で弥結くんがアンノウンの事知ってるの?」
衆「あ、やば」
智 (なんか色々繋がった)
弥「私は衆治からアンノウンの事を教えてもらったんです。小さい頃から」
心「どういう事衆治くん、君は弥結くんに教えてたの?」
衆「えっと、それはその……」
弥「ねえ衆治、どうして心壱さんがアンノウンを出してるの?衆治は知ってたの?」
衆「いやまあ、だから……」
智 (修羅場?)
スマイリーに夢中な子供達とそれが原因で起こった修羅場の様なものとで、部屋の中は先程以上に騒がしさを増した。
結論から言うと、心壱が出したアンノウンによって起きた出来事はあらゆる物事を丸く解決させた。衆治以外にもアンノウンを認知する存在が身近にいた事に心壱も弥結も心強さを感じた。それに伴い、自身もアンノウンを所持している智琉も三人の輪に入る事が一層容易となり、智琉にとってもこの孤児院での居心地の良い場所となった。衆治と心壱は弥結が智琉と親しく話せているのを見て驚きつつ、喜ばしい事として見ていた。その日の夕食は昨日以上に楽しく賑やかなものとなった。
翌朝。早い時間に智琉と衆治は孤児院を出る事を決めた。まだ子供達が眠っている中、心壱と弥結が見送りをした。
心「とても楽しかったよ。また来ておくれ」
智「はい、必ず」
弥「衆治も怪我しないでね」
衆「分かってるよ」
二人は孤児院に背を向け最寄りのバス停まで歩みを進めた。衆治は智琉の笑い顔が妙に気になった。
衆「何笑ってんだ?」
智「いや。また二つも目標が増えたからな」
衆「?」
智琉の言う事がこの時の衆治には分からないままであった。
続く
《人物紹介》
満岐 弥結
身長148cm 15歳
嫌いなもの:脚が六本の昆虫 (六本以外は平気)
《UC紹介》
スマイリー 身長0.4m×四体
持ち主:無し
能力:不明




