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5-3話




その日の夜。智琉と衆治はワンテーブルホームの住人達と夕食を食べていた。心壱と弥結以外には九〜十二歳程の子供達が六人いた。男の子と女の子がそれぞれ三人である。

ダイニングにある大きなテーブルで全員で食事をしていた。合計で十人という大人数での食事であるが、テーブルの大きさのせいか若干少なくも見える。この孤児院が最初の頃はきっともっと賑やかな食事風景だったのだろうと智琉は感じた。

弥結は小さい子達におかずを取り分けたり、食べさせるのを手伝ってあげたりとお姉さんらしく振舞っていたが、智琉と目が合いそうになる度に目線を(そら)すなど余所余所しい行動をとってしまっていた。智琉はその状況に少々困惑しつつ、弥結とも親しくなれる方法を考えていた。




夜もすっかり遅くなり就寝時間が訪れた。

衆「智琉、もう寝る時間だぞ」

智「寝るって俺達はどこで寝るんだ?」

衆「客人用の部屋が元々二部屋あるから一部屋ずつ借りてそこで寝るぞ」

智「そうか。そういや心壱さん達はどうしてんだ?」

衆「心壱さんには専用の部屋があるからそこで寝るが、子供達はみんな同じ部屋で一緒に寝る。それも昔からだ」

衆「なんだ、ワンテーブルホームっていうくらいだから寝る時もみんなで一つのテーブルの上でって訳じゃないのか」

智琉は冗談混じりにそう語ったが、それを聞いた衆治の顔は非常に曇っていた。

智「何だよその表情?」

衆「その昔な、今お前が言った事と全く同じ事を心壱さんに言った奴がこの孤児院にいたよ。俺は心壱さんの事を少し真面目過ぎるって言ったよな。あの人にとってはテーブルの上で横になって寝るなんて行儀悪い事が冗談でも許せなかったらしくてな。その時心壱さん本気で怒ったんだよ、そりゃもうすごい剣幕で」

智「そ、そうなのか?」

衆「あの場にいた子供達全員のトラウマだよ。それ以来、お前が今言った言葉はこの孤児院では禁句とされている。くれぐれも気を付けろよ」

智「は……はい」

その後智琉は用意された部屋へ入ると大人しく布団に潜り速やかな安眠を心がけた。




真夜中。智琉は自分の(もよお)した尿意で目が覚めた。

智「あートイレ行きたい、トイレどこだっけ?」

智琉は布団から起き上がり、うろ覚えの記憶でトイレに辿り着き用を済ませた。トイレから出てきた智琉の目の端に光が差し込んだ。その光は廊下の先の扉の窓、ダイニングルームからの光だった。智琉は扉に近づきそっと部屋の中を覗き込んだ。部屋には心壱が椅子に座りながら沢山の書類整理の作業をしていた。

智「心壱さん」

智琉は思わず心壱に声を掛けた。

心「ん、智琉くん!どうしたんだいこんな時間に?」

智「あ、いえ。トイレに行きたくて目が覚めて、そしたら明かりがついてたんでちょっと気になって」

心「そうか」

智「何してるんですか?」

心「孤児院の管理者としての仕事だよ。子供達が遊ぶ為のボールがいくつか無くなったからその注文と、他にも色々」

智「大変ですね」

心「いやいや、最初の頃に比べればここの住人の人数も少なくなったし、それに比例して必要な書類も大分減ったよ。それが少し寂しくもあるけど」

智琉はテーブルに近づき心壱の向かいの席に座った。

智「どうしてこの部屋でやるんですか?心壱さん自分の部屋があるって聞きましたけど?」

心「ここだと一息入れる為のお茶が入れやすいっていうのもあるけど、一番の理由はここが僕にとってとても落ち着ける場所だからさ。子供達との沢山の思い出があるこの空間がとても安心できるんだ」

心壱はキッチンに行き棚から湯呑み取って戻って来ると、テーブルに置いてあった急須の中のお茶を入れ智琉に差し出した。

智「ありがとうございます」

湯気が立ち上るその茶は智琉の体を芯から温めた。茶を味わっている智琉に対し心壱はとある質問を投げ掛けた。

心「智琉くん、君はアンノウンを知っているね?」

智「え、はい。知ってます」

心壱の口からアンノウンの事が出てきた事に智琉は少々動揺した。

心「だよね。衆治くんが一緒に連れて来たって事はそうなんだとは思ってたよ」

智「心壱さんは知ってるんですか、アンノウンを?」

心「うん。僕も自分のアンノウンを持ってるからね。でも僕にとってアンノウンってのはあまりいい事が無いんだよね。衆治くんの家出もアンノウンが理由みたいなものだし」

智「え、そうなんですか?」

心壱は茶を一口飲むと、一拍間を置き語り出した。

心「正確に言うと一番の理由は僕が衆治くんの求める答えを言わなかった事だな。彼らがここに来た理由を」

智「……どういう意味です?」

心「この孤児院はね、五年前の厄災によって家族を無くした子達が連れて来られた場所なんだ。僕達の様にアンノウンを持つ者はあの厄災をアンノウンが原因だと知っている。だけどアンノウンを持たない者、その存在を知らない者にはあの厄災はただただ未知であり恐怖の対象でしか無い。ここに連れて来られた時、子供達はみな自分の理不尽な運命に疑問を抱いた。そして僕に問いたんだ、何故こんな事が起きたんだと」

智「そんな事が……」

心「アンノウンの事を説明するにもしようがなかった。だから僕は曖昧な言葉であの子達を誤魔化した。だけどそれが衆治くんには良くなかった。彼は僕の嘘を簡単に見破り何度も追求してきた。そしてある日、彼はここを出て行った」

智「どうして衆治は心壱さんの嘘が分かったんですか?」

心「僕ももっと早く気付くべきだった。彼は未知の厄災以前から自分のアンノウン、シザーハンズを持っていたんだと。僕がそれに気付いたのはそれからかなり後になってからだった」

智「だから衆治には心壱さんの言う事が……」

心「衆治くんからすれば僕の言葉なんて子供騙しにもならなかったんだろうね」

心壱は少し俯いた後、顔を上げ智琉に言った。

心「衆治くんはね、ここを出て行ってから二年半くらいした後に戻って来たんだ。だけど、帰って来た時の衆治くんは信じられないくらい傷付いていたんだ。体は勿論、精神も非常に疲弊していた。僕は彼に何があったのかを知りたかったが、彼は未だに話してはくれてない。その時から衆治くんは今みたいに落ち着いた性格に変わっていったんだ」

智「何があったか聞かなかったんですか?」

心「気にはなるけど、僕が踏み込んで良い領域ではないかもしれないと思うと聞けないんだ。だから智琉くん、もし僕の知らない衆治くんに関する事が分かったらその時は僕にも教えてほしいんだ。強制はしない、君が教えても良いと判断した事だけ教えてくれればそれで良い」

智「分かりました。その時が来たらお伝えします」

心「ありがとう。よろしく」

二人は互いにてを差し出し握手を交わした。

心「随分と長話しちゃったね、ごめん。ゆっくり休んでね」

智「はい、おやすみなさい」

智琉はダイニングルームを後にし、部屋に戻ると再び布団に潜り眠りについた。




続く


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