5-2話
とあるバス停で下車した智琉と衆治は、目的の場所であるワンテーブルホームを目指して歩いていた。歩くにつれて周りの風景から住居などの建物がどんどんその数を減らしていき、今二人の周りには建造物は一切見当たらない。
智「随分と辺鄙なとこまで行くんだな」
衆「言われてみればそうかもな。けどまあ、家族を無くした子供にとってこういう何も無い場所ってのは、心を落ち着かせられるからなあ。そう言う意味じゃここは最適だ」
智「俺もどっちかと言うと騒がしい都会よりも、こういった静かなとこの方が性に合ってる気がする。それにしてもこの辺で山が見えるなんて思わなかったな」
智琉は目に映る一つの大きな山を指差しながら言った。
衆「あの山は元からあった山じゃないけどな」
智「え?どうゆう事?」
衆「未知の厄災が引き起こした産物の一つだ」
智「それって……」
衆「厄災によって引き起こされた地盤の歪みが重なってあんなでかい山が出来たんだ。この辺じゃあの山を裂晶山なんて名で呼んでるぞ」
智「そうなのか……」
衆「別に珍しいもんじゃない。どこに行っても厄災の産物は広がってるもんだ」
智「…………」
バス停を降りてから歩いて二十分、二人の目の前に大きな一軒家が見えてきた。
衆「見えたぞ。あれだ」
智「やっと着いたか」
二人は"ONE TABLE HOME"と彫られた入り口のアーチをくぐり、玄関まで辿り着いた。衆治は扉の横にあるチャイムを押した。
智「いるかな?」
衆「この時間はいる筈だ」
その時、扉が開き一人の男が出て来た。高身長で眼鏡を掛け、優しそうな表情をした男性だった。
心「やあ衆治くん、おかえり」
衆「ご無沙汰してます心壱さん」
心「確かに。それで、後ろの君は衆治くんの友達かな?」
心壱はスッと智琉の方に目を向けた。
智「えっと、初めまして、智琉と言います。衆治とは友達……って程じゃないですけど、まあそれに近いものかと」
心「智琉くんだね。とりあえず入りなさい、お茶を出すよ」
心壱に招かれ二人は家の中へ入って行った。玄関から廊下を抜けダイニングルームの様な場所に案内された。
心「そこに腰掛けておいてくれ。今湯を沸かすから」
部屋の真ん中には大きなテーブルと沢山の椅子があり、テーブルの中央のカゴには袋詰めの煎餅が入っていた。智琉と衆治は適当に椅子に腰掛け茶を待った。
智「随分でかいテーブルだな」
衆「この孤児院では何をするにも皆が同じ一つテーブルでって決まりでな、食事も勉強もそうだった。多分今もそうじゃないか」
智「そういやまだ心壱さん以外誰も見てないけど、子供達はいるのか?」
衆「この時間は裏庭で遊んでんじゃないか。隣の部屋に行けば窓から見えるぞ」
衆治が隣の部屋への扉を指差した時、その扉が開き中から一人の女の子が入って来た。
?「心壱さん、外の物置にあるボールって全部で…………あっ!」
見た目からして女の子の年齢は智琉達よりほんの少し下の様に見える。その女の子は二人の姿を見るなり、驚いた顔をして言葉を詰まらせた。
衆「弥結」
弥「えっと…………衆……」
弥結と呼ばれるその子の喋り方が急にしどろもどろになった。
心「ああ弥結くん、少し外で待っていてくれるかな?なるべくすぐに行くから」
心壱にそう言われると弥結は小さく頷きその場を後にした。
智「衆治、あの子は?」
衆「弥結って言って、この孤児院の住人の一人だ。歳は俺と同じ」
智「(て事は俺とも同い年か、歳下に見えたな)なんか俺達の方を見て焦ってたけど」
衆「あいつは極度の人見知りだからな。お前の存在がプレッシャーなんだろ」
智「ああ、俺のせいだったのか」
心「ごめんね、性格とても良い子なんだ。ここの子供達の中じゃ今は彼女が一番の年長者でね、下の子達の面倒はとても良く見てくれてるんだけど。この孤児院の人達以外の人にはどうも慣れないらしいんだ」
そう言いながら心壱は茶の入った湯呑みを三つお盆に載せて持って来た。
智「大丈夫です、気にしてませんから」
心「すまないね」
心壱は湯呑みを智琉と衆治にそれぞれ差し出すと自分も椅子に腰掛けた。
心「じゃあ改めて、僕の名前は心壱。この孤児院、ワンテーブルホームの管理人でありここの子達の保護者という事になるね。よろしく」
智「こちらこそ」
二人の挨拶の合間に衆治は茶を一口飲み、心壱に尋ねた。
衆「心壱さん、みんなは元気ですか?何か変わった事とか?」
心「そういうのは無いね。今ここにいる子達も弥結くんがほとんど見てくれているし、出て行った子達からも時々連絡が来るくらいであまり顔を見せに帰っては来ないなあ。その点衆治くん、君は割と頻繁に顔を見せに来てくれるから嬉しいよ」
衆「そりゃあそういう約束ですからね。それが無かったら俺も早々帰って来ないと思いますよ」
心「悲しい事言わないでほしいなあ」
智「衆治以外にもここを出て行った人達っているんですか?」
心「いるよ結構。と言っても彼らは充分に生きていけるくらい成長した後だからね。だけど衆治くんだけは違ってね、衆治くんがここを家出したのは聞いてないかい?」
衆「ちょっと心壱さん!」
智「はい、一度家出した事があるっていうのは聞きました」
心「僕はここを出て行くには最低でも十六歳になってからって決めてみんなに言っているんだ。なのに衆治くんと来たら十歳の時に出て行くなんて言い出してね。当然僕は反対したよ。それが原因で揉めて喧嘩別れする形でこの孤児院を出て行ったんだよ。ほんと一番の問題児だったよ衆治くんは」
衆「心壱さん!さっき弥結が呼んでたでしょう、早く行ってやったらどうですか!」
心「そうだね、ちょっと失礼するよ。すぐに戻って来るから」
衆治に促されるまま心壱は部屋から出て行った。
衆「はあー全く。お前も変な事に答えるな!」
智「いいじゃんか、面白いし」
二人は茶を一口飲み、テーブルの中央にあるカゴから煎餅の入った袋をそれぞれ一袋取った。
智「にしても衆治、十六歳からって事はお前まだ許されてない筈だよな、出て行くの」
衆「俺には関係ない、ちょっとした特別扱いだ」
衆治は袋を開け煎餅を一枚取り食べた。
智「心壱さんも大変だな、厄介な問題児を抱えて」
智琉は袋を一回叩いてから開け、砕けた煎餅の欠片を口に入れた。
衆「大きなお世話だ!」
衆治の以外な一面を知れた智琉は少しだけ得した気分を感じた。
続く
《人物紹介》
涼原 心壱
身長182cm 29歳
嫌いなもの:賞味期限表記の分かりづらい食品
《世界観紹介》
ワンテーブルホーム:未知の厄災によって身寄りをなくした子供達の為に保安局が創設した孤児院であり、その管理を任されたのが心壱である。かつては多くの孤児が住んでいたが、子供達の成長と共に孤児院に住む者の数も少なくなっていった。
裂晶山:厄災が引き起こした地盤の歪みによって形成された異質な山。標高は高く寒い季節は山頂部分に雪も現れる。




