3-4話
衆「次の攻撃を防ぎ切ってみろ。それが今のお前の課題だ」
衆治の言葉と共にシザーハンズは再び、レッド・ドラゴンの側面に回り込む動きをとった。狙いは勿論、テープで結ばれた木からの攻撃である。
智 (またあのスピードでの攻撃を繰り出されるのはまずい。だが逆に言えば、どこから攻撃が来るのかが分かるって事だ)
シザーハンズがテープのある木に着いた時、智琉はレッド・ドラゴンのエネルギー弾を木と木の間を目掛け集中砲火を行った。エネルギー弾は数発シザーハンズに直撃はしたが動きを止める事は叶わなかった。シザーハンズが木と木の間を抜けた時、その姿はレッド・ドラゴンが攻撃した場所の反対側にいた。そしてレッド・ドラゴンにはまた一つの傷が付けられていた。
智「があっ!」
智琉はレッド・ドラゴンから伝わる痛みに胸を押さえていた。だが、そんな智琉に衆治は容赦なく攻撃を続けた。衆治は即座にシザーハンズを、その場に一番近いテープの木のポイントまで移動させ、そこからレッド・ドラゴンに対し攻撃した。
智「くそっ!」
智琉はエネルギーを無数の棒状にしたものを作り、レッド・ドラゴンの周りに檻の様に縦に並べ防御した。しかし、その後もシザーハンズはテープのポイントから繰り出す攻撃を流れる様に俊敏に浴びせ続けた。その動きを智琉は捉える事は出来なかった。智琉に出来たのは、シザーハンズによって檻が折られるたびに、次の攻撃が来る前に瞬時に檻を再生する事だけだった。攻撃を数回当てたところでシザーハンズは動きを止めた。
衆「守りを固めるのは良いが、守るだけじゃこっちに傷は与えられないぞ」
智「ああ……そうだな……」
衆治の言葉に智琉は息を切らしながら返事をした。シザーハンズの猛攻によりレッド・ドラゴンが受けた痛みは精神を通じて智琉の体に伝わる。智琉の意識は今にも途切れてしまいそうだった。だが、智琉にはまだ秘策と呼べるものがあった。
智「たしかにお前のアンノウンのスピードには対処しきれない。いや、そのスピードはこの森の力があってのものだったよな。けどな、その力、俺だって利用出来るんだよなぁ」
衆「そりゃそうだ。CCの効果はその場にいる者全員に及ぼす。お前が使えるのも必然だ。だがな、そんな事をみすみす許す程、俺は寛容じゃないぞ」
智「そうだろうな、俺だってそうだ。けど、もう遅い。俺の攻撃準備は既に終わってるんだよ」
智琉は最初に周囲の木の陰に隠れる様に配置した数発のエネルギー弾を、レッド・ドラゴンが攻撃を受けている間にそこからテープが張ってある木に気付かれない様にゆっくりと移動させていた。あらゆる所に設置されたエネルギー弾の照準は今まさにシザーハンズに定まっている。
智「反撃開始だ」
その言葉と共に、智琉は設置していたエネルギー弾の全てをシザーハンズに向けて発射した。そのスピードは閉ざされた森の効果も加わり、智琉自身も想像だにしない速さで駆けていった。
智 (当たった!)
そのスピードに智琉は命中を確信した。しかし、智琉は自分の目を疑った。シザーハンズは自らに飛来するエネルギー弾を全てかわしたのだ。シザーハンズのかわす動作には一切の無駄が無く、迷いの無い洗練された動きだった。だが、シザーハンズのその動きはどこか異様なものがあった。
智「避けた……のか?」
衆「なかなかに虚をつく攻撃だな、一瞬焦ったぞ」
智琉はシザーハンズの回避に僅かな疑問を抱いた。
智 (何かおかしかった。いくらシザーハンズのスピードが速いって言っても、あの速度の弾を、それも全部避けるなんて事。そもそもあれを操作してるのは衆治だ。衆治自身があのスピードを読めないと避けるなんて動作は不可能だ。でも確かにあいつは避けたんだ。まるで弾がどこに向かって来るか分かっていたみたいに…………!)
その時、智琉の頭に一つの答えが導かれた。
智 (あいつは分かっていたんだ、エネルギー弾がどこに飛んで来るかを。だからあの弾速でもかわす事が出来た。恐らくそれが衆治のアンノウンの能力……。だとすればどうする。未来を予知出来る様な相手にどう戦えばいい?)
