男の子
少々時間が空いてしまいました。
え? どういうこと?
理解が追い付かない。優希が男の子? 母上は何故冗談を言っているのだろうか?
それに討魔の血は代々女の子しか産まれてこないはずである。それなのに優希が男の子?
ありえない。ありえないけど確認しなくてはならない。
優希を包んでいるタオルをそっと外す。
嘘だ、どうして優希が? 私はパニック状態になる。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
なぜ? どうして? 信じられない 何かがおかしい
様々な疑問が浮かんでくると同時に事実を認めたくないという思いも湧き上がってくる。
そんな半ば錯乱状態とも言える状況の中で、ふといつぞやの狐の言葉を思い出す。
神楽の血の歴史の中で一度だけ産まれてきたという男の話を。
信じる気などさらさらなかった。妖魔の話など信用できる訳もないし、ましてや化け狐の話だ。ヒトを化かす狐の話など誰が信じるだろうか。
しかし実際問題として優希は間違いなく男の子として産まれてきてしまった。
これが事実だとは認めたくないが、どんなに考えて、どんなに否定したところで、私の目の前には優希がいる。
これが事実だと、これが現実だと容赦なく突きつけられてしまう。
そして頭のどこかで優希は男の子なんだと認めてしまう。
でもそれでいいのかもしれない。
私がお腹を痛めて産んだ子なんだ。女の子だろうが男の子だろうが関係ない。
そう思えば少し気が楽になる。
私が優希を男の子だと理解し、受け入れるのにそう時間はかからなかった。
受け入れると同時に狐の話を信じてしまう。
ー忌子
その言葉を思い出し、頭のてっぺんから血の気が引いていく。
頭の中が真っ白になる。
優希がもしその男と同じ道を辿ってしまったら、
想像するだけで身体が震える、唇は真っ青に染まっていく。
「優希君のことについて色々と考えることはあるでしょうけどしっかりなさい。
琴音はもう一人の子供を持つ立派な母親なのですよ」
私を見兼ねた母上が私を叱咤するが、私のこの悩み、不安、恐怖はまったく別の場所にある。
母上に打ち明けたら信じてくれるだろうか。
たかが妖魔の話を。神楽の血にかつて男が存在していたなどという胡散臭い話を。
優しいけど厳格な母上だ。きっと信じてはくれないだろう。それが当たり前なのだ。
しかし私はそれを鼻で笑うこともできない。どこかで信じているのだ、あの化け狐の言うことを。
「大丈夫です母上。優希は私が産んだ子です。だから男の子だろうと女の子だろうと関係ありません。ちゃんと立派な討魔師に育て上げます」
それでも私は精一杯見栄を張る。
母上に心配をかけないように、私だって成長したんだと母上に見せつけるように。
「琴音も強くなりましたね。これなら私も安心できます。神楽の血で初めての男の子ということで大変になるとは思いますが頑張りなさい。
私はずっと応援していますよ」
「はい、母上。 これからも母親として精進していきます」
母上が認めてくれた。その嬉しさについ頬が緩む。
考えなければいけないことは山積みだけどきっと大丈夫。
それに優希があの男と同じ道を辿ると決まった訳じゃない。
それにそんな男が存在したかすら疑わしいのだ。
優希は優希だ。忌子の血なんて関係ない。
それにもし優希がその道を辿ろうとするなら引っ張り戻せばいい。
私は母親なんだ。それくらいはきっとできる。
問題にひとまず蓋をしたところで母上からもう一つ話というか伝言があった。
「神代様からお話があるそうです。落ち着いたらで構わないそうですから後で奥の部屋へ行きなさい」
「分かりました、母上」
神代
代々分家を統べるトップの家系である。表の舞台に決して上がらず裏の世界に生きるような血である。
その家の当主から直々に話があるということは相当なことだろう。
といっても十中八九優希のことについてだろう。
私自身は会ったことがないのでどんな人物なのか全く分からない。
神の代わりを名乗るくらいだ。物凄く厳しそうである。
正直行きたくないが無視する訳にもいかないので仕方なく覚悟を決める。
優希は何があっても守る。それだけは絶対だ。
重い足取りで襖の前まで来た。
この襖の向こう側に神代様がいる。すごく緊張してきた。
大きく深呼吸をする。
よしっ
覚悟を決めて襖を叩く。
「神楽琴音ただいま参上いたしました」
一拍おいて入ってくれという声が聞こえてきた。
「失礼します。この度は神楽家まで足を運んでいただき誠に恐縮でごz…
「堅苦しいのはよせ。どうにも疲れる。いつもと同じで良い」
私の言葉を遮った人物は私の予想とは全然違っていた。
フランクなおじいちゃん
そんな第一印象だった。失礼ではあるが威厳など微塵も感じない。
「そうですか」
ついいつものような口調で喋ってしまう。
「それで良い」
そう言って神代様はニカッと笑う。
なかなかにナイスガイである。
「それで神代様、どのようなご用件でしょうか?」
とりあえず話を促す。
「まだ堅いのぅ… まぁ仕方なかろう。
用件の前に自己紹介といこう。私の名前は神代 七星。
神代さんでも七星さんでも好きに呼んでくれて構わない。以後よろしく頼む。
あと神代の姓は祖先が勝手につけたものだ。
しかも『私が神の代理者だ』というくだらない思い上がりでな。全く愚かな男だ。
君もそうは思わないか?」
そう問いかけられる。
「まぁ実力が伴っていればいいんじゃないですか。
私は素質もないのでそんな恐ろしいことは言えませんが」
若干投げやりに答える。
「悪いことを訊いた。すまんな」
そう言って神代さんはばつが悪そうな顔をする。
「さて本題に入ろう。といってもそんなに長い話でもないし優希君をどうこうしようという話でもないからそう身構えずに気楽に聞いてくれ」
どうやら知らないうちに身体が強張っていたようだ。
私は聴く姿勢を改めてつくる。
そして神代さんが話し始める。
「神楽家の血が代々女児しか身籠らないのは知っているな?
その理由は不明だが、これまでの歴史の中で男児が産まれてきたことはなかったとされている。
だが実際には一度だけ男児が産まれてきたことがあったそうだ」
最近忙しく更新ペースが落ちそうです。




