3-3話
衆治が頭上に掲げたカードを勢いよく振り下げた瞬間、シザーハンズがすごいスピードで智琉に向かっていった。
智 (速い!)
智琉は咄嗟にレッド・ドラゴンのエネルギーを今度は槍状に形作ると、出来た槍を四本シザーハンズに目掛けて放った。シザーハンズは向かってくる槍の二本を避けると、残りの二本をハサミで弾き飛ばした。
智 (まずい!)
智琉はエネルギーでレッド・ドラゴンの前に壁を作り防御を試みた。しかし、シザーハンズはハサミを振りかざし、いとも簡単に防御壁を打ち破った。そしてそのままレッド・ドラゴンに斬撃を一振り浴びせた。
智「ぐっ!?」
レッド・ドラゴンが攻撃をうけた瞬間、智琉の体に強い衝撃が走った。その痛みのあまりに智琉は片方の膝を地につけてしまった。
智「な……なんだよ、これ?」
衆「アンノウンを使う者は自分のアンノウンと精神で繋がっている。アンノウンが攻撃を受ければその衝撃は繋がっている者の精神へと伝わる。攻撃を受け続けるのは避けた方がいい」
智「…………治るのかよ、この痛みは?」
衆「アンノウンが受けた傷はカードに戻せば時間経過で回復する。それに比例して精神で受けた痛みも引いていく。が、それはあくまで怪我や傷の場合だ」
智「何が言いたい?」
衆「言った筈だ、アンノウンとは精神で繋がっていると。もしもアンノウンが死ねば繋がっている者も死ぬという事だ」
智琉は驚愕した。無理もない、自分の命とレッド・ドラゴンの命は無関係ではなく、正に一心同体という事なのだから。
衆「アンノウンが死のうが生きようが、自分にはさして関係ないとでも思ってたか?分かっただろ、アンノウンの戦いは文字通り命懸けだ。それが分ったなら、これからの戦いには覚悟を持て。じゃないと死ぬぞ」
衆治の言う言葉は高圧的な態度がある反面、どこか智琉の事を思う感情も見て取れた。智琉は頭の痛みと衆治の言葉とで体がフラついていたが、すぐに正気を取り戻した。
智「分ってる、アンノウンの死が俺の死だとしても、そうで無かったとしても、俺は精一杯の事をする。そうじいちゃんと約束したんだ」
そう言うと智琉は地面から膝を離し、グッと立ち上がった。智琉の心には祖父の勤の事があった。智琉の事を自分の命を投げ出してまで守ってくれた勤の事が。その勤を思い出し智琉はアンノウンの戦いにおける命懸けを再確認した。
衆「そうか、お前もいろいろ背負ってるみたいだな。よし分かった、こっからは俺も本気でやる。それが望みだろ?」
智琉の決意に満ちた表情に、衆治も自らの力を全力で出す事を決めた。その言葉に智琉の顔からも少し笑みがこぼれた。その瞬間、再びシザーハンズがレッド・ドラゴンに向かって斬りかかって来た。その攻撃をレッド・ドラゴンは避けきる事が出来ずまたしてもその身にくらってしまった。即座に鋭い爪の生えた腕で反撃を繰り出すが、シザーハンズはそれを俊敏な動きでかわし一定の距離を保った。
智 (やっぱり、アンノウン自体のスピードじゃシザーハンズの方が完全に上だ。特に接近戦だとレッド・ドラゴンじゃあのスピードにはついていけない)
距離をとっていたシザーハンズが再び急速に距離をつめる動きを見せた。
智 (だけど、レッド・ドラゴンのエネルギーなら)
智琉は向かって来たシザーハンズに対し、レッド・ドラゴンのエネルギーを今度は鞭の様に細長くし、しなやかで素早い打撃を浴びせた。その攻撃はシザーハンズ自体には全て受け止められて通らなかったが、シザーハンズの突撃を防ぐ事は出来た。
智 (エネルギーなら、シザーハンズのスピードにも対抗できる)
衆「やる」
智琉の急速な成長に衆治は思わず感心した。
衆「なかなか良い動きになってきたな。じゃあ、こういうのはどうだ」
そう言うと衆治は、再びシザーハンズをレッド・ドラゴンに対して攻撃を向けさせた。
智「シザーハンズの動きは大体見て取った。落ち着いて対処すれば問題ない」
智琉は先程同様、レッド・ドラゴンのエネルギーを鞭状に変化させ迎撃の態勢をとった。その瞬間、シザーハンズは向きを変え回り込む様にしてレッド・ドラゴンの側面に回り、木と木の狭い間隔から飛び出して斬りかかって来た。
智「フェイントか。だが……」
智琉はシザーハンズに対し鞭での迎撃を行った。しかし、智琉が迎撃を始めた時には既にレッド・ドラゴンは攻撃を受け、シザーハンズは攻撃の届かない位置に身を引いていた。今のシザーハンズの動きは明らかに、さっきまでよりも格段にスピードが増していた。智琉は何が起きたのかも理解出来ないまま、レッド・ドラゴンが受けた攻撃による痛みに、またもや地面に膝をつけてしまった。
智「がっ…………どういう事だ?今のスピードは明らかに……。まさか今のがシザーハンズの……」
痛みに耐えながらも目の前の疑問に悩んでいる智琉に、衆治は口を開いた。
衆「残念だがそれは違う。今のはこのCCと言う空間の特質だ」
智「CCって……」
衆「お前自身が言っただろ。アンノウンの空間版みたいなものか、と。アンノウンにはそれぞれに固有の能力がある様に、CCで作られる空間には色々な特色がある。この"閉ざされた森"にもちょっとした仕掛けがあり、それを利用したってのが今の現象の種明かしだ」
この空間の異常性にまだ気付けていない智琉は、依然としてスッキリしない顔をしていた。
智「何があるってんだ?」
衆「お前のレッド・ドラゴンが攻撃を受けた時、シザーハンズはどこから来たか」
智琉は瞬時に、その時シザーハンズが飛び出してきた木を見た。よく見ると木と木の間には"KEEP OUT"のテープが張っていた。
智「テープが張ってあるけど、あれが関係あるのか?」
衆「ああ、それこそがこの空間の特質だ。無数の木々の間には所々テープで繋がれている。そしてそのテープで結ばれた木と木の間を通過した時、その速度は僅かな間だけ二倍になる。そういう特色がこのCCにはある」
智「速度が二倍……!」
衆「倍速で動くシザーハンズのスピードをお前は捉える事が出来るか?まあ、言っても二倍だ。必死になってやれば対応出来なくもないだろ。ただしその頃までお前が無事でいられるかまでは保証しないが」
次にシザーハンズから繰り出される攻撃を前に、智琉は息を呑んで警戒するしかなかった。
続く
《CC紹介》
閉ざされた森
特質:無数に生える木々の間にはKEEP OUTと書かれたテープが貼られた箇所が複数ある。そのテープが張られた箇所を通過した時、その動きの速さは一瞬だけ二倍に増加する。倍増するのはスピードだけであり、他の力はそのままである。