一人悩んでいる智琉に衆治は言った。
衆「お前が次にどんな攻撃をしてくるかは知らないが、もう無意味だ。お前が放つ攻撃くらい俺には容易に対処出来る。それに……」
智「違う」
衆「ん?」
衆治の言葉を智琉が遮った。
智「お前のアンノウン、シザーハンズの能力は未来を予知する能力なんかじゃない」
衆「何を言っている?」
智「未来が予知出来るんなら、この攻撃は通ってない筈だ」
攻撃という智琉の言葉に衆治は身構えた。それと共に衆治はシザーハンズのハサミに違和感を覚えた。ハサミの刃に見覚えの無い小さな異物が付着していた。
智「気付いたか?それはレッド・ドラゴンのエネルギーの粒だ。さっきレッド・ドラゴンを攻撃した時に防御の檻を何本が斬っただろ。その時に付着させた」
衆「それで?この小さいのが何になる?」
智「レッド・ドラゴンの能力は自身のエネルギーをあらゆる物質に変えられる。つまりこんな事も出来る」
その瞬間、ハサミに付着していたエネルギーが大きく広がりハサミを完全に包み込んでしまった。と同時にシザーハンズの右手のハサミが大きな音を立てて地面にめり込んだ。
衆「な、何だ一体!?」
智「シザーハンズのハサミは確かによく斬れる。だが、ハサミ自体を包み込めば斬る事は不可能だ。そしてもう一つ、ハサミに纏ったエネルギーの重さを最大限までに重くした。シザーハンズの動きを完全に止める為にな」
衆治はシザーハンズをその場から移動させようとしたが、纏わり付いたエネルギーの重量のせいで全く動けなかった。
衆「一ミリも動く気配が無いな」
智「これでお前のアンノウンは回避の行動はとれない。おれの勝ちって事で良いな?」
勝利を確信した智琉だったが、衆治の顔は未だ涼しい表情をしていた。
衆「言った筈だ、もう無意味だと」
智「……何がだよ?」
衆「お前の言った通り、シザーハンズの能力は未来予知なんて高級なものじゃない。だがな、俺は今までに何人ものアンノウンを持つ者と戦ってきた。その経験からある程度戦いの流れは予測出来るんだよ。これは俺個人の技術だ」
智「だから何の……」
智琉が言いかけた時、智琉の周りの木が三本、妙な音を立てていた。よく見ると三本の木の根元付近には傷が付いていた。
衆「俺もただ攻撃してた訳じゃない。攻撃の合間に少しずつ傷を掘ってたんだ。浅過ぎず深過ぎない程度の傷を」
次の瞬間、三本の木が智琉の方へと倒れてきた。木は三本とも智琉に当たりはしなかった。木は三角形を描く様にそれぞれ倒れその中に智琉を閉じ込める形となった。
衆「シザーハンズはもう動かなくていい。動かなくてもお前を倒せる」
智琉の後方でまた、木のきしむ音がした。衆治が傷を付けた最後の一本が倒れようとしていた。智琉は逃げようと考えたが、逃げ道はどこにも無かった。
衆「お前の負けだ」
最後の木が智琉目掛けて倒れ込んできた。
智琉が目を開けると、そこは森ではなく元いたビルの屋上だった。
徹「よお、おかえり」
智琉の顔を覗き込む様にして徹が徹が語りかけた。その後ろに衆治が立っていた。
智「俺、どうなったんだ?」
衆「木が倒れる寸前に俺がCCを戻したんだ。だからお前は無傷って訳だ」
智「どうして……どうして俺を倒さなかったんだ?」
衆「勘違いしてるみたいだから言っとくが、俺は誰彼構わず倒してる訳じゃない。アンノウンの力を馬鹿みたいな事に使う奴にしか俺はハサミを向けない。分かったか?」
智「……ああ、なんとなく」
衆「そうか、ならそれでいい」
衆治は自分が座っていたソファに戻ろうとした。
智「衆治」
衆「ん?」
智「俺に教えてくれ、お前が知ってるアンノウンの事」
衆「……別に良いが、教えるのは知識だ。経験は自分で積め」
智琉と衆治がこれから先どんな戦いに身を投じるのか、この時は誰にも分からなかった。
続く




